難聴問題でなぜアップル1社が訴えられなければならないのか?
2006年02月08日
以前に iPod の大音量が難聴を引き起こす可能性が問題視されていることを投稿しました( iPod のパッケージに「健聴のために聴き過ぎに注意」の警告が載る?)。 結局、この問題に関してアップル社が正式に訴えられることになりました。情報源は、iPodをめぐりまた裁判沙汰--今度の争点は「大音量」です。
この訴訟は、米国時間31日にサンノゼの米連邦地方裁判所で起こされた。このなかで原告側は、115デシベルの音量で1日に28秒間音楽を聴くと徐々に聴力が低下する可能性があることを示唆する研究結果が出ているにもかかわらず、iPodは同等レベルの最大音量で再生可能になっていると主張している。
この訴訟は、John Kiel PattersonおよびiPod購入者全員に代わる代理訴訟の形式をとっており、Appleに対して、iPodユーザーが被った聴力障害に対する補償金と、iPodから得た利益の一部を賠償金として支払うように求めている
訴訟になったことについては、「iPodで長い間音楽聴くと難聴になる」って当たり前じゃないですか。という至極、常識的な反応もあります。
しかし、当たり前のリスクでも漏れなく明記せよ(Fool Proof)が、製造物責任(Product Liability)の基本的な考え方です。特に米国は、猫を乾かすために電子レンジに入れたら死んでしまったので、そのリスクを書いてなかったメーカーを訴えるような国柄です。アップル側もそこら辺のことは百も承知で、マニュアルにも抜かりなく警告文を入れています。
「警告:イヤフォンあるいはヘッドフォンを大音量で使い続けると聴力を永久に失う場合があります。大音量には徐々に慣れてしまい、それが普通の音量のように感じられてきますが、その音量が聴覚に害を与える可能性があります。そうならないよう、iPodの音量は安全なレベルに抑えてください」
原告側は、Appleの警告が適切でないとし、その理由として同社がユーザーに対して、何が「大音量」あるいは「安全なレベル」にあたるのかが具体的に示されていない点を挙げている。
要するに原告側の論点は、アップルの警告に具体性がないのを問題視しているわけです。それでは原告の主張通りに、例えば「ボリューム5以上で2時間連続して聴くと危険です」といったような具体的な数値を示すことはできるのでしょうか?
それは無理だと思います。確かに具体的な数字をあげて警告している医師も存在します(「iPod1日2時間以内に」、難聴予防で医師警告)。この数字に果たして信憑性があるのかどうかも、よくわかりません。また、下手に数値をあげて警告したりすると、今度はそのガイドラインを守ったのに難聴になった、と訴えられる逆のリスクも心配になります。
どのレベルなら安全という回答がないのに、危険が伴うのは確からしい程度の情報しかないのが現状です。結局は、WHOのように権威あるところが発表した数字でない限りは、使わない方が賢明でしょう。権威ある他者の数値を引用していれば、訴えられたとしても責任を転嫁することも可能ですから。
私がこの記事でもっと注目したのは、次の部分です。
原告側によると、iPod製品群の最大音量は130デシベルで、この水準ではわずか28秒間で聴力低下を招くという。フランスでは02年秋、「100デシベルまで」という規制に反していることが発覚し、改良を余儀なくされたのに、米国ではそのまま売り続けていると訴えている。
ここで話は急にBSE問題に飛びます。再開された米国産牛肉の輸入が中止されたのは、除去が義務付けされた特定部位が混入していたためです。BSEの原因が蓄積しやすいとされる特定部位も、米国では普通に出荷されていますし、米国の一般市民は、この部位が日本で危険視されている事実も知りません。
もし、米国で特定部位を除去していなかったために、BSE感染が起こったとしたら、国民はどう反応するのでしょうか? おそらく、食肉メーカーだけでなく、政府も訴えるでしょう。さらに日本では特定部位を除去することになっていたことが明らかになれば、同様の措置を講じなかった、政府の不作為責任が問われることになるはずです。
iPod に戻ります。フランスでは携帯オーディオプレーヤーの音量は、100デシベルまでに規制されています。一方、米国ではこの種の規制はありません。今回の原告側が、もし難聴のリスクを真剣に憂慮しているのであれば、なぜ同様の規制策を取らない連邦・州政府を訴えないのでしょうか?
また、iPod の他にも多数の携帯音楽プレーヤーが発売されています。アップルを相手に訴訟を起こすのであれば、すべてのメーカーを対象にすべきではないでしょうか? 色々と疑問が湧いてきます。そう思っていたところ、次の記述を見つけました。
なお、原告側の弁護士が所属する Hagens Berman Sobol Shapiro は、iPodの傷付きやすさに関する裁判でAppleを提訴した2つの法律事務所の1つだ。
かなり強引ですが、今回の訴訟はアップルへの新たな嫌がらせの1つという結論にします。さらに「法律事務所の背後には、iPod に市場を奪われたS社の関与が囁かれている」となったりすると、話は急に面白くなるのですが(冗談です)。
真面目な結論としては、難聴問題はアップルという一企業ではなく、本来政府レベルで対策を考えるべき問題だと思います。逆に考えれば、政府を差し置いて訴えられるアップルの存在が、それだけ大きいという証拠かもしれません。マーケット・リーダーは、果たすべき責任が重いということです。
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