『俺のハンバーグ山本』の記事からマクドナルドのマーケティング戦略を考える
2005年07月07日
カレーライスと同じく子供の好きなメニューの代表といえば、ハンバーグです。このハンバーグを大人の男性向けの看板メニューとして提供しているところがあります。情報源は、『俺のハンバーグ山本――「俺の部屋」の雰囲気』(2005年7月6日 日経流通新聞MJ 15面)です。なお久々のマーケティング戦略系の投稿ということで、今回は内容を増量しました。
坂道を下ると突如、目に飛び込んでくる「山本」の文字。東京・恵比寿に5月末オープンしたハンバーグ店が地域の話題を集めている。ラーメン店を展開するムジャキフーズ(東京・渋谷、田代隼朗社長)の新業態「俺のハンバーグ山本」だ。 インパクトの強い店名は山本昇平店長の名前にちなんだ。
看板商品は和牛で作った「俺のハンバーグ」(1500円)。はしを入れると肉汁がじゅわっと流れ出る。中心部に生ハムで巻いたコーンクリームを入れ、まろやかさを出した。デミグラスソースはみそを隠し味に加えた濃厚タイプだ。ランチタイムはごはんとみそ汁、サラダ、野菜と果物を搾ったミニジュースがつく。
この男性向けハンバーグも話題から思い出したのが、ハンバーガーのマクドナルドのマーケティング戦略上の問題点です。まずは、マクドナルドの苦境を紹介します。 情報源は、『「100円戦略」のつまづき』(週刊東洋経済 2005年7月2日 23ページ)です。
日本マクドナルドの業績回復に急ブレーキがかかった。6月17日、2005年6月中間期の業績見通しを大幅に下方修正。5月9日の第1四半期決算発表時点では33億円と公表していた予想経常利益は、わずか1億円強にとどまる見込みだ。第2四半期だけでは約28億円の経常赤字に転落する(04年第2四半期は9億円の黒字)。
赤字転落の主因は、4月19日に始めた100円メニューだ。チーズバーガーやドリンク類などいくつかの定番商品を100円に値下げした。ワンコイン化による値ごろ感を出すことで、既存店の新規顧客の獲得を狙ったものだ。「基本的な戦略は客数を増やすこと。マスビジネスで客数と客単価を同時に上げることは不可能。客単価を下げて客数を伸ばせば利益の絶対額が必ずついてくる」(5月のIR説明会での原田社長)という読みだ。
実はこの100円メニューは、米国やドイツ、ブラジルなどで実施、成功を収めつつある。米国では1ドルメニューで顧客獲得に成功、それをセットや他商品への追加販売につなげることができた。こうした経験からマクドナルドは、今回の誤算は単に時期的なずれ込み、一時的な現象という認識を崩していない。
だが、もくろみどおり客単価は回復するのか。マクドナルドは、かつての「安売り」イメージが色濃く残っている。100円商品の投入によって「安いハンバーガーの店」というブランド・イメージが一段と強化されてしまってはいないだろうか。となれば、客単価の回復に予想外に時間がかかるリスクもありえる。
アップルコンピュータ日本法人の元社長原田泳幸氏が、マクドナルド社長に就任したのが昨年2月です。商品の作り置きをやめて出来立ての提供や、社員の意識改革によるサービス向上など、原田社長の大胆な戦略転換で業績にも復調の兆しが見えはじめたのも事実です。それが100円メニューの開始により、低迷基調に舞い戻ってしまったというのが現状でしょう。
これをローカルマーケットの事情を無視して、グローバル戦略を画一的に適用したマネジメント上の問題ととらえることもできますが、今回はその種の分析はとりあえずパスします。今回は論点を、マクドナルドのターゲットユーザの問題に絞ります。
現在の同社のCMや商品戦略を見る限り、強く男性ユーザに訴えかけるものはありません。しかし、先の俺のハンバーグにもあるように、男性向けのハンバーガーという製品コンセプトも十分に成り立つはずです。実際に米国のハンバーガーチェーンでは、男性ターゲットに絞ったマーケティング戦略を開始したところも珍しくありません。 情報源は、『米バーガー大手、若い男性に回帰、お色気CMや特大路線、「健康」だけではパワー不足』(2005年6月10日 日経流通新聞MJ 13ページ)です。
米ハンバーガー大手が本来の中心顧客層である10代後半~30代前半の男性客の囲い込みに力を入れている。女性や高齢者層の開拓を念頭に置いた低カロリー・メニューの導入が収益増に結びついていないためで、同層を狙った宣伝広告やメニューの開発を相次いで強化。高収益が見込める中心顧客層に再び照準を定めている。
カールスジュニアは5月後半、人気女性タレントのパリス・ヒルトンさんを起用したテレビCMを流し始めた。露出度の高い黒の水着を着たヒルトンさんが挑発的なポーズで洗車をしながら主力商品「スパイシー・バーベキュー・シックスダラー・バーガー」にかじりつくという内容。
業界2位のバーガーキングは5月中旬、米プロフットボールNFLと初の公式スポンサー契約を結んだと発表した。「当社の中心顧客層はアメリカンフットボールに情熱的」と説明し、若い男性客の獲得強化が狙いであることを強調した。
若い男性向けに高カロリー・メニューを拡充する動きも目立つ。ハーディーズは6月中旬、1000キロカロリー前後の「スパイシー・バーベキュー・シックバーガー」を発売する。
ハンバーガー各社はここ数年、消費者の健康志向の高まりと顧客層の拡大を目指し、サラダ・メニューの拡充など低カロリー路線を強調してきた。しかし多くの店では、実際に低カロリー・メニューを注文するのは一部の顧客に限られ、収益増に結びついていない。
そこで各社は一部消費者の声に配慮して低カロリー・メニューの販売を続けながら、男性18~34歳の層に対するマーケティングの再強化に乗り出している。同層は「顧客構成比では25%にすぎないが、売上高で50%を占める」(バーガーキング)ので各社の営業戦略のカギを握ると見られている。
マクドナルド以外の他社は、収益に結びつかない低カロリー路線に見切りをつけ、高カロリー・高価格の男性向けメニューの投入で収益の向上を図っています。 それでは、マクドナルドはなぜ他社のように大胆な戦略転換ができないのでしょうか?
