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カネボウ小城氏、キアコン澤田氏 No.2からトップへの選択は似て非なるもの

2004年11月07日

カネボウの社長に就任した産業再生機構マネージングディレクターの小城武彦(おぎたけひこ)氏は、東大卒で留学経験もあるエリート通産官僚でした。今回は、小城氏が通産省(現・経済産業省)からカルチュア・コンビニエンス・クラブ、産業再生機構、そしてカネボウの社長へと転身した背景事情を紹介します。 情報源は、以前の記事(カネボウの新社長に就任した小城武彦氏は、取締役に選任されてはいなかった)と同じ『小城社長、機構入りから4カ月で大任 経営者志向する異色の元通産官僚』(日経ビジネス 2004年11月8日号 p.7)です。

通産省時代の小城氏は典型的な官僚エリートだった。省内をサンダル履きで歩き、腕まくりをしながら、法案の作成に没頭する。法案の準備時、国会会期中は徹夜もするが、それ以外の時は暇を持て余す。官僚特有の横柄さはなかったが、それでも多少の近寄りがたさはあった。

そんな小城氏に転機が訪れたのは1995年のことだ。当時、中小企業庁計画課の筆頭課長補佐だった同氏は、ベンチャー企業支援法案の作成に取り組んでいた。この法案は96年に各都道府県に国や県の出資によるベンチャー振興財団を設立する法律として日の目を見ることになる。だが、この法案の作成過程で小城氏は役所の限界を見た。手がけたベンチャー支援法はその作成過程で、景気対策を最重視する政治の圧力に翻弄された。結局は単なる地方振興策に塗り替えれられ、47都道府県のほとんどにベンチャー振興財団が乱立し、全く機能しなくなるという憂き目に遭った。

その一方で、多くのベンチャー企業経営者と出会ったことが、ベンチャー企業への転身を促すきっかけとなった。中でも、小城氏の能力を高く評価して転身を強く勧めたのが、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)創業者の増田宗昭社長だった。「民間企業は厳しいけれど面白い」。増田社長の引きでCCCに転職してからの小城氏は熱に浮かされたように仕事に没頭した。そして、わずか7年であるが確実に実績を残した。

もっともCCCでの7年間は、小城氏にとって、創業社長が常に経営権を握るベンチャー企業の限界も感じさせた。いくら実績を積んでも、CCCではトップになれない。雇われ社長でもいいから、自らの手で会社を切り盛りしてみたい。いつしか、小城氏の中でそんな野心が芽生えていた。再生機構入りした直後の8月上旬、小城氏にその動機を尋ねると、こんな答えが返ってきた。「企業再生は今後数年間の日本の最大の課題。それを担う再生機構に入れば、将来会社を経営する時に何かしら役に立つんじゃないかと思った」。

続いて、ファーストリテイリングの社長の椅子を蹴って、投資ファンド会社キアコンを設立した澤田貴司(さわだたかし)氏の事情もご紹介します。情報源は、前回の記事(キアコン澤田貴司氏の記事からローソン新浪剛史氏、グッドウィル折口雅博氏を連想)と同じ『「我慢より挑戦」の不惑 自在求めた参謀の決別』(日経ビジネス 2004年11月1日号 p.32-33)です。

ユニクロはやはり柳井さんの会社。自分が社長になっても、柳井さんはいろいろと心配して口出しするだろう。これは自然なことだけれども、自分は嫌な顔をするだろうし、それを見た社員に悪影響を与える」。もう1つ、起業に対する思いも社長受諾を躊躇させた。「米スターバックス創業者のハワード・シュルツ氏らに憧れていた。ユニクロの社長を引き受けたら、起業は諦めなければいけないとも思った」。

結局、澤田氏は、手を伸ばせば届くところにある急成長企業のイスを蹴ってまで、ゼロからの出発を選んだ。「自分がやりたいようにやりたい」。澤田氏自身の気持ちの中で妥協するわけにはいかなかったのだろう。独立した今、一番楽しいのは「すべて自分で決定できる醍醐味」と澤田氏。

両氏に共通している事情は、「創業社長の会社の中では決してトップになれない、あるいは形式上トップになったとしても実質的に完全に権力を掌握することができない」という、"生涯No.2のジレンマ"を感じていたことにあります。なお、ファーストリテイリングの柳井氏は、父親から家業の紳士服店を継いでいるので、厳密に言えば創業社長と定義することはできません。しかし、本来の家業とは全く違う形で、ユニクロというナショナル・ブランドとそのビジネスモデルを構築したのは柳井氏本人の手腕ですので、創業社長として扱うことにします。

