カネボウの新社長小城武彦氏の人本主義的改革は日本型再生モデルとなるか?
2005年03月07日
ライブドアによるニッポン放送株の買占め問題で、にわかに注目を集めるようになったのが、「企業価値」という言葉です。ニッポン放送の亀渕昭信社長は 「フジサンケイグループからの離脱を余儀なくされれば、企業価値を毀損する ことになる」と主張しています。一方、ライブドアの堀江貴文社長は、「2社の業務提携によってもたらされるメディアとネットの融合が、企業価値を向上させる」と反論します。
ここで議論されているのは、株式の時価総額で現される金銭的価値であり、株主にとっての企業価値です。この底流には、企業は株主が所有するものであり、最優先されるべきは株式価値の最大化である、といった米国型株主資本主義の考えがあります。 この株主最優先の考え方に異を唱える経営者の1人が、産業再生機構からカネボウの社長に就任した小城武彦(おぎたけひこ)氏です。 小城氏は当時カネボウの社長だった中嶋章義氏との初めての会話を、次のように切り出しています。 情報源は、『「青臭さ」で挑む老舗復活』(日経ビジネス 2005年3月7日号 p.106-108)です。
「1つ質問していいですか。株主、顧客、社員という会社を取り巻くステークホルダー(利害関係者)の中で、中嶋さんが思う優先順位をつけてもらえませんか」。初顔合わせの和やかな空気は瞬時に引き締まった。
「社員が一番に決まっています」。中嶋は自説を展開したものの、小城に受け入れられるという確信は持てなかったに違いない。何しろ、対峙しているのは企業再生のプロ集団を自任する再生機構が送り込んできた人物だった。
小城は、意外とも思える反応を返してきた。「私も同じ考えです」。社員を一番大事にすれば、安心して顧客と向き合えるようになり、社員が顧客を向いて努力すれば、おのずと利益が出て株主は報われる。小城自身、昨今日本の産業界でも声高に唱えられる米国流の株主資本主義とは順序が異なると認めるが、譲れない一線だった。
やがて、カネボウを蝕んできた病巣が小城の意識の中で姿を現してくる。「会議の資料が必要以上に立派で、社内調整に時間を使い過ぎている」「序列がきつく、多くの人が上を見ながら仕事をしている」。118年の伝統ゆえか、社内は内向きの議論に汲々とし、典型的な「大企業病」が隅々まですくっていた。小城にとって救いだったのは、「カネボウの人材は強い」と映ったことだった。
眠れる人的資産を呼び覚ます──。これこそが、カネボウを再生させる唯一の道だと小城は考え、再生機構が小城を送り込んだ理由もここにあった。
昨年11月1日。再生機構の意向で小城は社長に就任、会長に就いた中嶋とともに経営の最前線に立った。「『人』を中核にすえた経営を行っていきたいと考えております」。小城は社内向けに筆を執った就任挨拶で、自らの思いをこう記した。カネボウが背負い続ける「伝統」と、その復活の鍵となる「人」。小城が半生でこだわり続けたものが、そこにあった。
この記事の後半には、小城氏が土日返上でまさにカネボウの人間となって、再建に奮闘する姿がレポートされています。小城氏が標榜する人を中心に据えた再建方針には、まったく異存はありませんし、日本型の再生ビジネスのモデルとなる可能性も期待できます。また、外部から再建のために乗り込んだ経営者が、プロパーの社員と同じ意識で行動することも重要です。
ビジネスプランの執行には、戦略を立案する外部の人間と、それを実行に移す内部の社員との間での価値観の共有が必要です。しかし、両者があまりにも一体化しすぎると、改革の矛先が鈍る危険性が出てくるのも事実です。 例えば、スポンサー企業として丸紅グループが決定したばかりのダイエーの再建プランに対しても、批判的な声が高まっています。 情報源は、『「既得権温存、ダイエー再建策――「心装開店」へ覚悟必要』(2005年3月7日 日本経済新聞 朝刊 9面)です。
「これで何が変わるのだろうか」。ダイエーグループ首脳は首をかしげる。日本の流通史上、最大規模の企業の合併・買収(M&A)だったダイエー争奪戦。射止めたのは大株主で年間700億円の取引がある丸紅連合だった。丸紅は株主としてダイエーの経営をチェックできず、取引先として「競合店より見劣りした商品を供給したのも経営不振の一因だったはず」(ダイエーOB)。
機構がダイエー支援に際し、支援を検討する企業に求めていた「21世紀にふさわしいビジネスモデルの構築」よりも既得権益を温存したようにも見える。水槽によどんだ水を少しでも残したままで新たに真水(資本、商品)を流し込んでも透明にはならない。
ダイエーは昨年9月、機構入りを拒み総合スーパー(GMS)撤退、不採算店の大量閉鎖、食品スーパーの出店加速を柱とする独自の「中期計画」を策定。支援企業に丸紅を想定していた。迷走を経て機構入りしたダイエーは望みを絶たれたはずだが、今やダイエーと機構は蜜月の関係となり機構が中心で作成した再生計画案は「中期計画」が土台だったという。「いつの間にか助けてもらうダイエーが支援企業を選ぶ立場になっていた」。同社の支援を検討した企業の幹部はこう振り返る。
ダイエーの再建もスタート台に立ったばかりの段階です。したがって、丸紅側が提案した再建計画が首尾よく成功するかどうかを、現段階で占うこともできません。また、小城社長が信じる従業員を中心に据えてのカネボウの再建の行く末についても、いまだ判断すべき材料がありません。
ただし忘れてならないのは、ダイエー、カネボウの再建には国民の税金が注入されていて、国民も両社のステークホルダーの1つだという点です。したがって企業価値の判断には、国民にとっての価値という視点も必要となります。従業員や既得権益者への配慮から、国民の利益に反して改革プランが変更されることがあってはならないと思います。
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