それはマクドナルドが業界のリーダーだからです。マクドナルドは業界のリーダーとして、ハンバーガー全体のイメージダウンを招くリスクのある戦略は打てません。昨年公開されたSUPER SIZE MEという映画があります。これは、マクドナルドのハンバーガーを1日3食1ヵ月間食べ続けると、身体にどのような変調が起こるかを実験したドキュメンタリー(?)です。
ファーストフードが健康に悪影響を及ぼすことが本当だとしても、有害なファーストフードを販売しているのはマクドナルドだけではないので、同社だけが非難の矢面に立つのもおかしな話です。しかし、ファーストフードの代名詞となっているマクドナルド対しては、世間の目はことのほか厳しいものになるのが現実です。これが業界リーダーの宿命というものでしょう。
ファーストフードがヘルシーであることを主張することを義務づけられたマクドナルドが、いまさら他社と同じように高カロリーメニューを投入することはできません。ターゲットの絞込みもできずに、万人に愛されるファミリー路線を進むしかありません。メニューで他社に対抗できないのであれば、リーダーが取るべき戦略は規模が頼りの低価格戦略ということになります。こうして考えらたのが、1ドルメニューによる価格破壊でしょう。
他国で通用したこの低価格戦略が、関連販売に結びつかずに収益が悪化したというのが、日本マクドナルドの現状だと考えられます。それでは、このまま100円メニューを継続していれば、マクドナルドの業績は好転する可能性はあるのでしょうか? 私はその可能性は極めて低いと思います。
値下げ戦略の狙いは、値下げした時にできるだけ多くの新規顧客を獲得することにあります。しかし、その効果には持続性はありません。100円メニューが定番として常態化してしまえば、それ以上の顧客創造は見込めません。特に、日本ではウォールマート型のEDLP(Everyday Low Price)戦略が奏功しないのは、EDLP戦略を採用した西友が苦戦していることからも明らかです。
また、低価格戦略には消費者に刺激を与え続けるためは、さらなる値下げが必要となるといった麻薬のような危険性もあります。結果として収益構造は、ますます悪化する負のスパイラル構造に陥ってしまいます。
それでは、いったい日本マクドナルドはどうすればいいのでしょうか? まずは低価格路線を止めて、通常価格に戻すことでしょう。消費者にとっては、値上げとなるわけですから、価格アップに見合うだけの付加価値を提供できなければ、顧客は当然逃げてしまいます。実は私には高付加価値製品の妙案があります。と言うのは嘘で、これ以降は何のリアリティもない思いつきになりますので、読み飛ばしてもらって結構です。
解決策は、エコナクッキングオイルを原材料に使った製品の投入です。本当にヘルシーなハンバーガーを食べたいという需要はあるはずですし、そういう人にとってはある程度価格が高くなっても構わないでしょう。
「エコナ・バーガー(仮称)」が実現するかどうかは、マクドナルドというよりは、エコナの製造元の花王側の決定にかかってきます。おそらく業務用のエコナという発想はないでしょう。マクドナルドの需要をまかなうほどの製造能力があるとも思えません。花王が設備増強に踏み切れば可能性はありますが、堅実経営の花王がそんなリスキーな投資はしないでしょうし。
★ランキング絶不調につき、『人気ブログランキング』をクリックしてください。
【本件に関係した投稿】
看板商品は和牛で作った「俺のハンバーグ」(1500円)。はしを入れると肉汁がじゅわっと流れ出る。中心部に生ハムで巻いたコーンクリームを入れ、まろやかさを出した。デミグラスソースはみそを隠し味に加えた濃厚タイプだ。ランチタイムはごはんとみそ汁、サラダ、野菜と果物を搾ったミニジュースがつく。



