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トップたるものは時に率直に誤りを認め、時には持論を曲げない頑固さも

2005年01月25日

ソニーコンピュータエンタテインメント(SCE)の久多良木健社長といえば、ソニー本体の次期社長の最有力候補と噂されているソニーグループのエースです。その久夛良木氏が、マスコミに対して硬軟両面ともとれる、対照的な姿を見せました。まずは、同氏がソニーの誤りを率直に認めたという記事の方から紹介します。情報源は、『SCE久夛良木社長、ソニーの過ちを認める』です。

ソニーは音楽とエンターテインメントコンテンツに関して閉鎖的でありすぎたたため、MP3プレーヤーなどの機器に売上を奪われたと、同社のビデオゲーム部門責任者が1月20日に認めた。ソニーコンピュータエンタテインメント(SCE)の久夛良木健社長によれば、(ソニーグループの)音楽・映画部門がコンテンツ権利について危惧していることを主な理由に、経営陣がApple Computerの「iPod」のような製品作りをためらってきたことに対して、同氏とSCE社員はここ何年間もフラストレーションを感じていた。だが今、部門間の協力態勢が整いつつあり、共通の課題に向けて動き始めたと同氏は東京の外国人記者クラブで語った。「まだ始まったばかりだ。われわれは成長しつつある」(同氏)

これまでソニー幹部が自社のプロプライエタリ性に関する見解を公に示したことはほとんどない。以前から次期ソニー社長の有力候補と目されている久夛良木氏にしては珍しく、率直にソニーの過ちを認め、エンターテインメント部門のコンテンツ権利に対する危惧を批判した。当初、ソニーの音楽プレーヤーはMP3ファイルをサポートしておらず、「ATRAC」と呼ばれる独自フォーマットでのみ再生が可能だった。

久夛良木氏は、ソニーの元来の企業精神である技術革新が「希薄」になってしまったと語った。「われわれは、そもそもの企業精神であるチャレンジと創造に集中する必要がある」と同氏。

携帯音楽プレーヤー市場におけるソニーの苦境は、グループ全体で保有する膨大なソフト資産を重視するあまり、業界標準仕様に準拠した製品開発を怠ったことが理由であることを率直に認める発言です。iPod に対抗するために投入した最新のネットワーク・ウォークマンでは、MP3にも対応するようになっています。自社の戦略上の誤り認めた結果、戦略転換に踏み切ったわけです。

一方、今度は一転して自信満々に自分にはまったく否がないことを言い張る姿の方です。情報源は、『それがPSPの仕様だ』(日経ビジネス 2005年1月24日号 p.8)です。

「これが、私が考えたデザインだ。使い勝手についていろいろ言う人もいるかもしれない。それは対応するゲームソフトを作る会社や購入者が、この仕様に合わせてもらうしかない」。こう話すのはソニー・コンピュータエンタテイメント(SCE)の久夛良木健社長だ。彼が言うのは昨年12月12日に発売し、爆発的な人気を博す同社の携帯ゲーム機「プレイステーション・ポータブル(PSP)」だ。あまりの話題性から品薄状態が続いている。

(中略)SCEもボタンが戻らない点については不具合と認めている。一方、ボタンを押しても画面が時に反応しない点に関してはSCEは不具合ではないと説明する。ボタンの位置は左右対称なのに、本体内部でボタンが押されたことを検知する部分の位置は非対称だ。結果、問題が指摘されるボタンだけは、他のボタンのように真下に検知部分がない。この点が反応しないことがある原因ではないか。本誌の疑問に関して久夛良木社長は次のように説明した。

「使用する液晶画面はこれ以上小さくしたくないし、PSP本体もこれ以上大きくしたくなかった。ボタン位置も狙ったもの。それが仕様。これは僕が作ったもので、そういう仕様にしている。明確な意思を持っているのであって、間違ったわけではない。世界で一番美しいものを作ったと思う。著名建築家が書いた図面に対して門の位置がおかしいと難癖をつける人はいない。それと同じこと」。

久夛良木社長は、これまでもソフトメーカーやユーザーの声に右顧左眄しない姿勢を貫いてきた。プレイステーションを世に送り出した時、手で握れるグリップ型のコントローラーを初めて採用し、後にゲーム界の主流となった。そんな久夛良木社長にとって世界初にチャレンジする技術者がソニーグループに少なくなったことが苛立ちの種だ。

こちらの方は、自社の設計思想の正しさを主張し、頑として譲る気配はないようです。自社のコアバリューと信ずる部分を頑なに守ろうとする、企業トップの毅然とした姿勢には、一点の曇りもありません。

しかし、もう少し皮肉な見方をして2つの記事での久夛良木社長の発言を眺めると、次のようなことにも気づきます。前者ではソニー全体がチャレンジ精神を失ってしまったことを、誤りとして認めています。これに対して、後者ではソニーというよりも、自分が設計するものは完璧だという主張です。両方の発言をつなげて、ソニーは組織として誤りを犯したが、久夛良木個人としては誤りを犯したことはない、と述べていると解釈するのは考えすぎでしょうか。もし、それが同氏の真意とすれば、日本人には珍しい自己主張が強烈な人物ということになります。世界のソニーを背負って行くには、そのくらいの気概が要求されるのかもしれません。

さて、PSPの問題となっている部分は、操作性(ユーザビリティ)とスタイルの美しさのトレードオフから生じる問題です。果たして、一般ユーザは久夛良木氏の説明に納得してくれるのでしょうか? しかし、同氏の主張はこれが所詮ゲーム機だから許されるのだと思います。使い勝手が悪いと思った人は、使わなければ済むだけの話ですから。他に格段困る人もいません。もし、これが操作性のチョットした違いが直接生命の危険に影響を与える可能性のある、自動車のような製品であれば、同じような主張は不可能でしょう。そう考えると、久夛良木氏はソニーの社長にはなれても、決してトヨタの社長には向かない人材だと言えます。久夛良木氏はあくまでもゲーム機デザインのマインドセットを持った人間です。

現在のソニーに魅力的な製品が少ないのは、コンセンサスベースの意思決定が幅を利かせて、意思決定も遅くなったことが原因しているのではないでしょうか。久夛良木氏のような発想の人がソニーのトップに就けば、独創的な製品が生まれる可能性は高くなるでしょう。しかし、久夛良木氏の発想には両刃の剣の側面があることも否定できません。

ソニーグループ全体としては、多用な製品ラインナップを擁しています。コモディティに近い性格の製品で、ユーザビリティが最重視されるものも少なくありません。PSPのように「購入者がソニーの仕様に合わせてもらうしかない」とまで、言い切れる製品も少ないはずです。そのようなマーケットで久夛良木氏流を押し通そうとすれば、ユーザからの総スカンを招くのは確実でしょう。逆に考えれば、そこまで言い切れるまでの競争力のある商品が続々と登場して来るのであれば、ソニー神話が復活したことには間違いないのですが...


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