できレースと噂される産業再生機構のカネボウ入札に参加する各社の思惑
2005年07月29日
7月28日の日経新聞朝刊5面によれば、産業再生機構がカネボウとカネボウ化粧品のスポンサー企業を選ぶための一次入札を8月15日に実施することを決定したそうです。再生機構が再建に取り組んでいる案件の中では、カネボウはダイエーと並ぶ大型案件になります。一次入札への注目度も高いと想像するのが当然なのですが、関係者の間では全く盛り上がっていないようです。ありていに言えば、この入札は花王の勝ちが決まったできレースと見る向きが多いからです。 情報源は、「本命は花王」にシラける再生機構のカネボウ入札です。
再生機構は、カネボウ・カネボウ化粧品の経営権譲渡を巡る入札参加に対する回答を7月14日に締め切った。
資生堂、コーセー、仏ロレアルといった化粧品大手のほか、エステー化学やロッテ、中国最大の製薬会社日本法人、三九製薬が名乗りを上げた。このほか、複数の投資ファンドや花王、米 P&Gなど、合計10社以上が参加する意向を表明した模様だ。
しかし、入札に参加を検討した複数の企業から「既に花王が有力候補」という見方が聞こえる。花王は入札について「ノーコメント」とだけ語っている。入札に参加を表明した企業の間で広く花王本命説が飛び交う理由は、カネボウ・カネボウ化粧品の経営権の評価額にある。
再生機構はカネボウ化粧品とカネボウの再生に総額4620億円(本誌推定)もの資金を投じてきた。再生機構としては投入額以上で売却したいのは当然のことだ。再生機構の幹部は「花王がカネボウの化粧品事業売却の時に提示したのは4000億円以上。当時に比べて収益は格段に上がっている。ふさわしい値段がつくと期待している」と譲渡価格に自信を示す。
しかし、カネボウを見る周囲の目は冷ややかだ。既に複数の投資ファンドや企業が事業価値の査定を実施している。ある企業の試算ではせいぜい2800億円程度だった。再生機構が投資した金額を 1800億円ほども下回る評価額だ。試算した企業の幹部は「一般的に投資期間が短いファンドはさらに低額しか出せないはず。3000億円以上を見込んでいるのは花王だけ」と言う。こうした見方が広まったことが花王本命説につながっている。
譲渡先として最も有力なのは、花王単独ではなく花王を中心に複数の異業種企業が組んだ連合体と見られている。再生機構の顔も立ち、最も高い買い手に売り渡すことができると見られているためだ。
この記事によれば、再生機構はカネボウの売却額として4600億円以上を予定しているようです。再生プランの実施の結果、カネボウの収益構造も格段に向上しているので、企業価値も十分にそれに見合うはずとの自信をバックにした超強気の根付けです。本当に再生機構が考えるように、カネボウの企業価値はアップしたのでしょうか?
日経産業新聞による調査『化粧品――コーセー、2位に迫る(点検シェア攻防本社調査)』(2005年7月25日 日経産業新聞 19面)によれば、2004年の化粧品のマーケットシェアは次のようになっています。
- 資生堂:17.5%(対前年比変動なし)
- カネボウ:14.0%(マイナス)
- コーセー:12.8%(プラス)
- 花王:8.1%(プラス)
2位のカネボウのみが2年連続でシェアを落として、その分を下位のコーセー、花王が奪っている構造が見て取れます。つまりカネボウのブランド力は年々低下しているということになり、化粧品事業の価値は下がっているということです。 再生機構が主張する企業価値の増加とは、化粧品事業以外の部門での増加と考えるべきでしょう。
花王にしてみれば、元々4000億円で買えたかもしれないカネボウの化粧品事業を、企業グループを形成して他の事業と一緒に4600億円出して買うということになります。花王と組む企業がどの程度の金額を負担することになるのかは、現状では不明です。もしその金額が600億円を下回るようであれば、花王は価値の下がったものを、前よりも高い値段で買わされることになります。
花王とカネボウ化粧品事業のシェアを合算すれば、22%となり一気に資生堂を抜いてトップに踊り出ることが可能です。もし、カネボウが資生堂かコーセーの手に渡れば、上位2社との差はますます広がることになるので、花王としては実際の企業価値以上の金額を積んでもカネボウが欲しいわけです。
化粧品では後発である花王が、カネボウのブランド力を欲しがる理由は理解できます。製品構成的にも基礎化粧品をメインとする花王にとっては、カネボウの製品は補完関係にあり魅力的なはずです。
一方、フルラインの製品を揃える資生堂、コーセーにとっては、カネボウ製品とは重複する部分も多く、一緒になっても花王ほどのメリットは期待できません。それでは、花王本命のできレースに参加する資生堂とコーセーの狙いはどこにあるのでしょうか? 先に紹介した記事にはこう述べられています。
複数の会社を競り合わせることで、評価額を上げたいという(再生機構の)思惑はもっともなものだ。ある入札参加希望企業の幹部は、「再生機構のアドバイザーである野村証券から『入札に参加してほしい』という話があった。野村がいろいろな業界の約100社に声をかけているようだ」と、入札参加の要請にかなり力が入っている様子を話す。
おそらく野村證券、そのバックにいる再生機構の要請に応じて参加したというのが、資生堂とコーセーの本音に近いのではないでしょうか。また、自分が参加することにより、再生機構の思惑通りに花王が支払う金額がその分高くなれば、ライバルのマイナスは自分にとってのプラスという発想が働いているのかもしれません。
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カネボウ凋落―「日本的経営」の終焉
山川 猛
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