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紆余曲折の末、ダイエー社長は当初からの最有力候補樋口泰行氏で決着

2005年04月15日

注目されていたダイエーの社長が、意外に早く決まりました。 情報源は、『ダイエー社長に日本HPの樋口氏――「脱・中内流」実行役に、仕入れ・物流刷新』(2005年4月15日 日本経済新聞 朝刊 3面)です。

ダイエーの社長選びは難航の末、当初の最有力候補だった日本ヒューレット・パッカード(HP)の樋口泰行社長(47)に落ちついた。樋口氏は仕入れから販売にいたる業務全般の改革を率い、仕入れ先などとの交渉に当たる。本部主導の大量一括仕入れで成長した「中内モデル」からの脱却を進める実行役だ。ビー・エム・ダブリュー東京前社長で会長となる林文子顧問(58)は売り場の士気向上を担う。二枚看板の足並みが問われる。

樋口氏は情報システムに強いうえ、経営コンサルタントの経験もあり、産業再生機構は「大きな組織の戦略を立案し、実行する能力がある」と期待する。林氏は販売のプロで、営業現場に強い。疲弊する売り場の活性化は林氏が受け持ち、全体の戦略構築は樋口氏が担当するとみられる。

スポンサーは当初、林氏一人を念頭に置いたが、再生機構が「巨大組織を切り盛りするには分業が必要」と異を唱えた。年齢も考慮、若い樋口氏でバランスを取った。

実は、すんなりと今回の発表に辿りついたわけではありません。最有力候補の樋口氏の目は完全に消えて、その結果トップ不在が長期化するとの観測記事もありました。情報源は、『時流超流・トレンド-意中の樋口氏、土壇場で宙に ダイエー社長人事難航、トップ不在長期化も』(2005年4月4日 日経ビジネス 13面)です。

「それは、ヒューレット・パッカードさんが事実無根と発表しているのだから…」。3月26日夜、ダイエーを支援する丸紅の首脳は、淡々とした口調でこう語った。一部新聞が「ダイエー社長、樋口(泰行・日本ヒューレット・パッカード社長)氏で調整」と報じたのは、その日の午後のこと。丸紅首脳は、スポンサーとしての意向を口にしないまま、樋口氏のダイエー社長就任の可能性を暗に否定した。

同じ日の夜、丸紅と共同でスポンサーになったアドバンテッジパートナーズ(AP)の首脳も、「明日の新聞に訂正記事が出ると聞いています」と、丸紅首脳と同様の認識を示した。しかし、普段は冷静沈着で知られるこの首脳も、その後に続く言葉に思わず本音が漏れた。「現職がある人たちですから。新卒採用と違って、難しい」。

産業再生機構がダイエーの新スポンサーを発表したのは3月7日。その直後のインタビューで、APの笹沼泰助代表パートナーは、ビー・エム・ダブリュー東京前社長の林文子氏が「経営トップ層の役職」に就く見通しを明らかにしたうえで、3月中に林氏を含めた「強力な布陣」を発表できると自信を見せていた。

実は、林氏と並ぶ経営トップ層の最有力候補に浮上していたのが、樋口氏だった。2月の最終入札の際は、まだ樋口氏の名前は挙がっていなかったものの、その後の選考過程で丸紅、AP、再生機構などから「満票」(丸紅首脳)に近い評価を獲得。丸紅とAPは、少なくとも3月後半には、樋口氏を社長に起用する方向で調整に入っていた。

何となく再生機構側の情報コントロールに甘さが見られる感じがします。実は林文子CEOの方も、正式にダイエー就任が発表される前に噂が流れました。 その噂を受けて、BMWの方では直ぐさま林氏の退職を発表してしまいました。その後から、正式なダイエーCEOへの就任が発表されるという順番です。

もし、ダイエーCEOの職が認められなければ、林はただの浪人となる可能性もあったわけです。このような心配は、実は素人の見方かもしれません。再生機構側は、あえてアドバルーン的にトップ人事の噂をリークすることにより、関係者の反応をうかがうという高度な戦術を使ったのかもしれません。

結局は、CEOとCOOの両方とも、当初からの予定通りの人選で落ち着いたので、真実が明らかになることはないでしょう。

一度は、社長就任の可能性が消えたことになった樋口氏ですが、ボストン・コンサルティング・グループ、アップル・コンピュータ、HP(入社当時はコンパック)と続いた外資系キャリアにも、そろそろ終止符を打ちたいと言う意向も明らかにしていました。情報源は、『社長の仕事は皿回しに似ています』(2005年4月16日 週刊東洋経済 121ページ)です。

