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日経ビジネスの元久存・武富士新社長のインタビューはどう読むべきか

2004年06月12日

日経ビジネスの最新号に武富士の新社長元久存(もとひさめぐむ)氏のインタビュー記事がでました。元久氏は、松井証券の専務から、文字通り火中の栗を拾う形で、武富士の社長に転じた人です。まずその記事を抜粋します。文中の下線は、私が気になったところとして、勝手につけたものです。

『武井さんとベクトルは同じ』 - 武富士次期社長、元久存氏が語る事件と今後 -
日経ビジネス 2004年6月14号 P.13

(質問)事件を起こした会社に乗り込むことには、躊躇しなかった?
(元久)そんなこと、ごちゃごちゃ考えたって分からない。こういう時は、直感を大事にします。
(質問)武富士は過去に何度か、外部から招いた社長を数年で外しています。
(元久)僕は気にならなんだよね。オーナー企業の特徴ですから。松井証券もオーナー企業だった。それに、(武井保雄・前会長は)こういう(起訴された)状況ですから、経営に関与することはありません。暗示的なことはあるかもしれないけど。純資産1兆円という会社に成長させたんだから、良い哲学があると思う。それは遺産として引き継ぐべきです。
(質問)武井前会長の意向は聞こえてこないのですか
(元久)ないんです。(中略)
要するに、これまでは武井前会長の意向を聞く方が先になっていたんでしょう。部下は自分で考えない。その方がスピード感もある。だが、今は戸惑いながらも、変わってきている。
(質問)しかし、武井前会長が株式の60%以上を持っています。
(元久)経営の目指す方向は、株主利益の極大化です。ベクトルが同じなら、いいんじゃないですか。実力主義とか若手の抜擢なんか、いい方向性です。
(質問)役員が平社員に降格されるなど、「やりすぎ」という声もあります。
(元久)多少、批判を浴びている部分は見直します。でも、方法論の違いであり、考え方の根幹は変わりません。
まあ、批判が多いのは、社外とのコミュニケーションが不足していたからだと思います。オープンな会社にすれば、いろいろな声が入ってきて、未然に問題を防ぐことができるんです。(中略)
(質問)でも、「最大手の武富士が不祥事ばかり起こすから、業界の社会的地位が上がらない」という批判もある。
(元久)トップだから記事になりやすい。反省はしますけど。でも、離職率も改善しているし、良い方向に進んでいます。武富士が信頼を勝ち取り、業界全体のイメージも上げたいですね。
(質問)では、武富士前会長の名前を関した社名は、当然、変更しない。
(元久)あり得ないです。名前を変えて中身が変わらなかったら、消費者を欺く行為だと思います。
(質問)『武富士対山口組』という本が出されていても、変えないと。
(元久)そうだから、余計きちんとしていく。松井証券もオンライン証券で唯一、社名が漢字なんです。そして株式しかやらない。「株屋で何が悪い」という考えがある。そういうところで武富士にはすごく親近感をもっています。(以下略)

一読すると、武富士の新社長・元久存氏は、武富士のおかれた状況に対する現状認識が甘くて、改革しようとする意欲に欠ける人物との印象を受けます。特に、「多少、批判を浴びている部分は見直します。でも、方法論の違いであり、考え方の根幹は変わりません」、「トップだから記事になりやすい。反省はしますけど。でも、離職率も改善しているし、良い方向に進んでいます。」あたりの発言は、一部上場企業のトップが、盗聴という前代未聞に近い事件を引き起こした問題会社に乗り込む割には、いたって能天気のように映ります。

この言葉を額面通りに受けとめると、新社長は大胆な新機軸を打ち出すわけではなく、これまでの経営方針を踏襲することになります。率直に言って、わざわざ外部から招聘された人材の所信表明と考えると、物足りない内容です。 マスコミ受けも悪いでしょうし、武富士のイメージ回復には大きな効果も期待できません。それでは、何故それほど改革に前向きとも取れない発言を新社長は述べているのでしょうか。私は、これにはある種の計算が働いていると考えます。

