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野村総研発表『オタク市場:12分野で172万人 規模は4110億』の妥当性

2005年10月07日

電車男のヒットの影響でしょうか、「オタク」も完全に市民権を得たようです。ビジネス面でも、「萌え系」「アキバ系」等は、今後成長が期待できるマーケティング・フロンティアを表すキーワードとして注目を集めています。そんな状況を反映して、全国のマーケターが喜びそうなリサーチ結果が発表されました。 情報源は、『オタク市場:12分野で172万人 規模は4110億円 野村総研』です。

野村総合研究所は6日、04年の国内のオタクの実態とビジネス的価値に関する調査結果を発表した。それによると、04年の国内のオタク層の総数は延べ172万人で、総消費額は4110億円に上った。

調査ではまず、オタク層を「強くこだわりを持っている分野に趣味や余暇として使える金銭または時間のほとんどすべてを費やす生活者」と定義。インターネットでアンケートを行い、約1万件の回答を得た。その上で、オタク層が消費につぎ込むジャンルをコミック、アニメ、芸能人、ゲームなどの12分野に分類し、各分野ごとの人数と合計延べ人数、年間消費額を算出した。

私は、この種の調査に見られる強引な手法と、マスコミウケを狙ったとしか思えない、センセーショナルなタイトルのつけ方には、常々胡散臭さを感じてきました。野村総研には、『HDRユーザの過半数がテレビCM80%スキップ、今年の損失総額は約540億円に~』が、テレビ、広告業界に一大騒動をまき起こした前科があります(『Googlezon時代』で『ユビキタス』の夢よもう一度と目論む(?) 野村総研)。

またしても野村総研が、強引なこじつけ調査をしたのかと思って、その発表資料を見てみました。これがその調査結果です。注意すべきは、野村はいきなり「オタク」という言葉を使っていないところです。表題はあくまでも「マニア消費者」です。

国内主要12分野のマニア消費者層の2004年市場規模推計
分野 人口(注1) 金額(注2)
コミック 35万人 830億円
アニメーション 11万人 200億円
芸能人 28万人 610億円
ゲーム 16万人 210億円
組立PC 19万人 360億円
AV機器 6万人 120億円
携帯型IT機器 7万人 80億円
自動車 14万人 540億円
旅行 25万人 810億円
ファッション 4万人 130億円
カメラ 5万人 180億円
鉄道 2万人 40億円
合計 延べ172万人 4,110億円

本文中には、「回答者の3.6%がオタク層」という説明があります。上記の延べ172万人がマニア消費者という数字も、それほど大げさな感じはしません。世の中、オタクとよばれてもおかしくないほど、趣味に没頭している人間は珍しくありませんから。

例えば、有名人でもマニア消費者は結構います。民主党前原誠司代表はSLマニアで、「バカの壁」の養老孟司先生は、昆虫採集マニアとして有名です。プライベートジェットを買ったり、宇宙旅行に投資しているホリエモンが、旅行マニアに含まれる場合もあるでしょう。

さらに野村総研の発表資料を読み進むと、重要なことに気づきます。発表者が本音では隠しておきたいが、説明しなければならないことは、たいてい後ろの方の注釈に書かれているものです。今回も同じです。

※ 本調査研究におけるオタク層の定義は、「強くこだわりを持っている分野に趣味や余暇として使える金銭または時間のほとんどすべてを費やし(消費特性)、かつ、特有の心理特性を有する生活者」です。2004年8月に中間発表したオタク市場調査においては、消費特性のみをオタク層の定義としていました。しかし、今回の調査では、オタク層を企業のマーケティング活動等に生かす方法を分析・提案するため、オタク層の消費行動を支える特有の心理特性にもより一層注目するべく、定義を変更しました。その結果、さらにコアなオタク層が抽出されており、市場規模推計値は旧定義によるもの(図表3)と一致しません。

これが2004年8月の調査マニア消費者層はアニメ・コミックなど主要5分野で2,900億円市場です。

●国内主要5分野のマニア消費者層の規模推計(各分野の人口は重複もあり)

分野 人口 推計市場規模 参考とした主な指標
アニメ 20万人 200億円 タイトルあたりDVD売上枚数
アイドル 80万人 600億円 コンサート動員数、CD初出売上
コミック 100万人 1,000億円 同人誌即売会参加者数、雑誌購読率
ゲーム 家庭用 57万人 450億円 ゲームプレイ時間、ネットワークゲーム参加率、特定雑誌出版部数
PC 14万人 190億円
ネットワーク 3万人 10億円
アーケードなど
(注1)
6万人 130億円
4分野計 2,580億円  
組立PC リッチ 3万人 300億円 特定パーツの出荷数、特定雑誌出版数、秋葉原のパーツショップの売上
ジャンク 2万人 20億円
合計 のべ285万人 2,900億円  

驚くことに前回の調査では、5分野だけで285万人もいたオタク人口が、12分野に増えた今回の調査では、172万人と、100万人以上も減っています。一方市場規模は、2,900億円から4,110億円に増加しています。このような矛盾した結果になったのは、オタクの定義を変更したからというのが、野村総研の言い分です。

ちなみに今回の結果対象を、前回の定義で計算し直しすとこうなります(注釈での図表3)。

図表3:旧定義による2004年のオタク市場規模推計(グレー部分は2004年8月に発表済み)
分野 人口 金額
コミック 100万人 1,000億円
アニメーション 20万人 200億円
芸能人 80万人 600億円
ゲーム 80万人 780億円
組立PC 5万人 320億円
AV機器 22万人 420億円
携帯型IT機器 15万人 150億円
自動車 45万人 1,720億円
旅行 220万人 7,120億円
ファッション 25万人 760億円
カメラ 20万人 750億円
鉄道 14万人 260億円
合計 延べ646万人 1兆4,080億円

オタク人口は646万人で、市場規模はなんと1兆4,000万円にもなっていまします。さすがにこの数字は、さすがにまずいと思ったのではないでしょうか。新定義で発表した数字の、人口で4倍、金額でも3倍です。種々理由はつけていますが、過大予想との批判を回避するために、新たなオタク定義を持ち出したというのが、真相ではないでしょうか? 

最も重要であるはずの調査対象の定義を、こうも簡単にコロコロ変えてしまうような姿勢は、大いに疑問を感じます。利用者としては、この種の調査を頭から鵜呑みにすることは避けた方が安全です。実際にマーケティング戦略策定の参考にする場合にも、十分な注意が必要です。報告書にそのまま引用して、上司から「この前書いていたのと全然違う」と怒られるのはあなたです。


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