雇われ社長には「一勝九敗」が通用しなかったファーストリテイリングのトップ交代
2005年07月18日
ユニクロのファーストリテイリングの玉塚社長の突然の解任と柳井会長の社長復帰が、ここ数日マスコミの話題になっています。私がこの発表を聞いて最初に思い出したのが、読売巨人軍の原辰徳前監督の解任劇です。まずは、玉塚氏の社長就任から退任をまでの軌跡を簡潔にまとめた、『玉塚ユニクロの3年――柳井会長と葛藤の連続、評価一転、減益で引導』(2005年7月18日 日経流通新聞MJ 6面)を紹介します。
玉塚元一社長の3年間は創業者(オーナー)、柳井正会長との葛藤の連続だった。若返りの理想ともに華々しく登場。いったんはオーナーから高い評価を得たが、経営の正念場に交代を告げられた。「雇われ社長」の悲哀が浮かび上がる。
「創業者がいつまでも残っているのはいけない。年をとるにしたがい知力、体力は衰える」。柳井氏が玉塚氏に社長を譲ったのは53歳の時。多くの経営者が60歳を過ぎても社長の地位にしがみつく中で柳井氏の掲げる理想は輝いていた。
だが玉塚体制の前途は険しかった。2000年、01年のフリースブームの反動で売り上げ、利益が急減。社員は中途採用の寄せ集めで疲弊していた。メディアは「神話の崩壊」と書き立てた。玉塚氏は短期間で社内をまとめ、地滑りを食い止めた。社長就任1年目となる2003年8月期は売り上げ、利益ともに目標を達成。柳井氏は当時「玉塚君はリーダーの素質を持っている」と高く評価した。
玉塚体制のピークは2年目の2004年8月期。カシミヤのヒットが追い風となり3期ぶりの増収増益。柳井氏は玉塚氏を「及第点」と評した。「僕としたら非常にいいことなんですよ。普通は言いませんから」。最大限の賛辞だといえる。
3年目の05年8月期は玉塚氏にとって重要な年だった。02年の社長就任時、柳井氏に約束したのは3年後の「4000億円の奪回」。達成すれば柳井氏から全幅の信頼を勝ち得ると考えたとしても不思議はない。ところが玉塚氏はここでつまずいた。2004年10月の秋物衣料が好調だったことを受け、冬物衣料の発注数量を積み増した。だが暖冬の影響もあって苦戦。値下げ処分のタイミングも遅れ、傷口を広げた。
05年8月期売上高は3600億円と目標に達しない見通し。だがそれ以上に柳井氏が問題視したのは減益だ。「ユニクロは回復基調にあるという油断があり、経営判断の甘さが出た」と断じる。
玉塚氏はリターンマッチを望んでいたに違いない。1~2年目は柳井氏から「及第点」をもらっていた。3年目に浮き彫りになった課題は自らの手で片づけたい――。だがついに、柳井氏から声はかからなかった。
「オーナーシップにこだわって何らかの事業に取り組みたい」。退任会見の席上、玉塚氏はこう心境を述べた。それは、今後への決意表明であるとともに、3年間、葛藤してきたオーナーに見せた最後の意地だった。
ファーストリテイリングと巨人のトップ交代劇には、次のような共通点があるように思います。
- 玉塚元一氏、原辰徳氏ともに若大将のイメージ(ファーストリテイリング社長玉塚元一氏を単なる若大将社長と見なす疑問)
- 両社とも過去の成功体験の呪縛(フリースブームと球界の盟主)から逃れられず、ほどほどの成功では許されない
- 就任時には快調なスタートをきって(業績の復調とリーグ優勝)、オーナーの信頼も厚かった
- 一転、一度の失敗でその責任を問われ、志半ばでの退社
- 解任を決定する独裁色の強いオーナーの存在
- 解任時に社内ポストを提示されるも、無念さを隠さずに拒否
名経営者の誉れが高いファーストリテイリング柳井正会長を、悪名高い巨人のナベツネこと、渡邉恒雄氏と同一視するつもりはありません。しかし、ファーストリテイリングは上場企業とはいえ、柳井氏は家族などを含め、発行済み株式の4割以上を握る事実上のオーナーです。その影響力は、むしろ渡邉恒雄氏よりも大きいことは確かです。
西武事件に見られるようにオーナー1人に権力が集中すると、多くの問題が生じます。このため、各企業とも外部メンバーによる委員会の設置や取締役会機能を強化する動きが見られます。特にオーナー企業の場合は、所有と経営の分離を図っていくのが正しい方向性です。