消費者金融は極めてシンプルなビジネス・モデルです。外部より大量に調達した資金を、消費者に小口資金として貸し付けて、その利ざやで儲けるというビジネスです(この際、話を簡単にするために与信管理の部分は除きます)。より低利の資金が調達できて、より高利で貸付ができれば、利幅が広がります。貸付金利は、利息制限法、出資法で規制されているので、消費者金融各社での差はそれほどありません。一般企業の仕入れ原価に当たる調達金利の方は、各社の財務健全性により、差がつくことになり、これが各社の収益性を左右するわけです。武富士の場合は、業界最大手ということもあり、これまで格付け機関から比較的高い評価を得ていて、競合より低利で資金を調達することができました。それが今回の事件を契機に、一斉に格下げを受けることになり、競合に対する優位性が失われました。

また、消費者金融では、直接顧客を勧誘するプッシュ型のマーケティング手段は禁止されています。許されているのは、テレビCMをはじめとする広告や、街頭でのティッシュ配りなどの、プル方のマーケティングだけです。プル型のマーケティングでは、企業イメージが極めて大きな影響を持ちます。今回のトップの不祥事は、マーケティング面でも大きなダメージをもたらしました。

それでは、現在武富士に残されている経営資源の中で、競合に比べて優れているものはないのでしょうか。一つだけあるとすれば、馬力のある営業力だと思います。もともと学歴不問の実力主義の社風が浸透した武富士は、社員の長時間労働で有名です。それが行き過ぎて、かつては残業代不払いの告発を受けたこともあるくらいです。要するに、武富士では年齢、性別に関係なく、すべての社員が馬車馬のように働くわけです。これは、競合他社にない、圧倒的な強みとなります。

強力な営業力をもたらしていたのは、武富士の社風です。正確に言えば、裸一貫で武富士を築き上げた武井保雄・前会長に対する絶対的な尊敬の念です。色々な批判はありますが、武井保雄氏は人心を掌握するという点では、天才といえる人物です。社員は、優秀社員として武井氏本人から褒められたいがために、無理とも思える販売ノルマ達成に向けて必死で頑張るのです。その社風は、新興宗教に近いものがあります。したがって、現在でも武井氏個人と武富士のモーレツな社風を信じている人間は、役員をはじめ社員の中にも相当数いるはずです。

だからこそ元久新社長は、武富士の社風や武井氏個人を否定するような発言はできないのです。武富士の再建には、役員、社員の協力が必要です。彼らが信じるものを根底からくつがえすようなことを言っては、武富士に残された唯一の強みである、目標に向かって突き進む営業パワーを失うことになるからです。 これが元久社長の生ぬるいともとれる、発言の背景だと考えます。現在の社員の士気をそこなうリスクを避けることを第一に考えれば、当然とも思えるやり方でしょう。

新社長の「まあ、批判が多いのは、社外とのコミュニケーションが不足していたからだと思います。オープンな会社にすれば、いろいろな声が入ってきて、未然に問題を防ぐことができるんです」の発言に現れているように、風通しの良い社風を目指しているようです。その他にも、経営体制改善策としては、コンプライアンス委員会も設置されるなど、改革への動きは見られます。しかし、リテール部門の強化を目指すメガバンクを中心に、消費者金融業界の再編の速度は加速されています。新社長は、就任当初から強烈なリーダーシップを発揮するタイプではないようです。そのようなスローな心構えで、激動する消費者金融業界の中で、武富士は生き残っていくことができるのでしょうか。消費者の立場から言えば、別に武富士1社がなくなっても困る人はいないのですから。

【追記】最初は、新社長はそもそも武富士の単独再建の考えはなくて、将来は松井証券が救済するというストーリーも思いついたのですが、過激すぎる内容になるので、書くのはやめることにしました。松が竹(武)を吸収する話は、語呂もよくて、受けるような気もしたんですが....


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