ローソンとヤマト運輸の争いは、チャネルパワーを巡る攻防の1つでは?
2004年09月13日
コンビニエンスストア大手のローソンと、宅急便のヤマト運輸との争いが新聞紙面を賑わしています。原因は、ローソンが黒猫宅急便だけを独占的に取り扱う契約を打ち切って、日本郵政公社のゆうパックとの併売路線に転換したことにあります。これに反発したヤマト側は、ローソンからの撤退を表明しました。 ローソン側は、宅急便とゆうパックの併売は、利用者の選択肢を増やすことで、消費者利益にかなうと主張しています。一方、ヤマト側は、国から優遇措置を受ける郵政公社のコンビニ参入は、民業圧迫であると主張し、どちらも譲る気配はありません。双方の主張にも納得できるところはありますが、結局これは、どちらが流通段階での支配権を握るかという、マーケティングで言うところのチャネル・パワーを巡る争いだと思います。
両者の力関係が拮抗していると、争いは長引くことになります。 しかし、一方のパワーが他方を圧倒している場合は、争いは簡単に収まるか、そもそも争いに発展しません。そのような米国の事例をご紹介します。情報源は『ウォルマート vs 米出版業界 独自基準の"検閲"を巡る賛否両論』(日経ビジネス2004年9月13日号 p.14)です。
米国最大の出版社、タイムは、ウォルマートと提携し、同店の女性顧客向け生活情報誌「オール・ユー」(予定部数50万部、定価1.47ドル)を8月に創刊した。このニュースが米出版業界に与えた衝撃は大きかった。というのも、ウォルマートと米出版業界は、ウォルマート独自の雑誌の表紙に対する"検閲"の是非を巡り、対立している最中だからだ。
事の始まりは、昨年7月、ウォルマートが「青少年にとって好ましくない」ことを理由に「マキシム」「スタッフ」「FMH」の3誌の取り扱いを中止したことにある。これらの雑誌は、新進スター女優のセクシーな写真やきわどい性的なジョークが売りもので、若い男性読者の人気を集めている。「プレイボーイ」や「ペントハウス」に比べれば、オールヌードでないだけ、まだ露出度は少ないと言えるが、それでも「顧客から『家族に見せられない』という声が寄せられたため、店頭から撤去した」というのがウォルマートの見解だ。
これに対し、米国の有力市民団体であるアメリカン・シビル・リバティーズ・ユニオンが「ウォルマートの行為は"検閲"に等しい」という抗議声明を出すなど、知識人たちを中心に、危機意識は高まりつつある。しかし、肝心の出版業界からは、目立ったウォルマート批判の声は上がっていない。
取り扱いを止められた一部の雑誌では、既にウォルマート対策が始まっている。FMHでは、定期購読者向けと市販購読者向けの2バージョンの表紙を用意する「ダブルカバー」方式を模索している。市販購読者向け表紙からは、過激な性的表現が削られるなど、ウォルマートへの歩み寄りがうかがわれる。
この記事を読む限り、チャネル・パワーを握るウォルマート側の完勝というところでしょう。しかし、あまりこれが行き過ぎると、独占禁止法上の優越的地位の濫用に抵触する場合もあるのですが、今回はその可能性もないようです。 なにしろ現在のウォルマートは、米国の流通業界では完全に一人勝ちの状態です。先ほど、一時はカテゴリー・キラーという言葉の代名詞でもあった、玩具販売のトイザラスが、ベビー用品部門を分離・独立することを発表しました。これは本業である玩具部門がウォルマートに首位の座を奪われて以来、業績不振が続いているためです。利益の上がっているベビー部門を残して、玩具部門からは撤退するのではないかと噂されています。なお、日本トイザラスが含まれる海外事業も、近い将来売却されるかもしれません。
日本でも流通段階でのチャネル・パワーを巡る争いは、決して珍しいことではありません。記憶に新しいところでは、台湾製液晶テレビ問題に端を発した、イオン対シャープの争いがありました。これは、パワーに勝るイオン側にシャープが侘びを入れることで、わずか一日で幕を引くことになりました。(イオンとシャープが一日で和解) また、この事件以前には、イオンは同社のPB商品の委託先であるプリマハムとの取引停止措置を実施したこともあります。(プリマハム製品の取引停止について) まさに、現在わが国でウォルマート並みのチャネル・パワーを発揮できるのは、イオンくらいかもしれません。
大昔にはカラーテレビを安売りされたダイエーに対して、系列小売店を守るために松下電器が製品供給をストップするという事件もありました。この時は、一般消費者はダイエー側に立って拍手喝さいを送ったものです。現在のダイエーの状況を考えると、まさに隔世の感がありますが、当時はダイエーがそれほどのチャネル・パワーを握っていたわけです。結局、こちらも数十年をかけて、手打ちとなりました。和解はしたものの、現在のダイエーに家電製品を販売する力は残っていません。ダイエーは一時ヤマダ電機にテナントとして入ってもらい、店舗販売を移管することを試みましたが、ごく短い期間で両社の協業は破綻しました。(ダイエー、ヤマダ電機との基本合意解除を発表) どちらかと言うと、ダイエー側が袖にされたようで、これもダイエーのパワーの衰えを物語るものです。
今回のローソンとヤマトとの間の争いも、両社が面子ばかりに執着すると、簡単には決着できないでしょう。しかし、長い目に見れば、消費者利益と言う観点から考えて、どちらの主張に分があるのかが勝負になってくるはずです。 そうすると、最終的にはローソン側の主張が通り、宅急便とゆうパックの併売が実現するようになるのではないでしょうか。外向きに、ヤマト側の負けが分かるような見え方で事態が収束するかどうかは、また別の話です。
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