世襲批判の中で次期社長候補を噂される創業家御曹司の意外な共通点
2005年03月08日
ソニーが大幅な経営陣の刷新を発表しました。次期社長が噂されていた久多良木健副社長も退任して、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の社長兼CEO職に専念することになります。取締役7名の一挙退任の裏には、社外取締役の意向が強く働いた結果と報道されています。
業績好調な中で、予定通りの社長交代を発表したのが流通の丸井です。 情報源は、『丸井、全国展開に挑戦、33年ぶり交代青井浩新社長』(2005年3月7日 日経流通新聞MJ 5面)です。
丸井は4月1日付で青井浩副社長(44)が社長に昇任、青井忠雄社長(72)は代表権のある会長に就く人事を発表した。33年間、トップの座にいた忠雄氏からバトンを受ける浩氏は日経MJのインタビューに応じ、「若者向けファッションに特化して全国に店舗展開する」と得意分野に回帰する成長戦略を語った。
青井忠雄氏が社長交代の会見で述べたポイントは次の通り。
世襲に対する批判もあるが、人物、能力次第。サラリーマン社長は本当の意味での愛社心に欠ける。新社長は丸井を愛し、問題意識を持って的確な献策をしてくれた。絶対服従を強いたつもりはない。子は親の後ろ姿を見て覚えていくものだ。私は会長として大所高所からバックアップはするが院政を敷くつもりはなく、1期(2年)か2期で代表権は手放す。
ここで、気になったのは父親の青木忠雄氏の「世襲に対する批判もあるが、人物、能力次第」というところです。要するに創業家の人間であるが、あくまでも人物本位で選んだという言い分です。同じような台詞をトヨタの奥田碩会長が、創業家の豊田章男氏が副社長に昇格することを発表した時に言っていました。グローバル企業となったトヨタでも、「 豊田家はグループの旗であり求心力」として大きな存在であることを、ハッキリと認めています。
西武の例をもってして、世襲を全て悪と決めつけるつもりは毛頭ありませんが、日本企業では(時には欧米企業でも)、創業家の威光には強いものがあります。宅急便の黒猫ヤマトでも、トヨタのような大政奉還の噂が出始めました。 情報源は、『ヤマト、脱「宅配便依存」へ――小倉昌男元社長の長男・康嗣氏、社長候補に急浮上』(2005年3月4日 日本経済新聞 朝刊 11面)です。
「宅急便」の創始者であるヤマト運輸の小倉昌男元社長(80)の長男、小倉康嗣取締役(44、写真)が山崎篤社長(59)の後継者として急浮上してきた。康嗣氏がデリバリー事業の受け皿となる準備会社社長に就任、来年4月に持ち株会社の下で宅配便などを担う新たなヤマト運輸の社長になることが固まったからだ。
康嗣氏は慶大卒業後、大日本印刷を経て1989年にヤマトに入社。99年には39歳で取締役に就いた。昨年4月には営業担当取締役から関東支社長に移り、「社長就任の目が遠のいた」との見方も一時出ていた。
康嗣氏が次期社長に就任すれば、87年に昌男氏が社長を退いて以来、4人の社長を経て経営権が創業家に戻る。
創業者一族であっても、業績が悪化すれば退任せざるをえないのは、ソニーと同じです。例えば、玩具メーカー・タカラの佐藤慶太社長は、業績悪化の責任をとって代表権のない会長職に棚上げされることになりました。後任としては創業家以外の人間が、初めて同社の社長に就任します。普通の会社であれば、西武のような専横は起きる可能性は極めて稀でしょう。
ここまで、いろいろな社長や次期社長候補の経歴を調べてきて、ある共通点を発見しました。
- 青井 浩 慶応義塾大 文(1983年卒)
- 豊田章男 慶応義塾大 法(1979年卒)
- 小倉康嗣 慶応義塾大 法(1984年卒)
- 佐藤慶太 慶応義塾大 法(1980年卒)
見事に慶應大の卒業生ばかりです。以前に上場企業の社長の出身大学の調査結果に関する投稿をしたことがあります(「社長もいろいろ」時代に「社長の出身大学ランキング」の意味はあるか)。そのランキングでダントツの1位だったのが、慶應大学です。これで理由がわかりました。決して「慶應大を卒業すると、上場企業の社長になれる可能性が高い」のではありません。原因と結果の関係を反対に考えるべきです。つまり「元々社長になれる可能性の高い創業家の子息が、慶応大卒業者に多い」ということです。
今回は、たまたま最近話題になった企業を取りあげた結果にすぎません。本格的に調査すれば、創業家一族で慶應卒業者はもっとたくさん見つかるでしょう。例えば、小林一族の会社・化粧品のコーセーの副社長小林一俊副社長も、1986年の慶應法学部卒業です。順調にいけば社長になるのではないでしょうか。慶應に二世が多いのは、ビジネス界に限ったことではありません。あの小泉純一郎首相も卒業生です。また、芸能人の子供も多数幼稚舎から入っています。
創業家一族で慶應大学を卒業後に親の会社に入社しても、社長になるまでに挫折する例もあります。ダイエーとイトーヨーカ堂の御曹司は、奇しくも商学部の同じゼミの同期生でした。中内功氏の長男・中内潤氏は副社長まで、伊藤雅俊氏の長男・伊藤裕久氏は専務までで、ともに社長の座に就くことなく退社しました(ダイエー再建スポンサーにイオンが選ばれた場合の政治的影響は推測不能)。運もありますが、やはり大企業の社長には、それなりの器が要求されるのでしょう。
最後に、「若くて上場企業の社長になった慶應の卒業生は、みんな創業家の関係者だろう」と、邪推されてもいけないので、それ以外の例も紹介しておきます。ファーストリテイリングの玉塚元一社長や、ローソンの新浪剛史(にいなみたけし)社長も慶應出身者ですが、創業家とは一切関係ありません。玉塚氏は1985年の法学部卒、新浪氏は1981年の経済学部卒です。2人ともあくまでも本人の実力だけで、社長になりました。ただし、慶應ブランドだけでは不十分というわけでもないでしょうが、2人ともMBAを取得しています(ファーストリテイリング社長玉塚元一氏を単なる若大将社長と見なす疑問)。
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