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有能なプロフェッショナル・マネジャーを輩出するには、有能なヘッド・ハンターも必要

2005年04月05日

4月は人事異動のシーズンです。中には意に沿わない辞令を受けて、転職を考え始めた人もいるのではないでしょうか。今回は三顧の礼をもって迎えられて社長になっても、簡単にクビになるケースがあるという話です。情報源は、『ゴーンになれず退任する訳――“助っ人”社長1年持たず』(2005年4月4日 日経産業新聞 28面)です。

2003年に経営破綻した大型観光施設、ハウステンボス。3月31日付で今泉良一社長(58)がひっそり辞任した。今泉氏は米化学会社イーストマン・ケミカルの日本法人社長を経て、ハイヤー管理会社の大新東の役員に転じた。ヘッドハンティング会社の誘いで、野村プリンシパル・ファイナンスの傘下に入ったハウステンボスの社長に昨年6月に就任。当初は「コストコントロールで再生できるはず」と自信を示したが、わずか9カ月で退任した。

「忸怩たる思い。今でも適任だと思っている。あと1年欲しかった」。今泉氏を野村側に推薦したヘッドハンティング会社、東京エグゼクティブ・サーチの加藤春一社長は無念さを隠さない。

NTTドコモ副社長からの電撃移籍で話題を集めたボーダフォンの津田志郎社長(59)は4月1日、代表権のある会長に退いた。在任わずか4カ月。後任社長には、ボーダフォンUK社長で、日本テレコム社長を務めたこともあるウィリアム・モロー氏(45)が就いた。

津田氏はヘッドハンティング会社の日本コーン・フェリー・インターナショナルにスカウトされ、三顧の礼で迎えられたが、英本社への発言力には不安が残る。そこで今年1月に自ら、英本社のトップに、モロー氏の社長起用を直訴した。

産業界では、昨年6月に松井証券から転じた元久存・武富士社長(43)も3月に辞任した。いずれのケースも、本当の辞任理由ははっきりしない部分もあるが、共通点を探すと、本当の決定権限を持つ大株主やスポンサーが背後におり、スカウトされた本人たちは「雇われ社長」だった事情も見えてくる。

ある外資系人材サーチ会社の社長は「外部から招いた経営者を改革の『シンボル』としか見ない大株主も多い」と指摘する。再建を託されたと意識し、改革に意欲を燃やせば燃やすほど、大株主の意図とかい離してあつれきが生じる。社員も大株主の方を向き、求心力が低下する。本人も実権を持たされなかったことに気づき、有能な人材ほど短期間で見切りをつける――。「少なくとも3年間の猶予と株主の全面支援がなければ、大願は成就できない」と、この社長は語る。

日産自動車のカルロス・ゴーン社長のケースが鮮烈だったせいか、助っ人社長一人への期待感が高すぎる側面もあるようだ。社員がその気にならなければ再建は難しいのに、スーパーマン社長が組織を魔法のように立て直してくれると期待。当初の熱が冷めると、社長が孤立してしまう。

日本でも今やトップのヘッドハントは日常茶飯事。新生ダイエーのトップにも林文子・前BMW東京社長(58)が就任する。ただ、ヘッドハント先進国の米国でも失敗例はごろごろしている。本人の能力、社員のやる気、大株主のサポート――。3つがうまくかみ合ったとき、鮮やかな再建劇が初めて実現する。

日本では、雇われ社長、恰好よく言えばプロフェッショナル・マネジャーが成功する確率がまだまだ低いようです。この記事の中にある3氏が思ったような成果をあげられなかったのに対して、カルロス・ゴーン氏が成功したのは、本人の能力の違いによるのでしょうか? ゴーン氏が優秀なマネジャーであることは間違いないでしょうが、それ以外にも成功するための条件が揃っていたからだと思います。

ゴーン氏はの日産入社前のキャリアは、タイヤのミシュラン、自動車のルノーで、一貫して自動車に関連した業界で経験を積んでいます。日産の社長になっても、過去の経験を十分に生かすことができたわけです。また、大株主のルノーから日産に送り込まれたので、株主の支援という面でも心配はありません。

ボーダフォンの津田氏の場合も、同じ業種内の転職になります。しかし、同氏のキャリアは電電公社以降ずっとNTTグループ一筋で歩んできたものです。NTTはいまなお、公社時代の官僚的な雰囲気を残す日本的な会社です。そういった環境で育ってきた人が、いきなり外資系企業のトップに就いても、戸惑うことが多いのは当然という気もします。

武富士の元久氏は、正直なところ武富士という問題の多い会社に移った動機もよく理解できません。詳しい事情は不明ですが、ある意味でうまく行かなくて当然というような印象です。

ダイエーの林文子氏も自動車業界から流通業界という異業種間の転職となります。この点では難しい面も予想されますが、必ずしも異業種間の転職が失敗するというわけでもないので、悲観しすぎてもいけません。例えば、アップルコンピューターからマクドナルドに転じた原田永幸CEOは、わずか1年で業績を急回復させました。

ダイエーの場合の問題は、林氏をサポートすべきNo.2のCOOが未だ決まっていないことです。産業再生機構による林氏の登用には、改革のシンボルとして選ばれた側面も強いようです。今後決定されるCOOの役割が非常に重要になってくるのではないでしょうか。

このような事例を見ると、日本マーケットでは欧米に見られる業界を問わずに活躍するプロフェッショナル・マネジャーが誕生する可能性はないのでしょうか? 中には華麗なる転身を続けている人もいます。例えば、この2月にエアバス・ジャパンの社長に就任したグレン・フクシマ氏はその典型でしょう。次が同氏の略歴です。

  • 1990年 4月 日本AT&T総合政策本部長、同社副社長
  • 1998年 5月 アーサー・D・リトル(ジャパン)社長
  • 2000年10月 日本ケイデンス・デザイン・システムズ社長、同社会長
  • 2004年 8月 日本NCR(株)執行役員共同社長、同社代表取締役共同社長
  • 2005年 2月 エアバス・ジャパン社長

コンサルティング会社のアーサー・D・リトルの社長以降は、極めて短期間で異業種企業のトップを歴任しています。フクシマ氏はカリフォルニア出身の日系3世で、日本のビジネス界にキャリア・チェンジする以前には、米国大統領府通商代表部(USTR)の対日代表を務めた弁護士です。したがって、一般の日本人と同列に論じることはできません。

フクシマ氏が華麗なる転身を実現してきたのには、別の理由もあると思います。同氏の夫人は、日本コーン・フェリー・インターナショナル社長の橘・フクシマ・咲江氏です。 夫のフクシマ氏の転職に、ビジネスとしてどれくらい関与していたかはわかりません。日本のヘッド・ハンティング(エグゼグティブ・サーチ)の第一人者が常にアドバイスしてくれるわけですから、その夫が転職に失敗することはなかったのでしょう。逆の見方をすれば、夫の転職さえ満足にサポートできないようでは、夫人の面子も潰れてしまうことになります。

冒頭の記事の例に戻れば、目利きのヘッド・ハンターが関与していても、トップの転職が必ずしも成功するわけではないことは明らかです。日本がプロフェショナル・マネージャーを輩出できるようになるには、その前提として有能なヘッド・ハンターが存在することが必要でしょう。なお、今回の事例に登場した社長は、失敗したとはいえ一度はトップの地位を味わったわけですから、他人がとやかく言うのも失礼な話です。大多数の人間は、そもそも社長になれないわけですから。

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