――樋口さんのハーバード時代は強烈ですね。2年間が人格改造講座だったと書かれています。

とにかく圧倒されました。口から生まれたようなそれでいて優秀な人間が全米から集まってくる。そんなクラスメートを英語で論破するなんて並大抵じゃできません。私なんか技術者で英語力も大したことがない。日本から来た他の学生に比べても劣っていましたね。

――学生寮に住み最初の1年間でキャンパスを出たのが3回だとか……。

10分、15分外に出るのがロスだと思っていました。買い物に行かなくてすむように1年分の衣類、洗剤なども買いそろえました。ハーバードで学んだことは自分の考えをどのような場所でもきちんと主張できる素地が身に付いたと言うことでしょうか。溶接の技術者としては深掘りばかりを考えていましたが、スコープが広がりましたね。ハーバードに行って初めて自分の視野が狭かったことに気づきました。スコープは人からこじ開けられないと広がらない。外圧が必要なんですね。

――樋口さんはまだ40代ですから、今後ご自分で事業を起こしたいと思いませんか。

起業は難しい。これまでやってきたことをもう一度やるかと思えばそれは大変ですね(笑)。とは言えいつまでも社長業を続けるのも、ね。硬直化するのが世の常ですから。ただ外国の資本の下で仕事をするのはこれを最後にしたい気持ちはあります(笑)。

外資はHPを最後にしたいという発言をした時には、すでにダイエー社長への転身を決断していたのではないでしょうか。そうでもなければ、こうもハッキリとは言わないと思います。

さて、樋口氏が著した『「愚直」論』ですが、その中身もタイトルに違わずに率直な内容になっています。情報源は、『愚直論-無力感、挫折感を乗り越えて』(2005年4月11日 日経ビジネス 87ページ)です。

本書の副題は「私はこうして社長になった」。45歳の若さで日本ヒューレット・パッカードの代表取締役社長に就任した著者が、自らが歩んだ異色のキャリアを通じて培ってきた仕事の哲学を、率直に綴った書だ。

松下電器産業の技術者であった著者は、学ぶべきものもあったが不満も多かったと松下時代を振り返る。そうした日々にあって、あるプロジェクトで仕事を共にした米国IBMのスタッフたちから、強烈なカルチャーショックを受けたと言う。米国流の価値観やマネジメントに触発された著者は、「MBA(経営学修士)留学」を渇望するようになる。猛勉強を始め、ついには社内制度を使って米ハーバード大学への入学を果たすが、帰国後に松下を去る。その後、外資系経営コンサルティング会社を経て、コンピューター業界でキャリアを積んでいく。

その間に味わった無力感や挫折感を、著者は隠すことなく述べていく。それらの幾つかは、トップに立つ者にふさわしい武勇伝とはほど遠く、むしろ不平不満や弱音に近い。しかし、それらはビジネスパーソンであれば誰もがぶつかる現実の問題である。数々の壁を意志と努力で乗り越えた著者の体験談は、どのような職に就く者にとっても参考になるだろう。

いわゆる社長本も、最近はパーソナルな部分にまで踏み込んだ内容になってきました。サイバー・エージェント社長の藤田晋(すじたすすむ)氏が書いた『渋谷ではたらく社長の告白』も、その率直さが高い評価を受けています。 情報源は、『ブックレビュー』(2005年4月16日 週刊東洋経済 120ページ)です。

将来を夢見ている学生、仕事の壁にぶつかったビジネスマン、IT経営者を十把一絡げに見ている人、そして人生にへこたれている人。全ての人に本書を贈りたい。

著者の藤田晋氏はビットバレーの生き残り、サイバーエージェントを7年にして年商360億円規模の上場企業に育て上げた若手ベンチャーの代表格である。女優の奥菜恵氏と結婚し話題にもなった。

こう書くと、浮ついた若手起業家と感じるかもしれない。一度本書を手にとってほしい。創業当時カネもなく人脈もなくあるのは若さと頑張りだけ。藤田氏たちは週110時間、月に440時間以上働いた。「何を聞かれてもできないというな。持ち帰ってできるようになればいいんだ」。藤田氏は創業仲間にそう話す。株式上場後はネット上で攻撃される日々。単純なサクセスストーリーでは決してない。成功は必然であることを教えてくれる。青春小説としても一級品。

社長本市場でも、一部では粗製濫造に近い現象が見受けられ、飽和感も感じられるようになりました。そんな中でも、樋口、藤田の両氏はいまどき貴重な寡作家の部類に入る方でしょう。したがって、今回紹介した2冊は、それなりに読み応えがあるもになっているのではないでしょうか。


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