このようなトレンドを考えると、オーナーである柳井氏に権力が集中することになる社長復帰は、時代の流れに逆行することに他なりません。周囲の寄せる懸念に関しては、発表記者会見で柳井氏自ら次のように答えています。
――持ち株会社とユニクロにおける柳井氏の立場は。
「どちらも社長兼会長としてやる。より発展するには構造改革をやらなければならず、独断専行も必要だ。ただ1~2年のうちに社長の方はだれかに譲りたい」――権限が柳井氏に集中するが。
「いまは緊急事態で、だれかに権限が集中していなければならない。変化することに対する組織の抵抗は強く、自分でなければできない。最後の決断だ。ただ異常なことなので、早く正常な状態に戻さなければと思う」――緊急事態とは具体的に何か。
「2010年に売上高1兆円、経常利益1500億円という目標を考えると、残された時間はない。グローバルな競争が始まろうとしており、ぎりぎりの選択だった」
オーナーの専横との非難を浴びることを十分に承知した上での、まさに「背水の陣」の決断だったことがわかります。早すぎる決断にも見える社長解任の決定には、「オーナー経営者」だからこそ感じる危機感が存在するのかもしれません。
しかし、今回の解任劇でいま1つ釈然としないのは、玉塚氏が解任となった本当の理由です。柳井氏は自著『一勝九敗』の中で、自ら数々の失敗を繰り返してきた経験を紹介し、失敗を恐れてチャレンジしないことを諌めています。小さくまとまらなければ、9回の失敗があったとしても1回ホームランを打てば帳尻があうという考え方です。
その柳井氏が、直近1年間の業績不振のせいだけでリベンジのチャンスを与えずに、玉塚氏をクビにしたのであれば、他人の失敗に対しては寛容でないことになります。どうも腑に落ちません。むしろ、柳井氏が問題にしたのは、玉塚氏が失敗したことではないと考えるが妥当かもしれません。
玉塚氏は「小さくまとまっていて」逆転ホームランを打つ「成功の可能性がない」と、見切りをつけられたと見るのが正しいような気もします。 「フリース伝説」の成功体験があるファーストリテイリングは、いまなお常に大ホームランを狙うことが要求されている企業です。
「1000万枚売れる素材を探してきてほしい」。ファストリの取引先は商品開発の担当者に会うたびにそう頼まれるという。答えはいつも同じだ。「なかなか、いいものがなくて……」
ファストリにはフリースの成功体験が残っている。ピークの2000年に2600万点を売り切った。日本では知られていない素材、高価なため普及していない素材を驚くほど安い価格で売るというのがファストリの必勝パターンだ。
しかし玉塚体制の3年間でフリースに匹敵するほど爆発力がある素材はカシミヤくらい。それでもピークの04年は160万点にとどまった。05年には「GIZA45」という綿花の種名をそのまま商品名にしたシャツを発売。アパレル専門家は希少素材の大量調達に驚いたが、消費者に与えるインパクトは小さかった。
04年秋に投入した新型フリースは素材にこだわったあまり、消費者からそっぽをむかれた。
野村証券アナリストの正田雅史氏は「世界中探しても日本人が知らない素材はもはやなく、従来の成功パターンは通用しない」とみる。
ファーストリテイリングの社長は、1000万クラスの商材といった大ホームランを常に狙わなければならないのでしょうか? 単純に計算しても、1000万枚を達成するには、日本国民の1割が購入しなければなりません。他人との違いをアピールする目的で購入する意識の高いファッション製品では、途方もない目標といえます。
果たして柳井氏は自らが陣頭指揮を取るここ1、2年のうちに、悲願の大ホームランを打つことができるのでしょうか? もし1000万クラスの商材を開発できなければ、問題は玉塚氏個人ではなかったことの証明になります。個人的には、フリースの成功体験を忘れて、小刻みなヒットで安定的な収益を目指す企業への体質変換を考える方が現実的な回答だと思います。いずれによ、経営の基本は結果責任です。柳井氏がどのような新機軸を打ち出してくるのか注目です
【追伸】
こんなニュースもありました。
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