『Googlezon時代』で『ユビキタス』の夢よもう一度と目論む(?) 野村総研
2005年07月08日
先日、急速に普及しているハードディスクレコーダーが、消費者のCM飛ばしに与える影響に関する調査結果が発表されました(HDDレコーダーのCMスキップでも「CM価値下がらない」)。
CMスキップは「ほぼ毎回(9割以上)」するユーザーが45.5%と最多。「頻繁にする(7~8割)」が23.6%、「半分程度(4~6割)」が12.6%だった。平均すると、69.2%のCMがスキップされていることが分かった。
この結果について広告主にヒアリングしたところ、リアルタイム視聴が微減にとどまっているため、テレビCMの価値は下がらないという意見がほとんど。CMスキップを問題視する声はなかったという。
さぞかし広告代理店とテレビ局は、今回の調査に喜んでいることでしょう。実は、この種の調査は今回が初めてではありません。5月末には、野村総合研究所(NRI)が、『企業の広告・宣伝手法は、マスメディアから個別対応のITメディアへ~HDRユーザの過半数がテレビCM80%スキップ、今年の損失総額は約540億円に~』というタイトルのレポートを発表しています。このレポートが、テレビ広告業界内に大きな反響を呼び起こしていたのです。情報源は、『CM飛ばしで野村総研試算――「損失540億円」に電通・民放が反発』(2005年7月7日 日経産業新聞 2ページ)です。
ハードディスク駆動装置(HDD)レコーダーのCM飛ばしによる広告費の損失額は540億円――。野村総合研究所(NRI)が5月末に発表した試算が広告・放送業界で波紋を呼んでいる。電通や民放キー局が試算内容の説明を要求。野村総研は「実際の見積額の試算ではない」という補足説明をホームページに掲載し、個別説明もした。ただ「見解の相違」(野村総研)も依然残り、業界内に不満がくすぶっている。
野村総研は4月にHDDレコーダーの利用状況について3000人を対象にインターネット調査をした。「HDDレコーダーの世帯普及率」は11.9%と想定。637人の同レコーダー利用者を対象にした。その結果、同レコーダーに録画した番組を見る「平均録画消費率」は34.2%、録画番組を見るときにCMを見ない「平均CMスキップ率」は64.3%だった。
この3つの数値にテレビ広告費2兆436億円(2004年、電通調べ)を掛け合わせ、「05年はテレビCM市場の約2.6%、約540億円の価値が失われる」と発表した。
このレポートにすぐさま噛み付いたのが、広告代理店とテレビ局関係者です。
この試算結果に反応したのが広告最大手の電通や民放キー局。広告主から問い合わせも相次いだため「試算の前提などに問題がある」(電通)とNRIに説明を求めた。
電通は「広告費はリアルタイムの視聴率に基づく取引実績。録画再生分は視聴率に含まれず取引対象でない」と指摘。録画番組のCMスキップによって広告費に損失が生じると試算するのはおかしいと主張した。
一方、野村総研は「ほかに市場規模を表す数字がないため試算で広告費を使ったが、現実に取引される広告費の損失を計算したのではない」と説明し、広告の価値のトレンド変化を数値化するのが試算モデルの狙いである点を強調した。「試算モデルでは、広告費を録画再生も含む広告の潜在的価値と仮定し、CM飛ばしで540億円の価値が顕在化しないという試算結果となった」と説明している。
広告・放送業界では「540億円はCM飛ばしによる広告費の損失ではない」という認識が広がりつつある。だが、「広告費を試算に使った点は誤解を招きやすく今でも納得できない」(電通)。野村総研も「試算方法について見解の相違は残っている」と根強い不満があることを認める。
野村総研が試算に使った計算モデルは、次のようなものです。
| 「テレビCMを視聴しない割合」 | = | 「HDR世帯普及率」 | × | 「録画消費率」 | × | 「CMスキップ率」 |
これに調査結果の数値を当てはめて、
| 2.6% | = | 11.9% | × | 34.2% | × | 64.3% |
