資本の論理を最優先する産業再生機構のスポンサー選定(九州産交)
2005年09月01日
産業再生機構の女性幹部として注目を集めているのが、マッキンゼー出身のマネージングディレクター秋池玲子(あきいけれいこ)氏です(産業再生機構で活躍しているのは東大卒の男性ばかりではない(秋池玲子氏))。その秋池氏が女性取締役として再建の陣頭指揮を執ってきた熊本市に本拠を置く九州産業交通(九州産交)の再生プランが最終局面を迎えています。
再生機構の支援企業の中では、ダイエーやカネボウといった大型再生案件が注目を浴びていますが、実はこの九州産交は2003年8月にスタートした機構の支援先の第一陣に選定された企業です。丸2年を費してきた再生企業のスポンサーの決定基準は、機構の再生モデルを象徴するものです。さらに年内に決定するカネボウのスポンサー企業の選定の行方を占うといった面でも、その重要性は無視できないものでしょう。 情報源は、『HISグループ、九州産交のTOB、全株取得で48億円――地元の倍以上』(2005年8月30日 日経産業新聞 18面)。
九州産業交通(熊本市)のスポンサー(支援企業)に決まったエイチ・アイ・エス(HIS)とエイチ・エス(HS)証券は、九州産交株式の公開買い付け(TOB)要領を発表した。買い付け価格は1株218円で、発行済みの全株(約2090万株)を買い付けた場合の取得金額は47億9500万円。産業再生機構の最終入札で地元連合が提示した金額(23億円)の2倍以上であることが分かった。
九州産交株の買い取り価格は再生機構と入札参加者の守秘義務契約で明らかになっていなかった。記者会見したHS証券の三嶋義明執行役員(投資企画本部長)は「価格は九州産交の事業・資産内容を精査した上での結論」と語った。
九州産交のスポンサー選定に関しては、再春館製薬を中心とした地元企業グループと全国規模で運営するHISグループとの間で、かなりの綱引きがありました。最終的にHISグループに決着した背景は、次のようなものです。 情報源は、『九州産交スポンサーHIS選定の波紋(上)地元、価格・実績及ばず』(2005年7月27日 日本経済新聞 地方経済面(九州) 14面)です。
「公共性の高い事業を抱える九州産交は地域の事情を熟知した地元企業が引き受けるべきだ」とする県や市、経済界の願いはかなわなかった。決め手になったのは株式の買い取り価格。
25日の記者会見で再生機構の松本順執行役員は「第一義的には価格を評価した」と明言。再春館製薬とHS証券が提示した金額にはほぼ倍の開きがあったもよう。ある熊本商議所の議員は「あんな高値を提示するとは。向こうの出方を甘く見た」とほぞをかむ。
地元連合が路線バス事業をテーマの中心に据え、「地域の足を守れ」と、いわば情に訴える作戦を展開したのに対し、再生機構は「九州産交の企業価値をいかに高めるか」(松本氏)という資本の論理を盾に押し切った格好だ。背景には企業再生モデルをどう描くかという考え方の違いがあった。
再生機構の使命は、業績不振企業を再建してその企業価値を最大化することにあります。企業価値の最大化とは、簡単に言えば高い値段でスポンサーに売却することです。再生には国民の税金が投入されているわけですから、資金の回収という側面では国民の利益にかなうものでしょう。
問題は地域経済への影響という側面です。九州産交のスポンサーに選ばれたHISグループの形態は投資組合です。資本の論理そのものである投資ファンドがスポンサーになれば、九州産交のさらなるなる切り売りや、不採算部門の撤退が進むことを心配した地元企業側が、急遽対抗グループを組成したというのが実情でしょう。
現在進行中のダイエーの再建にも、企業価値の最大化を最優先する機構側のやり方に警戒感を示す動きも見られます。情報源は、『水戸市長加藤浩一氏――再生機構は地域に配慮を』(2005年8月31日 日本経済新聞 地方経済面 (茨城) 41面)です。
○…「市民生活が脅かされることのないよう対応しないといけない」。ダイエーが水戸店の10月末での閉鎖を決めたことについて、同社の再建を支援する産業再生機構に強い口調で注文をつける。「公的な機関なのだから地域再生にも責任がある」
○…今月11日にダイエーが撤退を発表すると翌12日すぐさま上京。再生機構に生鮮食料品などの物販機能を残すよう要望している。「(ダイエーは)閉店までにいろいろな企業にあたっていくだろうが、売却するにしても周辺の住民の生活が確保されることを条件にしてほしい」
総選挙の争点となっている郵政民営化と似たような話です。おそらく水戸市長は郵政民営化に反対でしょう。ダイエーのように市民生活に重大な影響を及ぼすような店舗の閉鎖を目の当たりにしている人の中には、郵便局が民営化されれば、資本の論理が優先されることなり、郵便局もバタバタ閉鎖されることになると類推している人も多いでしょう。心情的には理解できる話ではあります。
しかし、郵政民営化と再生機構の話は根本的に異なります。九州産交やダイエーは、元々民間企業であり、機構が支援したからといって公共サービスになるわけではありません。民間企業のままであっても、いずれは倒産していた会社です。民間資本のイトーヨーカ堂でも、業績不振店舗からの撤退計画を推し進めています(ヨーカ堂、30店舗閉鎖へ 総合スーパーの退潮鮮明に)。再生機構に過度に公共性への配慮を求めることは誤りでしょう。
一方、郵便局は元々公共サービスであったものを、民営化しようとするものです。当然ながら、民営化されても、資本の論理を最優先する再生企業よりは、その運営に公共性が配慮されるべきです。郵便局がなくなったような地域に、コンビニが進出するようなマジックは、まず起こらないでしょうし。
なお、静岡7区から衆院選に出馬している自民党の片山さつき候補の夫である片山龍太郎氏は、産業再生機構の執行役員マネージングディレクターです(橋本龍太郎氏の次男に続き、片山龍太郎氏の妻・片山さつき氏も総選挙出馬確定)。
その片山龍太郎氏が社外取締役として再建に取り組んでいるのが、カネボウです。片山氏の最大の課題はカネボウの企業価値の最大化、つまり、いかに高くカネボウをスポンサーに売却するかです。郵政民営化賛成の落下傘候補の妻と、資本の論理を最優先する機構の夫の間には、基本的な考え方に矛盾はありません。
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