ソースネクストの独自のマーケティング戦略は世界市場でも通用するか
2004年11月24日
街角でムエタイ・ボクサーがスパーリングしたり、英国風紳士がパソコンを追いかけたりするCMでおなじみのSOURCENEXTが、海外進出を計画している話をご紹介します。私は恥ずかしながら、そのプロモーションのインパクトの強さから、ソースネクストは単純に低価格だけを売り物にした会社だと誤解していました。今回一連の情報を集めてみて、同社がマーケティング発想に優れた会社であることを知り、考えを改めました。情報源は、『1980円ソフトで急伸のソースネクストが海外進出』(週刊ダイヤモンド 2004年11月27日 p.20)です。
ソースネクストは昨年、1980円という画期的な値付けのパソコンソフトで業界の話題を集めた。同社のヒット商品である「特打」「驚速」といった初心者向けの定番商品から、通常は数万円する業務用のソフトまで、次々に1980円に価格を設定。同時に家電量販店だけでなくコンビニエンスストアや書店など新たな販売チャネルを開拓し、徹底的に「数を売る」という独自のビジネスモデルを確立している。
意外に知られていないが、いまや家電量販店販売本数シェアでは26%と、国内ではマイクロソフトを抜いて1位。マイクロソフト、シマンテック、トレンドマイクロという"パソコンソフト3強"以外のメーカーが首位になっている国は、世界でも日本だけだ。販売本数では国内トップに躍り出た同社だが、廉価であるがゆえ売上シェアでは10%程度に甘んじている。このソースネクストが、なんと海外進出を目論んでいるという。
じつは、ソースネクストが販売しているソフトは自社開発製品ばかりではない。国内の同業他社の製品を代理販売するほか、日本での販売網を持たない海外ソフトメーカーとライセンス提携し、ローカライズ(現地化)したものも数多い。いまではサン・マイクロシステムズ、オラクル、IBMなどの商品を取り扱っており、現在の商品展開の割合は、自社開発ソフトと半々といったところだ。
こうした海外メーカーとのつながりをさらに強化させるべく、今年10月、同社では「海外アライアンスプロジェクト」が組織された。この部門が海外事業の軸となる。1年以内に提携する海外メーカーを100社に増やす予定という。そして、提携先とは日本国内向け販売だけでなく、世界市場に向けた販売戦略を構築していく。12月初めにも戦略を固め、1年以内に事業を本格化させる見込みで、海外の販売チャネルはオンラインを予定しており、価格も19.80ドルとすると見られる。
この記事を読む前にたまたま目にしたのが、Nikkei ITPro の『なぜ「IT産業のトヨタ」は出ないのか(上)』という記事です。これは、IT産業では世界のトップを走る独創性のある日本企業が誕生しない理由を考察したものです。この本文は、極めて興味深い内容ですので、一読をお勧めします。この中にあった【読者の意見】の中に、ソフトウェア産業の日米の違いを指摘している部分がありましたので、引用します。
IT産業における競争力は多くをソフトウエアに依存します。そのソフトウエアの開発能力においてアメリカ企業に大きく遅れをとりました。遅れをとった理由は,何のためにソフトウエアを開発するのかということを忘れたからです。ビジネス上における、ソフトウエア開発の目的は、ソフトウエアの販売や利用により儲けることです。売れないソフトウエア、役に立たないソフトウエアをいくら効率的に開発しても無意味です。
しかし、数字上の開発の効率を上げるだけなら、売れないソフトウエア、役に立たないソフトウエアの方が有利ですらあります。数字上の開発効率の向上が真の生産性の向上を妨げてきたのです。『ザ・ゴール』の中で、「工場のゴール(目標)は生産ではない。生産して倉庫をいっぱいにするのが目的ならば会社は生き延びられない」という意味の会話が出てきます。「倉庫をいっぱいにするのが目的」でソフトウエアを開発してきたのが、日本のIT産業ではなかったでしょうか。
アメリカ企業も日本の企業とソフトウエア開発の理解度は大差なかったと思います。しかし、利益を重視するアメリカ企業の体質が、売れないソフトウエア、役に立たないソフトウエアの開発を抑制したと考えます。
この【読者の意見】を要約すれば、日本ソフトウェア関係者はあまりも、製品として売れることに無頓着であった、すなわちマーケティング発想に欠如していたということになります。それでは、海外進出を狙うソースネクストも、日本企業の共通の問題として指摘された欠点があるのでしょうか。同社の松田憲幸社長が語るビジネス戦略を知れば、同社が他の日本の会社とは全く違う発想に基づいたソフト会社であることがわかります。情報源は、『ソースネクスト松田社長インタビュー 「1,980円ソフトはソフト市場を活性化する』です。
──1,980円という低価格での製品化には、さまざまな問題があったと思いますが
松田社長:まず、純粋な売上だけでなく、プロモーションという利点もあるでしょう。わたしが考えるマーケットとは、「価格×数量=マーケット」です。1億円の開発費がかかったソフトウェアの場合、1億円で1本売る方法と、1円で1億本販売する方法が、ビジネスモデルとしてすでに確立されています。しかし、我々はその中間で「2,000円×5万本」というビジネスモデルが現在1番やりやすい、と考えているのです。値段が初めから決まっていると営業もしやすいのです。100円ショップと同じ要領で、「何本仕入れれば、2,000円で販売させて頂けるか?」という1点に集中して仕入れをすればよいからです。リスクは、販売元である当社が受け持ちます。
また、1,980円という値段は非常に微妙な値付けであり、980円だと流通業の販売マージンが薄すぎて、受け入れられない。2,980円だと、値段的にコンビニでの販売ができない。コンビニなど、通常のソフトウェアは扱わない販路を確保してこそ、低価格が実現できているわけですから、2,980円も無理なのです。
しかし、この値段にすることで、音楽CDや映画のDVDと同列に並ぶことができたと考えています。ソフトウェアを“音楽CDや映画と同程度に気軽に購入できるもの”にできたのです。販売店に行くとわかりますが、いわゆる“大人買い”をしている方が非常に多いです。3~4本まとめ買いができる値段でもあるし、「あ、これ便利そう」と思い立って衝動買いできる値段でもあります。このような理由から、1,980円という値段付けがされています。
ユニークな価格設定の裏には、周到な消費者心理の分析と、販売チャネル政策がありました。マーケティングを最優先に発想している点では、これまでになかったソフトウェア会社といえるでしょう。ゲーム以外の分野で日本のソフトウェア会社が、世界で通用することができるのか、同社の海外市場挑戦を応援したいと思います。
なお、ソースネクストの低価格、シンプルな訴求方法をさらに推し進めた商品として、メディアカイト社からおやじシリーズというパッケージソフト20製品が発売されました。今回発売になったラインナップは、ソースネクストの売れ筋商品からセキュリティ、ユーティリティ系を除いたような品揃えです。ここまで「おやじ=パソコン音痴」とセグメンテーションされたソフトウェアを、全国の「おやじ」が買うのでしょうか。率直に言って、私は抵抗感を覚えます。
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