ニュース報道の軸足をネットに移すCBSに比べ、日本のテレビはDVD化にご執心
2005年07月14日
7月12日の日経新聞の1面トップを 『日テレ、ネットで番組を有料配信・1年内に1万本以上』 という記事が飾りました。民放各社がネット配信に消極的であった理由としては、日本は諸外国と比べて著作権の問題が複雑であることを建前に使ってきました。メディアとしての総体的な地位の低下や、広告スポンサーのネットへシフトを助長することの警戒感が、その本音であることは明らかでしょう。
また、放送と通信の両方を所管しながらも、明確な方針を打ち出せないでいる総務省の顔色をうかがっていた節も見られます。しかしテレビ局各社は、いつかはルビコン川を渡らざるをえないことは、重々覚悟していたはずです。注目されていたのは、『どこの局』が、『いつ』ということです。今回の日本テレビの発表が、テレビ業界全体にルビコン越えのインパクトを与えたのであれば、今後は他の民放も堰を切ったように配信事業の開始を発表してくるはずです。表面上は視聴率競争でしのぎを削っているようではありますが、放送免許で守られてきたのがテレビ業界の体質です。したがって、発想は横並びですし、動画配信をためらう各社個別の理由というのも存在しないでしょう。
動画配信に対してようやく重い腰を上げた日本のテレビ業界に比べれば、米国はかなり先をいっているようです。ネットの脅威にさらされても、「座して死を待つ」ことをよしとしない、かの地の国民性を考えれば当然ではあります。情報源は、『ニュース・過去映像2万5000本、米CBS、ネット無料配信』(2005年7月14日 日本経済新聞 朝刊 9ページ)です。
米3大ネット局CBSは12日、ニュース映像のインターネット配信を同日から始めたと発表した。利用者は最新ニュースや過去に蓄積した25000本の映像を24時間、無料で視聴できる。ニュース番組作りでも簡易ホームページの「ブログ」をフル活用して視聴者の意見を取り込むなど、ネット時代を先取りした編集・配信体制を構築する考えだ。
ネット局のネット利用はこれまで文字情報や静止画の提供が主体で、テレビ番組の補完という位置付けだった。CBSは2010年までに利用世帯でブロードバンド(高速大容量)通信がケーブルテレビ(CATV)と衛星放送の合計を上回ると判断、今回のネット配信開始を機に「ニュースに関してはネットに軸足を移す」と明確に戦略を転換した。
米国ではニュース専門局CNNが今秋にも有料のネット配信を始めるが、CBSは無料とし、広告で稼ぐ事業モデルを継続する。テレビなど既存メディアの広告収入が頭打ちになる一方で、ネット広告は増大を続けており、CBSに追随する動きがほかのネット局大手に広がりそうだ。
テレビ局が膨大に保有するコンテンツの2次利用を考える場合、コンテンツの種類に応じてその利用法を考えるべきでしょう。今回のCBSのように、ニュース映像を無料で配信することは、もっとも合理的なコンテンツの再利用法だと考えられます。またニュースの場合は、他のコンテンツに比べれば、肖像権や著作権に絡んだ問題も少ないはずです。
競合するメディアと比べて、テレビ局がニュース報道において持つ最大の優位性は、動画を提供できることにあります。ひと昔前であれば、新聞、雑誌等の紙媒体に比べて速報性という点で優っていたのがテレビニュースです。しかし、ネット系メディアの登場で、速報性というテレビの最大のアドバンテージが脅かされてきました。提供する情報の深さという点では、新聞、雑誌等にかなわないのは昔のままです。
一方、ニュース動画のコンテンツとしての価値は、時間の経過とともに著しく低下します。2次利用先も、自社ニュースの資料映像として使うくらいの用途くらいしかありません。保有していても将来にわたって価値を生む可能性が極めて低いニュース動画を、ネットサイトで無料配信することは、これによって本来得られるべき利益を失うというリスクもないはずです。
さらに、ニュース映像をネットで配信する時にスポンサーを見つけることができれば、新たな収益源とすることもできます。CBSNew.com のスペースシャトル関連のニュース「Disappointing 'Discovery!」を見たところ、冒頭にウォールマートのCMが流れるようになっていました。
その他にも CBSNew.com では、60 Minuets、60 Minuets Ⅱ、48 Hours等のドキュメンタリー系の看板番組も見ることができます。米国の世相を知りたい方にはお奨めのコンテンツです。中でも 60 Minuets は、英語学習の教材として採用されているケースもありますので、英語の勉強にもなると思います。
日本の場合は、過去のドキュメンタリー系のテレビ番組をもう1度見たいと思っても、その機会はほとんどありません。唯一、NHKの総合テレビがNHK アーカイブスとして、秀作の再放送をしているぐらいです。この種の再放送は見る人が限られているので、視聴率第一の番組編成方針をとる民法各社では不可能なのでしょう。
民法各社のドキュメンタリー系の長寿番組の場合は、「番組放送 ⇒ DVD化」という流れになっていて、ネットでの配信はありません。例えば、TBS系の『世界遺産』、テレビ朝日系の『世界の車窓から』も、DVD化は進んでいます。
しかし、DVDとなると複数回分をまとめて収録することになり、いずれも4000円以上の価格設定になります。これでは、気軽に番組1本だけを再び見たいという人のニーズには対応できません。例えば、『世界遺産』の場合であれば、過去の番組の1本分の内容を100円程度で有料配信するような仕組みがあってもいいのではないでしょうか? これには、DVDのサンプルとしてのマーケティング効果も期待できると思います。動画配信で見た人が、もっとキレイな映像で見たいと思ってDVDを購入する可能性もあるでしょうし。
テレビ局もネット配信を計画する際に、すべてのコンテンツに同じような考え方を適用する必要はないはずです。個人的には、バラエティ番組や歌番組の動画配信は、あまり見ようという気がおきません。一般的にニーズが高いのは、現在DVD化が進んでいるドラマや、ドキュメンタリー系の番組と考えるのが適当でしょう。DVD化と平行して、ネット配信でのサンプリングを実施するのが、マーケティング的には正解だと思います。
なお、世界遺産といえば、日本の知床が国内3番目の登録が認められました。こういうニュースを知った時にテレビ局のサイトに行けば、知床の美しい動画映像が見れるようになっていたりすると、ネットとテレビが融合したことになります。これが動画コンテンツのストックを持たない、新聞社系サイトとの差別化要因となるはずです。この発想は、テレビとネットのカニバリをもたらすものではないでしょう。
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