テレビ局はW杯日本代表戦の試合時間を変更するよう要請した疑惑を否定
2006年06月27日
サッカー日本の代表の次期監督候補として、ジェフユナイテッド市原・千葉のイビチャ・オシム監督が急浮上しました。同監督のユニークな言動を集めたオシム語録の2005年4月20日の記述には、「サッカーに最も必要なのはアイデアだ。アイデアの無い人ももちろんサッカーはできるが、サッカー選手にはなれない」というのがあります。これは色々と応用ができそうな至言です。例えば、「ブログに最も必要なのはアイデアだ。アイデアの無い人ももちろんブログは書けるが、人気ブロガーにはなれない」といった具合に。
しかし、アイデアの無いブログであったとしても、突如として一時的に人気化することがあるのもまた事実です。このブログでも、昨年の11月に投稿した記事ジェフ千葉のオシム監督が考えるほど現代の日本人は「ひたむき」なのかへのアクセス数が、ここ数日間で急増しました。これも日本サッカー協会の川淵キャプテンの「史上最大の失言」のおかげです。正直に言えば、記事を書いた当時は本当にオシムが次期日本代表監督候補になる、と予想していたわけではありません。まさに想定外の結果です。
想定外と言えば、ネット上での噂話を元にして書いた電通とFIFAの画策でサッカー日本代表の試合時間が変更された?に関連する内容を、一般のマスメディアが正式な記事として取り上げたのも予想外でした。この種の噂話は黙殺される場合が多いのが通例だと思っていたので。そこで、改めて試合時間変更疑惑に関する朝日新聞の記事を紹介します。情報源は、『TVを考慮、真昼に 日本の2戦、当初はナイター サッカー・ドイツW杯』(2006年6月25日 朝日新聞 朝刊 38面)です。
参加32チームのうち、午後3時からの試合を戦ったのは17チーム。うち2戦とも午後3時だったのは日本、トーゴ、セルビア・モンテネグロの3チームだけだ。日本は3戦目まで16強入りの望みをつないだが、他の2チームは連敗して早々に敗退が決まった。
ジーコ監督は、クロアチア戦後の記者会見で「こんな時間にサッカーをやること自体、間違っている」と批判。「サッカーはビジネスになっており、選手が犠牲を払っている」と指摘した。
1次リーグの組み合わせは昨年12月9日に抽選で決まり、翌10日に国際サッカー連盟(FIFA)が各試合の開始時間を発表。日本の2戦目までの日程は当初、豪州戦が12日午後9時、クロアチア戦が18日午後6時だったが、FIFAは「テレビ放送の時差を考慮した」として、ともに午後3時に変更した。
その結果、ビデオリサーチによると豪州戦の視聴率は関東地区で49.0%、クロアチア戦は同52.7%を獲得した。23日午前4時から生放送された3戦目のブラジル戦の前半は同22.8%と早朝では異例の高さだったが、前2戦の半分にも届かなかった。
さすがに大新聞の記事だけあって、事実関係が簡潔に整理されています。試合時間の変更は、視聴率の結果だけから判断すれば大成功でしょう。そこで知りたいのは、「誰が試合時間の変更をFIFAに要請したのか?」ということです。
02年日韓大会で日本組織委員会の放送業務局長を務めたスポーツプロデューサーの杉山茂さんは「FIFAは放送局の意向を重視する。放送権者は自分の国の時差を考えて試合時間を要望できる」と打ち明ける。
スポーツビジネスに詳しいジャーナリストの谷口源太郎さんは「NHKと民放でつくるジャパンコンソーシアムが支払ったとされる140億円の放送権料はアジアで突出している。それでFIFAのビジネスも成り立っている」と話す。
放送権販売の国内代理店の電通は「試合時間はFIFAが決定するもの。放送局側の意向を伝えたとしても聞き入れるかどうかはFIFA側の判断」と言葉を濁す。豪州戦を生放送したNHKの原田豊彦放送総局長は「開始時間の変更を働きかけてはいない」。クロアチア戦を放送したテレビ朝日の広報も「試合時間を交渉した事実はない」としている。
