デル・プリンタ市場参入の業界インパクトはゼロ?
2004年06月15日
デルが日本でもプリンタ製品2機種を発売しました(製品概要)。日本国内でも、パソコンのシェアでは10%を超え、着実に存在感を増しているデルのプリンタ市場へ参入は、国内メーカーに脅威と恐れられている様子はありません。その背景事情を説明する週刊東洋経済の記事を要約します。
パソコンとプリンタの違い
部品が標準化されているパソコンは、誰でも組み立てられる製品だ。そこでは販売から製造までビジネス工程を極限まで効率化したデルモデルがいかんなく威力を発揮できる。しかし、プリンタ製品では、メカ技術やインクなどの科学技術の複雑な組み合わせが必要で、品質への要求が高い日本の消費者ニーズを満足できない可能性が高い。米国で5割強のシェアを持つHPでも、デジカメニーズの高い日本の市場では、苦戦している。また、デルもプリンタ専業のレックスマーク社からOEM供給を受けるだけなので、デルモデルによる効率化の余地も少ない。デルのプリンタの本体価格は確かに安いが(13,800円、送料別)、「日本の消費者は3,000円程度の差ならよいものを買う」(日本HP)。インク等の消耗品も格別に安くはない。画質を重視する日本で、直販でプリンタを買うかという声も多い。
長期戦での勝利を想定
そんなことは、デルも百も承知だ。「あくまでもパソコンをコアにした事業の一環。デルのパソコンの顧客に売っていく」(デル)。デルに追い風が吹くとすれば、今後、プリンタもパソコンのような標準化が進む可能性があること。プリンタの性能は向上しているが、一般消費者にとって大きな違いを感じられない水準に近づいてきている。どのプリンタでも大差のない性能になれば、デルの出番。デルモデルはプリンタ市場も席巻するのか。キャノン、エプソンの余裕は、その壁の高さを物語っている。
結論からいえば、デルのプリンタはほとんど売れずに、マーケットに対するインパクトも限定的なものに終わるのではないでしょうか。デルの方も、正直いって日本市場で特にプリンタ製品を拡販したいという強い意欲があるわけではないでしょう。一般に競争力のない製品を市場に追加投入するのは、既存顧客の関連販売を目的とするものです。今回の製品は、レックスマーク社からのOEM供給品を既存販売チャネルに流すだけなので、追加の設備投資もほとんど不要です。例えて言えば、日本のアマゾンが家電製品やキッチン用品を品揃えとして用意しているようなものです。最初から、それらの商品を武器に、新規顧客を開拓するような考えも持っていないはずです。
基本的にはリスクの無い戦略ではありますが、最大のリスクは、今回の製品が日本の消費者の許容するレベルの品質を下回ることにあります。コストパフォーマンスの高さで成長してきたデルブランドに、「安かろう悪かろうの」イメージが 感じられるようになると、本業のパソコン販売にも悪影響が及ぶでしょう。信頼感のあるブランドイメージは、構築するのには時間がかかりますが、崩れる方はいとも簡単なので、慎重な対応が必要です。
その他、プリンタ製品に関しては、インクカートリッジなどの消耗品を含めたTCOの側面から考えることも重要でしょう。TCO (Total Cost of Ownership) とは、IT製品を購入する際に、製品本体価格だけでなく、メンテナンス費用、人件費などのすべての必要コストを計算に入れて、判断するべきという考え方です。調査会社のガートナーは、TCOのコンセプトを日本に広めたことで、一躍有名になりました。
TCOを分析すれば、本来インクジェット・プリンタの本体価格には、あまりこだわるべきではないと思います。年賀状印刷という最大需要期にあたる年末商戦では、例年小売価格はかなり下がります。量販店の店頭では、他社製品を高値で下取りする実質値引きも行われますので、メーカー側から、かなりの販売奨励金が出ているのではないでしょうか。時期さえ間違えなければ、かなりのお買い得品を見つけられる製品です。
問題なのは、ランニングコストである、インクカートリッジ、リボンの値段です。率直に言って、消耗品価格はエプソン、キャノン両社の寡占状態のためか、異常に高いように感じられます。明らかにプリンタ製品のビジネスモデルは、本体の利益を抑えて、高い利益率の消耗品の販売を前提として成立しています。日本人の純正品志向も、このビジネスモデルをより強固なものする方向に働き、消耗品価格も全く下がる気配がありません。本体の多少の値引きは受け入れても、生命線である消耗品価格を維持することに成功しているわけですから、メーカー側の思惑通りです。
デルに期待したいのは、消耗品の安いプリンタ製品の投入による差別化戦略への大胆な転換です。TCOで優れてさえいれば、デルブランドのプリンタを買おうとする人間も現れるはずです。もし、年末あたりにパソコン本体とプリンタとの格安セット販売を展開すれば、何とかなる程度の認識であれば、世界のデルブランドが泣きます。日本では売れないのは分かっているけど、本社の命令で販売することにしたなんて、悲しい外資のぼやきは、もっと聞きたくありません。今や中国マーケットを考えれば、日本なんかどうでもよい、という本音は理解できますが...
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【関係ありそうな本】 私は本当はデル・サポーターです。
デルの革命 ~ 「ダイレクト」戦略で産業を変える設立わずか15年で、全米第1位のPCメーカーとなったデルコンピュータ。その驚異的成長の秘密を解くカギは、顧客・サプライヤー・社員との結びつきを重視したユニークな経営戦略にある。世界の注目を集める天才経営者が自ら語る、ネットワーク経済下の「ビジネスの未来像」。
週刊東洋経済 2004年6月19日号
