日本ではマーサ・スチュワートやマイケル・ミルケンのような復活劇は不可能?
2005年03月23日
西武グループの総帥堤義明氏が、ついに起訴されることになりました。特捜部の取調べに答える堤氏には、かつて巨大な西武王国に君臨していた独裁者としての面影もありません。自己を正当化するために無駄な抵抗を試みることなく、完全に観念した様子です。 情報源は、『堤容疑者きょう起訴、西武鉄道株で証取法違反』(2005年3月23日 日本経済新聞 朝刊 43面)です。
西武鉄道株を巡る証券取引法違反事件で、コクド前会長、堤義明容疑者(同法違反(虚偽記載、インサイダー取引)容疑で逮捕)が東京地検特捜部の調べに対し、「会社経営にはあまり興味がなかった。経営の責任者として(個人名義に偽装した株の問題を)放っておきすぎた」などと供述していることが22日、関係者の話で分かった。
証券取引等監視委員会は同日、堤容疑者を同容疑で特捜部に告発するとともに、法人としての西武鉄道を同法違反(虚偽記載)容疑で、コクドを同(インサイダー取引)容疑でそれぞれ告発。特捜部は拘置期限の23日、堤容疑者と2社を起訴する。
確かに「会社の経営そのものにはあまり興味がない」という堤氏の言葉には嘘はないと思います。自分が望んだわけではないけれど、厳父から後継者に指名されたので、今日まで西武王国を何とか守り抜いてきたというのが本音なのでしょう。 しかし、いまさらこんな言い訳を聞かされても、堤氏の声を神の声として恐れていた西武の社員は、馬鹿にされたようでたまったものではありません。社員の立場からすれば、嘘でも信念を持ってやってきたぐらいは、言ってほしいところだと思います。
上の堤氏の言葉からは、完全にふっきれたというか、達観した様子が伝わってきます。再起にかけたいという意欲もうかがわれません。もっとも会社経営に興味がなかったことを白状しているので、当然かもしれませんが。
堤氏と同じくインサイダー取引容疑で投獄されたのが、米国のカリスマ主婦マーサ・スチュワートです。しかし、同じ犯罪を犯した経営者ではあるものの、周囲の反応が堤氏の場合とは正反対の結果になりました。 情報源は、『マーサ牢獄からの復活』(週刊AERA 2005年3月28日 p.38)です。
米国主婦の憧れに登りつめたマーサ転落のきっかけは、些細な株取引だった。投資していた製薬会社、イムクローンが開発した新薬の認可が拒否されたことを知った彼女は、ニュースが公になる前に持ち株約450万円分を売却した。億万長者の彼女にすればほんの小さなこの取引は、後に数10億円のお金と名声の損失をもたらすことになった。
インサイダー取引だけなら罰金刑だが、イメージダウンを恐れた彼女のもみ消し工作が発覚、罪状は虚偽供述、共謀、司法妨害にまで膨れ上がり、5ヶ月の実刑判決を受けてしまう。CBSは番組を打ち切り、雑誌の広告主は一斉に撤退した。昨年度のオムニメディア社の損失は60億円以上と言われる。またこの時期、ビジネスウーマンとしてのマーサの冷酷性を暴いたゴシップ本も出版され、まさに泣きっ面に蜂。
これだけなら単なる有名人の転落劇だが、彼女が次に取った行動は全米をあっと驚かせた。上告すれば実刑を回避できるにもかかわらず、自ら進んで収監されたのだ。
マーサ・スチュワートと牢獄、有り得ない組み合わせに人々は息を呑んだ。同時に彼女の潔さへの賞賛が巻き起こった。刑務所でトイレ掃除をしたり、他の囚人にヨガを教えたりする彼女の姿はマスコミによって逐一伝えられ、世評は一気にプラスに転換していく。
一度はそっぽを向いたテレビ界も今や彼女のサポーターだ。秋からはマーサが中心の大型番組が2本スタートする。「アメリカ人は挫折から這い上がる話が大好きなんだ。気取ったイメージが鼻につくと言っていた連中まで今や彼女の味方」と自身満々のプロデューサー。
敗者復活が可能な米国らしい話です。勝ち組みと負け組みとがハッキリと二極分化しやすいのが、米国型資本主義です。一旦敗者の烙印を捺されても、再度勝者を目指せるのも米国社会です。一方、日本は依然として敗者が再起するのが難しい社会です。一度失敗して見事再起を果たした経営者の数も、それほど多くはないと思います。
有名どころで思いつくのは、ヤオハン倒産を乗り越えて、いまなお現役で活躍している和田一夫氏ぐらいです。しかし、和田氏が現在経営コンサルタントとして指導している現場は、上海の国際経営塾です。完全に日本社会で認知されているとは言い切れないでしょう。
そのような日本では、単純に勝ち組み・負け組みの価値観だけを吹き込まれても、挽回不可能なリスクを取ろうという人間が、簡単に増えるとは思えません。もちろん、若い世代を中心に日本人の意識も徐々に変化しつつはありますが。
これから堤義明氏は、何をするのでしょうか? 世間の目から隠れた隠遁生活で一生を終わるつもりでしょうか? 経営の第一線から離れたとしても、堤氏が莫大の資産を全て失ってしまうわけではありません。この資産を社会のために有効に使う道も考えられます。
ライブドアとニッポン放送の一件で日本でも敵対的買収が、にわかに注目を集めるようになりました。1980年代の米国のM&Aブームに火をつけたのが、格付けの低い社債(ジャンクボンド)を利用した資金調達方法です。この方法を編み出したのがマイケル・ミルケンで、一時は「ジャングボンドの帝王」と呼ばれていました。
巨万の富を築いたミルケンも、最後にはインサイダー取引や株価操作等の罪で、罰金2億ドルを含む実刑を受けることになりました。しかし22ヶ月間を獄中で過ごした後に、すぐさま社会貢献活動を目的に各種の財団を創設します。医学や経済分野の研究機関Milken Instituteは、輝かしい業績をあげ、社会貢献家(Philanthropist)としての同氏の名声も不動のものになりました。これも、また米国らしい話です。
スポーツの振興に積極的なのが西武グループの特徴です。堤義明氏個人としも国際オリンピック委員会の委員を務めるなど、アマチュア・スポーツの支援に尽力した実績もあります。スポーツ分野へのビジネスの拡大は、先代堤康次郎氏譲りというよりは、義明氏個人の関心から来たものとも推察されます。もし、アマチュア・スポーツに興味があるのならば、余生は私財を投じてこの分野での社会貢献活動で過ごすのが一番いいように思います。
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