NHKとテレビ朝日の回答が正しいとすれば、「誰も要請していなのに試合時間が変更された」という摩訶不思議なことが起こったことになります。とは言っても、日本代表の最終戦の対ブラジル戦で、圧倒的な実力の差を見せつけられた今となっては、事件の真相をしつこく追究したいという意欲も以前ほどは感じなくなっています。炎天下の試合が連続したことが、日本代表の前2試合の直接的な敗因とも思えなくなったからです。
しかし、日本代表の活躍による特需を当て込んでいたビジネス界には、今回の予選敗退の結果は、深刻な影響を及ぼしています。情報源は、『日本敗退、W杯商戦、はや“終幕”――家電、ボーナスにつなげず、コンビニ思惑外れ』(2006年6月24日 日本経済新聞 朝刊 3面)です。
家電量販店のエディオンは23日、展示商品のそばに「感動をありがとう」と書いた表示を付けた。薄型テレビなどのW杯商戦は開幕前後がピークだった。テレビなどの販売は昨冬から好調を持続しており、業界ではW杯商戦を来週末から本格化するボーナス商戦への“つなぎ役”とみていた。「1次リーグを突破していれば、うまくバトンタッチができたのに」(都内の量販店)といううらみ節も聞こえる。
4年に1度の特需にかけるスポーツ用品業界では、閉幕までの残り約2週間も商戦を継続する。専門店「サッカーショップ加茂」を運営する加茂商事(大阪市)では23日、日本代表応援グッズの売れ行きが止まり、代わってイングランドやアルゼンチン、ドイツなど決勝トーナメント進出組のユニホーム販売が好調という。
商戦中盤で足が止まったのがCS放送。全試合を録画放送するスカイパーフェクト・コミュニケーションズでは、引き分けたクロアチア戦後の今週から「サッカー目当てとみられる人の加入がぱったり止まった」。
思惑が外れたのがファミリーマートだ。日本代表のユニホームなど公式グッズ約90品目を扱うが、「関連商品の販売目標の達成は難しくなった」(同社)と渋い顔。決勝トーナメント進出を見込んで20億円を販売目標としていたが、23日までの実績は半分の約10億円にとどまる。
経済波及効果も当初予想を下回るとみられる。第一生命経済研究所主任エコノミストの永浜利広氏は日本国内での生産波及効果を、当初試算の4,171億円から40,29億円に下方修正した。記念グッズの売り上げ減などが理由。
「電通が試合時間の変更をFIFAに要請したことが、日本代表の予選敗退を招いた」という推定が正しければ、電通の行動はスポンサー・サイド、大げさに言えば国内経済全体にマイナス作用したと言ってよいでしょう。
ところで、ダスラーと電通の利害が一致して生まれたISL ワールドカップ・ビジネスの舞台裏には、それまで博報堂が握っていたW杯関連の日本国内の利権を、電通が奪取するまでの経緯が述べられています。この後、FIFA会長のジョセフ・ブラッター氏から全幅の信頼を勝ち取った電通は、テレビ放映権料の値上げを中心に、W杯ビジネスの拡大に邁進して行くことになります。
その電通のスポーツビジネスを牽引するのが、同社の常務取締役の高橋治之氏です。前回の記事 電通とFIFAの画策でサッカー日本代表の試合時間が変更された?で紹介したように、ソニーとFIFAとの間のスポンサー契約(8年間で約341億円)をまとめたのは電通です。この巨額な契約に関して、電通の高橋常務は次のように語っています。情報源は、『短期集中連載-肥大化するサッカービジネス もう一つのW杯――下-権力の中枢と黒衣 FIFA肥大化の歴史に電通あり』(日経ビジネス 2006年6月26日号 152~157ページ)です。
「世界で何人がテレビを見て、その何割が看板を記憶するかというデータから計算すると、新しいスポンサー権料は十分にペイできる。もう5割くらい高くてもいい。そのくらいW杯の視聴者はいるんだ」
そう語る高橋。FIFAにとって、これほど心強いパートナーはいない。その信頼は2007年からの放映権販売にも強く表れている。
世界最大のスポーツ・ビジネスを支配するFIFAの懐に食い込んだ電通にとっては、日本代表の予選敗退に伴う国内経済効果の縮小などは、もはや取るに足らないスケールの小さい話なのかもしれません。
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