自殺サイト対策は民間の自主規制に任せるだけで十分か?
2005年06月30日
総務省が発表した2005年度版の「情報通信白書」では、昨年の1日当たりのインターネットの平均利用時間は37分となり、初めて新聞の31分を上回ったことが明らかになりました(ネット利用1日平均37分、初めて「新聞」抜く 情報通信白書)。一般社会にネット利用が普及することは、基本的には歓迎すべきことです。しかし、残念ながら諸手を挙げて喜んでばかりもいられないことも事実です。ネットの利用時間が増えれば、同時に有害コンテンツに触れる機会が増加するといった、負の側面が伴うからです。中でも特に深刻な問題となっているのは、いわゆる「自殺サイト」の流行です。ことの重大性に鑑み、各国政府とも対策としてコンテンツ規制を開始しました。 情報源は、豪政府: 刑法改正で自殺サイトに最高4600万円の罰金です。
オーストラリアで24日(現地時間)、自殺関連サイトの運営を禁止する刑法改正案が議会を通過した。インターネットなどで自殺をあおったり、自殺方法を公開すると、法人は最高55万豪ドル(約4600万円)、個人は同11万豪ドル(約900万円)の罰金を科せられる。
日本で集団自殺が相次いだことなどから、3月から審議を続けていた。総督の署名を経て改正が確定する。
この情報だけでは、オースラリアの国内法の対象とされるサイトが、どの範囲に及ぶのかはっきりわかりません。グローバルにつなっがているインターネットの世界において、一国の政府がコンテンツの発信規制を行なうことの実効性には、限界もあります。しかし、コンテンツの発信が完全に当局の管理下にある中国であれば、その規制効果は絶大です。 情報源は、中国:国内ネットサイト、未届けは一時閉鎖にです。
中国国内のインターネットサイトは、今月30日までに情報産業省の「ICP・IPアドレス情報管理システム」(http://www.miibelian.gob.cn)で届出手続きを行なわなかった場合、法律により一時的に閉鎖される。また関連するアクセスサービス提供者はそのサービス提供が停止される。
国家統一部署によると、情報産業省は関係部門と共同で、今年2月から国内のインターネットサイトに対して集中管理を行っている。これまでにサイト主催者の大多数が同システムにサイトの関連情報を提出している。
また、中国政府は、自国民に有害コンテンツ(=政府のとって不都合なもの全て)を閲覧させないために、フィルタリングをかけています。表現の自由への配慮を無視すれば、『不適切な』コンテンツを供給と需要の両サイドから規制することは実現可能です。もちろんこのような規制がインターネットの理想的な利用形態にほど遠いことは、言うまでもありません。
完璧とは言えないオーストラリア政府の決定ですが、ある程度の抑止効果は期待できるでしょうし、ネット自殺問題に対する政府の断固たる姿勢を示す意味もあります。法案成立までの迅速さを考えれば、同政府の対応は大いに評価されるべきだと思います。
実は私が注目したのは、この法案成立までのスピードの部分、「日本で集団自殺が相次いだことなどから、3月から審議を続けていた」にあります。きっかけの1つとなった日本の状況は、どうなっているのでしょうか? 私には、対応のスピードと内容とも十分とは思えません。 情報源は、自殺サイトなど有害ネットに規制案 遮断ソフト普及もです。
政府は29日、爆発物の作り方や自殺に関する情報掲載などインターネット上の違法・有害情報に対する当面の対策を決めた。山口県立光高校で起きた爆発物事件などを受けたもので、警察が接続業者(プロバイダー)に発信者情報の提供を求めるための基準作りや、有害サイトを遮断する「フィルタリングソフト」の普及などが柱とされている。
この対策は、内閣官房や総務省、文部科学省、警察庁など関係省庁の検討結果を取りまとめたもので、(1)接続業者による自主規制の支援(2)フィルタリングソフトの普及促進(3)情報モラル教育の充実(4)相談窓口の充実――の4項目で構成されている。犯罪として認定するのが難しい「自殺サイト」への対応策では、警察がサイト作成者の情報の提供を接続業者に求める手続きを検討する。警察から提供を求められた業者が情報を開示する際の判断基準もまとめる。
「自殺サイト」について、警察は自殺の幇助(ほうじょ)や教唆に当たるなど明らかに違法と見られるサイトを除き、業者に情報開示を強制できないとしている。今回の対策は、自殺を防止するため、サイトに書き込みをした人の情報開示を求めることも想定。政府は総務省や経済産業省を中心に、業者の自主規制のあり方を検討する研究会を7月中にも立ち上げる。
ただ、対策をまとめた文書には「表現の自由や通信の秘密などに配慮」との文言が盛り込まれており、政府関係者は「あくまでも自主規制を促すのが目的。法的な規制は中長期的な課題で、強制措置は当面考えていない」としている。
日本政府の姿勢は、オーストラリアや中国のパターンとは違って、法律により当局が直接自殺サイトを取り締まり、量刑を科すという方向ではありません。あくまでもガイドラインを示すだけで、接続業者(ISP)の自主規制に委ねるという姿勢です。このような内容になった背景には、記事中にもあるように「表現の自由や通信の秘密などに配慮」したためです。
本件に限らず、ネットのコンテンツ規制に対する日本政府の方針は、業界の自主規制を基本としています。例えば、ネット・オークションでの偽ブランド対策でも同様の方針が貫かれています。情報源は、ネットオークションのトラブルは運営者に損害請求できるか?です。
消費者の被害の防止のために、5月30日、総務省は、インターネットオークションサイトにおける知的財産権侵害対処方法として、「プロバイダ責任制限法ガイドライン」策定作業を開始した。同ガイドラインの主な内容としては、他の信頼できる第三者(信頼性確認団体)が一定の信頼できる手続きに即して著作権侵害に関する確認を行うなどの手続き、さらには、削除申出を受けたインターネットオークション事業者における確認事項の整備を行うことなどが考えられている。インターネットオークションにおいて、商標権侵害の出品物を発見した商標権者等の申出の手続きとして、申出者から個別に証拠を提出させるのではない、としているのである。
さらに、去る6月15日、警察庁、総務省及び経済産業省は、インターネットオークションを通じた模倣品・海賊版の販売による消費者の被害を防止するため、オークション事業者3社(株式会社ディー・エヌ・エー、ヤフー株式会社及び楽天株式会社)に対して、「自主規制ルールを整備し、自主的取組みを強化するよう要請」をおこなった。
個人的には、ネットオークションの規制に関しては、ガイドラインによる行政指導型の対応でも十分だと思います。偽ブランド品をつかまされた被害者に同情はしますが、その被害は財産にとどまるものであり、生命が危険にさらされるわけではありません。
一方、自殺サイトの方は直接国民の生命に影響を及ぼすことであり、問題の重大性は、オークションサイトでの違法出品とは比較になりません。ガイドラインによる民間の自主規制任せでいいのかという疑問を感じます。国民の生命を守るのは、政府の最大の責任であるはずだからです。
もちろん、ネット上のコンテンツに関して公権力が過度に介入するのは反対です。もし、自殺サイト規制法案のようなものが実現すれば、それをきっかけにしてその以外のコンテンツに対する規制の動きが強まることを危惧する人が多いのかもしれません。表現の自由と国民の生命の保護のバランスをどう考えるかは、極めて難しい問題です。果たして現在の日本は、民間の自助努力だけで十分な成果が期待できるほど成熟した社会と言えるのでしょうか? 自殺サイト対策は、官民双方を巻き込んだ議論をもっと行うべき問題だと思います。
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