IP電話化の流れを無視することは、モトローラの携帯電話での誤りと同じ
2004年11月01日
米ダートマス大学経営大学院(エイモスタック・スクール)教授のシドニー・フィンケルシュタイン氏のインタービュー記事が、nikkeipのサイトに掲載されました。情報源は、『「名経営者が失敗する“本当”の理由」を失敗本の著者に聞く 』です。
フィンケルシュタイン氏は6年もの歳月をかけて「名経営者が、なぜ失敗するのか?」(原題:Why Smart Executives Fail)を著した。モトローラやジョンソン・エンド・ジョンソンといった米国企業のほか、ソニーや雪印乳業、2000年にルノーに買収された韓国サムスン自動車、など約60社を取り上げ、これらの企業が犯した失敗の原因を分析している。
フィンケルシュタイン氏の分析は独自性に富んでいる。まず著書の冒頭で、企業が失敗する理由に関する七つの通説をすべて否定する。例えば「経営者が無能だった」とする通説がある。フィンケルシュタイン氏は、失敗した企業の経営者はすべて優秀であり、むしろ優秀であるが故に失敗を招くと指摘する。
「経営者が優秀でも、不測の事態を予測できなかった」という通説についても、同氏は次のように否定する。「失敗した企業の経営者は、重要な産業の変化が起きつつあることを知っていた。しかし、その変化の可能性を検討したうえで無視した」。
大学の研究室で会ったフィンケルシュタイン氏に、「約60社に上る企業の実例の中で最も印象に残っている企業はどこか」と尋ねた。同氏が真っ先に挙げたのは、モトローラだった。同社はアナログ方式の携帯電話機で世界市場のトップを独走しながら、デジタル方式への転換で出遅れ、フィンランドのノキアなどの台頭を許した。アナログ方式で世界のトップに立ったのだから、当時のモトローラ経営陣が無能だったわけではない。しかも米国の大手電話会社は、繰り返しモトローラに、デジタル携帯電話へ転換するように求めていた。
ところが同社は聞き入れなかった。自社のアナログ技術を過信して「ユーザーが求めているのはデジタル化ではなく、デザインの良い高性能のアナログ携帯電話機だ」と思い込んでしまった。 「市場の変化に目を背けたのは、モトローラの経営陣ばかりではない。携帯電話機部門の社員たちも同様だった」。フィンケルシュタイン氏はこう指摘し、次のように続ける。「変化に柔軟に対応する企業風土を築くことが欠かせない。経営トップだけでなく中間管理職もそうした風土づくりに尽力すべきだ」。
この記事を読んで考えたのが、電話のIP化時代を迎えつつある我国の状況です。モトローラが直面していた携帯電話のアナログ方式からデジタル方式への転換と全く同じ立場にあるのが、従来の回線交換方式からIP電話への転換期を迎えている我国の通信事業者です。先週、総務省が主催する「IP電話の研究会」が開催されました(『通信事業者が実感するIP電話の課題や展望~総務省のIP電話研究会』)。同研究会には、国内のほとんどの通信事業者も出席して、自社のIP電話に対する取り組み状況を報告しています。
この中のコメントでも象徴的なのは、近距離系のNTT東西も電話のIP化を受け容れ始めていることです。長距離系のNTTコミュニケーションズやKDDIのコメントでは、もはや後戻りできないという切迫感が伝わってきます。中には、NTT-MEのように「1999年からVoIPには取り組んでいたが、のんびりやっていたらアピールできず、いつの間にか参入事業者が増えていて驚いている」というような情けないコメントもあります。一方、IP電話専業のフュージョン・コミュニケーションズは、当然ながらIP電話を電話事業参入の最大のチャンスと捉えて積極的です。
公開の研究会の席上で述べられた各社のコメントが、IP電話に対する各社のビジネス戦略を正確に表していると考えるのは、単純すぎるのかもしれません。水面下では各社とも着々と手を打っていることも十分に考えられます。電話の固定網からIP網への流れをもはや無視することができないのは、明らかです。したがって、この環境変化をいかに自社のビジネスチャンスとして活かして行くかによって、業界内の今後の勢力地図が大きく塗り替えられることになります。1社たりとも、モトローラのような誤りを犯す余裕はないはずです。
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