天才ビル・ゲイツがスティーブ・ジョブズのようなカリスマになれない理由
2005年10月20日
ビル・ゲイツとスティーブ・ジョブズに関する話題です。とは言っても、マイクロソフトとアップルのビジネスのことには触れません。今回は、最近行われたゲイツとジョブズの学生向けスピーチに関する記事を紹介します。両人とも、自らの人生を振り返りながら、若い頃から夢を持つことの大切さを語っています。なお、米国企業トップは、両氏に限らずビジネスの損得を抜きにして、学生相手に講演を行うことが少なくありません。
最初に紹介するのは、ゲイツ氏がワシントンD.C.にあるハワード大学で、今月行ったスピーチです。 情報源は、「われわれは君たちの頭脳を必要としている」――ゲイツ氏、大学生に語るです。
「IT分野を目指す若い人々にとって重要なのは、先入観を持たずに飛び込むことだ。この分野を発展させるのは君たちの世代だ。特に、ここに集まっている君たちの多くが、そのチャンスを持っているのだ」と語りかけた。
ゲイツ氏とMicrosoftの共同創業者のポール・アレン氏は、PCの機能について夢を抱いていたという。そして「その半分以上が実現された」とゲイツ氏。両氏が思い描いていたPCというのは、リビングルームや企業の重役室、小さなハンドヘルドデバイスから巨大なTVモニタなど、あらゆる場所、あらゆる形態で使えるようなものだ。
しかしMicrosoftの夢は、全世界のPCの数が60億台になるまで、つまり地球上のあらゆる人にとって1人1台のPCという時代がくるまで終わらないという。現在、世界には10億台のPCが存在する。
「わたしの夢を実現するには、ハワード大学の学生の手助けが必要だ」とゲイツ氏は語った。
スピーチの原稿を読んでないので正確には判断できませんが、学生が熱狂するような中身ではないような印象を受けます。端的に言って、聴衆のハートに訴えかける部分が少ないのです。次に紹介する、ジョブス氏が今年の6月にスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチと比べると、その差は歴然とします。情報源は、ジョブズCEO、スタンフォード大学で波乱の半生を語るです。 なお、当日のスピーチ全文は、原文、日本語訳があります。『AERA』9月19日号の20~21ページにも、抄訳が掲載されています。
ジョブズCEOは、オレゴン州ポートランドのリード大学に入学したが、労働者階級の家庭には学費が高すぎたため8ヵ月で中退したと述べた。自分の本当の勉強が始まったのは、興味を感じる授業――カリグラフィーもその1つ――を手当たり次第に聴講するようになってからだと、ジョブズCEOは語った。
ジョブズCEOは授業を受けている時期は、ジュース瓶を返却するともらえる5セントの保証金と、ハレ・クリシュナ教団から配られる無料の食事で生き延びたと述べた。
裕福な弁護士一家に生まれて、ハーバード大学に進学したゲイツ氏とは、全く異なる家庭環境です。大学を中退したとこだけは、共通ですが。
またジョブズCEOは、実家の地下室でアップル社を設立したことや、30歳のときにその会社から追われた後の大変な時期についても詳しく語った。
「私は世間に名前の知れ渡った敗者だった。シリコンバレーから逃げ出すことも考えた」。だがジョブズCEOは米ピクサー・アニメーション・スタジオ社を設立し、同社は『ファインディング・ニモ』や『モンスターズ・インク』などの超人気映画を世に送り出した。
「この体験はひどく苦い薬だったが、私という患者には必要だったのだと思う」とジョブズCEO。
自ら創業した会社のCEOの座を追われて、また返り咲くところは、極めてドラマチックです。一方、マイクロソフトは創業以来順調に業容を拡大したので、ゲイツ氏にはこのような挫折経験はありません。
マイクロソフトも独禁法関係の法廷闘争で、危機に直面したことはありますが、それも強すぎるゆえのことです。ゲイツ氏が自らCEOの職を辞したのは、非難の矛先をかわすためで、突然クビになったジョブズ氏の場合とは違います。
その後、復帰したジョブス氏は、iMAC、iPod の大ヒットでアップルの業績を復活させます。そして、今度は生命の危機に見舞われることになります。
ガンと診断されたとき、医者からは余命3~6ヵ月だと宣告されたとジョブズCEOは語った。後に、治療可能なタイプの珍しい膵臓ガンだとわかったが、それでもジョブズCEOは十分に厳しい教訓を得た。
「自分がいつかは死ぬことを忘れないことが、何かを失うことに対する恐れから逃れる最善の方法だ」とジョブズCEOは語った。
生命の危機を乗り越えたからこそ言える次のメッセージには、リアリティがあります。スピーチの迫力を損なわないように、あえて原文の方を引用します。
Your time is limited, so don't waste it living someone else's life. Don't be trapped by dogma ― which is living with the results of other people's thinking. Don't let the noise of others' opinions drown out your own inner voice. And most important, have the courage to follow your heart and intuition. They somehow already know what you truly want to become. Everything else is secondary.
「自らの心の声と直感に従う勇気を持て、それ以外には決して耳を貸すな」に続くシメのフレーズで、スピーチはクライマックスを迎えます。
Stay Hungry. Stay Foolish. And I have always wished that for myself. And now, as you graduate to begin anew, I wish that for you.
あえて訳せば、「若者よ、現状に満足するな、馬鹿げた夢を追い続けよ」あたりでしょうか。
ジョブズ氏のスピーチを読むと、同氏とアップル製品にカルト的信者が多い理由がわかります。ジョブズ氏はやはりカリスマなのかもしれません。一方ゲイツ氏の方は、天才と呼ばれたとしても、偶像視されることはないでしょう。
ジョブス氏のようなスピーチを生で聞く機会に恵れた米国の学生が、チャレンジ精神を触発されるのも当然だと思います。さらに気づいたのは、大富豪である2人とも、学生相手に夢を語る時に、金銭的な成功に関することには、一切切触れていないところです。ジョブズ氏は、赤貧の学生時代のエピソードを紹介していますが、これは今日の成功と対比するために使っているわけではありません。あくまでも、貧しくとも夢を失わなかったことを強調するためです。
日本の若手起業家のサクセス・ストーリーは、「IPOで大金持ち」に代表される金銭面に偏り過ぎているようです。学生相手には「Stay Hungry. Stay Foolish.」のような、ストレートなメッセージも必要でしょう。しかし、こんなフレーズを決められる起業家は、ジョブス氏以外にはほとんどいないのも事実なんですが...
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コメント
私もジョブスファンの一人ですが、
ゲイツとの比較をこういった形で、
しかも国内で読めた記事は少なかったですよね。
本当にためになる記事、ありがとうございました。
Posted by: エージ | 2005年10月20日 09:07
私もジョブスの紆余曲折をリアルタイムに追っていた世代で今回の記事はとても懐かしくも面白いものです。 若き日のビルゲイツにも会った(近くにいただけ)ことがありますが、ひょろひょろしたゲイツのイメージと相反してジョブス氏(実物を見たことはない)の若き日の精悍なルックスは際立つものがありましたね。 思い出すとトムクルーズのようでした。
蛇足ですが、マイケルデルは現在の方が全然かっこいいですね。創業当時のマイケルデルは典型的秋葉原オタクです。今とはまるで別人。
Posted by: ごん | 2005年10月20日 22:10