「広告を視聴する時間が、2.6%減る」という結論が生まれたわけです。
実際に野村が独自に試算した結果は、この2.6%という数字だけです。それでは、なぜこれにテレビ広告費の市場規模を表す、2兆436億円をかけて、540億円という数字を発表したのでしょうか。次の2通りの表現を比べて下さい。
(A)視聴時間は2.6%減
(B)損失総額は540億円
(A)に比べて、明らかに(B)の方が、HDDレコーダーがCMスキップに及ぼす影響が大きいように感じられるはずです。2.6%という比較的地味な調査結果にインパクトを与ええるために、広告費の損失額に置き換えた節が見られます。この小細工が、テレビ業界関係者の反発を招いてしまったというのが、一連の騒動に対する私の見方です。
どうも最近の野村総研は、発表内容を印象づける効果を狙って、意図的にキャッチーな言葉を使う傾向が際立っています。そのやり方は、コピーライターのようにさえ見えます。例えば、最近こんな調査結果の発表が、野村総研からありました。 情報源は、“Googlezon”時代のビジネスモデルとはです。
Googlezon時代、ネット企業の二極分化が進む――野村総合研究所(NRI)がこんな見解を示した。Googlezonとは、Googleと Amazonを統合した架空の企業で、個人情報をがっちりつかみ、ユーザーの窓口になる有名企業だ。集客力を持たない企業は、Googlezonにサービスを提供する「イネーブラー(Enabler)型」となり、ポイント制を活用してGooglezonと連携していくという。
Googlezonは、2004年にWeb上でジョークムービーが公開されて話題になった架空の会社。「2015年までにGoogleとAmazonが合併して“Googlezon”となり、個別にカスタマイズしたニュースを配信してNew York Timesを追い散らす」というストーリーで、マスメディアの終えんと次世代メディアの可能性を示唆している。
「GoogleとAmazonが一緒になると、個人の行動が過去から将来まで見渡せる」とNRI情報・通信コンサルティング部の吉川尚宏部長は話す。Amazonからは購買履歴や買い物のクセという過去が、Googleの検索ワードからは、ユーザーが今何に興味を持ち、何をしようとしているかが読み取れるという訳だ。「例えば私が『愛知万博』を検索すれば、この週末にでも愛知万博に行こうとしていると分かる」(吉川部長)。
今度のキーワードは『Googlezon時代』ですが、この言葉も野村総研が作ったものではありません。今回の発表内容そのものも今さらの感があり、驚くほどの新規性はないように見えます。
「ユビキタス」という言葉が日本で普及するきっかけになったのが、野村総研が2001年に発表したレポート『ネットワーク利用の新たなスタイルが成立-ユビキタス・ネットワーク社会の萌芽を展望-』です。その後日本社会のIT化が加速されたことを考えると、野村総研が果たした貢献も認められるべきでしょう。また、ユビキタスの野村というブランドを使って、ビジネス的にも大成功したのかもしれません。『Googlezon時代』で夢よもう一度と願っているのでしょうか?
野村総研をはじめとするシンクタンク業界を取り巻くビジネス環境も、政府予算削減による受託研究の減少や、新興のネット調査会社の台頭によるマルチクライアント調査の受注減等の影響を受け、厳しさを増しています。「〇〇総研」というブランドがあれば殿様商売ができた時代は、もはや過去とものとなりつつあります。
このような環境変化を受け、シンクタンク各社ともマーケティングに積極的に取り組まざるをえない状況になりました。自社の調査業務に対する注目を集めるために、発表レポートのタイトルにも、できるだけインパクトのある言葉を使おうとする傾向に拍車がかかるのも当然でしょう。しかし、「CM損失額540億円」のような誤解を与えかねないタイトルは、少しやり過ぎかもしれませんね。シンクタンクには、公正中立なイメージも必要ですから。
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