一般的には、創業社長は例え第一線を退いたとしても、その影響力を未来永劫にわたり行使することは可能です。創業者は大株主であることは変わりないので、その気になれば実質的な経営権を保持し続けることになります。CCCの 筆頭株主は、40%近くを保有する増田宗昭氏です。ファーストリテイリングの場合も、筆頭株主は個人で27%を保有する柳井正氏であり、これに一族の保有株をあわせると35%を超えます。創業間もない企業は、上場企業といえども経営と所有が分化していないため、創業者(founder)の影響力は絶大なまま残り続けます。

もう1つの側面は、そのような企業では創業社長をカリスマとして神格化する雰囲気が強いということです。日々のオペレーションで感じる影響力としては、こちらの方が強いのかもしれません。増田氏、柳井氏とも本当にカリスマの称号に値するかは現時点では判断できません。しかし、社内的には少なくともそれに近い雰囲気があることは容易に想像がつきます。おそらく、No.2のポジションにいる人間は、創業社長の反対にあって自らの信じるところを実現できなかった、あるいはどうも実現できそうもないという予感を感じていたはずです。

このような背景事情から、小城氏、澤田氏とも経営トップの道を目指すことを選んだことは、両者の共通点です。しかし、両者の考え方の方向性に大きな違いがあることも事実です。それは、小城氏が「雇われ社長でもいいから自らの手で会社を切り盛りしてみたい」と考えたのに対して、澤田氏が自ら起業して「自分がやりたいようにやりたい」考えた点です。もし、澤田氏が小城氏と同じ考えであれば、喜んでファーストリテイリングの社長を引き受けていたはずです。それでは、この志向性の違いはどこから来たのでしょうか。

その違いは両者のバックグラウンドの違いにあるのではないでしょうか。小城氏は通産省からCCCへと転職しているので、いわゆる大企業の勤務経験ありません。万事関係機関との調整に忙殺されて意思決定の遅い官僚機構からCCCへ転身した小城氏にとっては、増田社長に権力が集中するベンチャー企業特有の意思決定のスピードの速さに圧倒されたはずです。その経験から、民間企業におけるトップの影響力の大きさが魅力的に映り、いつかは自分も民間企業のトップとして腕を振るいたいと感じのではないでしょうか。重ねて強調しますが、小城氏には大企業に勤務した経験はありません、あるのはむしろ企業としては特殊な部類に入るベンチャー企業の勤務経験だけです。実際には、普通の大企業では、一部の例外を除いて全てがトップの鶴の一声で決定されるようなことはありません。私がこの点が、小城氏の「民間企業の経営者にさえなれば、自分の意志を十分に貫き通すことができるはず」という、ある面での誤解を生んだのだと考えます。

一方、澤田氏の方はファーストリテイリング入社以前に、伊藤忠商事という大企業に勤務した経験があります。日経ビジネス記事の中でも、伊藤忠を退社した経緯として「大きな組織の中で既成の考え方を打破するのは難しい」と感じたことが明らかにされています。この経験から、民間企業のトップであれば自由に手腕を発揮できるということは、幻想に過ぎないということを肌で感じていたのではないでしょうか。このため、同氏の選択肢の中には「雇われ社長」という発想は全くありません。自分の方針を貫くには、たとえ小規模といえども自ら会社を起こすしかないとの結論に至ったのでしょう。

小城氏が再建を任されたカネボウは、良くも悪くも伝統のある会社です。数多くの子会社や取引先、労使の癒着や長期間にわたる経営不在といった問題を抱える会社です。どれとして一筋縄ではいかない難問ばかりで、企業風土もベンチャー企業のようにシンプルなものではありません。再生企業からトップとして乗り込んだとしても、トップダウン型に進むとは思えません。そういう場面に遭遇したとしても、「民間企業の雇われ社長」は魅力的なポジションと思い続けることができるでしょうか。それとも、トップとして全権を掌握するには創業するしかないと、澤田氏と同じ考え方に転向することになるのでしょうか。小城氏のカネボウでの今後を注目していきたいと思います。


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