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mixiを運営するイー・マーキュリー社長笠原健治氏の始まりは「偶キャリ」

2005年07月20日

収益化が難しいといわれていたソーシャルネットワーキング・サービス(SNS)ビジネスの中にあって、首位を独創するのが mixi です。その mixi を運営するイー・マーキュリー社長の笠原健治氏に関する記事が、今週発売の週刊ダイヤモンドに掲載されました。1975年生まれの29歳、東京大学在学中に学生ベンチャーとして起業といった経歴は、ライブドアの堀江貴文社長と共通するものがあります。しかし、実際に起業に至るまでの経緯には、かなりの違いが見られます。 情報源は、『招待制サイトで会員数80万人突破 ネット界の注目株』(2005年7月23日 週刊ダイヤモンド 124~125ページ)です。

大学進学で東京に出た笠原に転機が訪れたのは1997年、大学3年のときである。第一志望の会計学のゼミに落ち、笠原は第二志望だった経営戦略専門のゼミに入ることになった。当時は米国でIT系企業がぐんぐん伸びていた時期であり、授業では「ウィンドウズ対マックOS」「インテル対AMD」といったテーマのケーススタディが中心だった。興味を持った笠原は、こうしたテーマの本を買い漁った。「このとき初めてパソコンを買ったんです」と笠原は照れ笑いする。

自分のパソコンを最初に買ったのが20歳を過ぎてからというのは、ITベンチャーの社長としては極めて遅いITとの出逢いです。中学生の頃に既にパソコンを使いこなしていたというエピソードを持つホリエモンとは対照的です。

ITとの出逢いのきっかけも、純粋な技術的興味ではなく、米国のIT企業のビジネスモデルの研究であるところも異色でしょう。しかし、ITに目覚めるのは遅かったものの、ここからの事業化のスピードには目を見張るものがあります。スピードが命というネットビジネス成功の本質を、最初から見抜いていたのはさすがです。

96年から97年にかけては、日本のIT企業の勃興期でもあった。ヤフージャパンや楽天が登場した頃である。同時期に米国ではネット書店のアマゾンやヤフーのブランドが確立し始め、日本も現実世界でのビジネスがネットに置き換わる兆しが表れてきていた。「今のうちに企業ブランドをつくっておかなくてはいけない」と考えた笠原は、とにかくなにかサイトを立ち上げようと決めた。

とはいえ、パソコン1台以外なにもない地点からのスタートだった。アイディアもカネもなく悩んでいたところ、バイト先の上司が「求人誌に出稿するのはカネがかかる」と言ったのがきっかけで、笠原は求人サイト「Find Job!」を立ち上げることにした。学生の身分ということもあり、親には内緒で開業届を出した。

ネットの特性は大量の情報から必要な情報を探し出す「検索性」と「リアルタイム性」である。その強みを生かせるのは求人情報しかないと考えたわけだ。97年11月のことである。

ビジネスモデルの研究からスタートしているだけあって、自分でネットを利用したビジネスをスタートすることには何のためらいもありません。技術力による差別化を狙うわけではなく、いちはやくブランドを構築することの重要性に着目したマーケティング発想にも、エンジニア出身者とは違ったものがあります。

個人事業主として求人サイトを立ちあげたわけですが、最初から起業家として大きな野望を持っていたわけではないようです。むしろビジネスモデルの研究の延長線上の実験の1つとして、自らトライしてみたというのが本心ではないでしょうか。その実験も最初から順調であったわけではありません。

しかし、初めの1ヵ月間、メールは1通も来なかった。「サイトを立ち上げたら掲載したい企業から連絡があるだろう」という笠原の予想は甘かった。その時は「もうやめようか」とまで思ったが、ホームページで求人案内を出している企業を見つけては一つずつ営業をかけ、少しずつ顧客がついてきたことで、「これは伸びる」と笠原は次第に思うようになった。

留年しながらも事業を続けた笠原だったが、もちろん就職の道を選ぶこともできた。そんなとき、“ビットバレー”という言葉が流行し始め、仕事上で情報交換しているネットベンチャーが次々に台頭していくのを目の当たりにする。就職か起業かという葛藤のすえ、「自分も求人サイトにどっぷり漬かりたい」と、就職の道を捨て、笠原は法人化を決意。99年5月にイー・マーキュリーを設立するに至った。

中退のホリエモンとは違って、笠原氏は東大を卒業しています。したがって、最後までサラリーマンの道を歩むという選択肢が残されていたことになります。葛藤を乗り越え、個人事業から法人化へと本格的な事業家への道への決断の後押しをしたのが、当時のネットバブル時代環境でした。

「Find Job!」の最大の特徴は、デジタル系求人に特化したサイトであるということだ。会社設立以降、このサービスで同社は売り上げ、利益共に倍々ペースで伸びていった。

だが、その一方で笠原は不安を感じていた。求人企業の登録社数は営業をかければ伸びるが、肝心の求職者をサイトに誘導するのは容易ではない。人が集まらなければ、登録社数も頭打ちになる。そこで、集客力のあるサイトを別に立ち上げ、求人サイトに誘導する必要があると考えた。

そこで注目したのが、ちょうどその頃米国で流行していたSNSである。SNSはユーザーの閲覧頻度が非常に高いサイトだ。笠原はそれに賭けたのである。

2004年2月にSNS「mixi」のサービスを開始。SNSの運営は投資負担が大きいため、周りからは「黒字化が難しいサービス」と言われ続けていたが、同社は、会員の急増による広告の増大と有料のオプションサービスを他社に先駆けて導入することで投資費用をカバー。今春にはSNS事業単体でも黒字化を果たした。会員数100万人は目前で、SNS業界ではひとり勝ちだ。

mixi 設立以降のサクセス・ストーリーは、よく知られていることだと思いますので、ここでは特にコメントしません。 私が笠原氏のビジネスキャリアを眺めて発見したのは、それが3つの偶然が重なった結果によってもたらされたのではないかということです。

1つ目の偶然は、第一志望の会計学のゼミを落ちて、第二志望の経営戦略専門のゼミに入って、そこで米国のITビジネスの現状に触れる機会を得たことです。もし会計学を専攻していれば、今頃は公認会計士や銀行マンといった、ネット業界とは全く別のキャリアを歩んでいた可能性もあります。

2つ目の偶然は、大学卒業時がちょうどネットバブル期に重なっていたことです。当時はベンチャー資金の供給も潤沢で、環境面でも正式事業化のハードルが低かったのでしょう。もしこれが数年ずれていれば、求人サイト事業とは学生ベンチャーの思い出としてスッパリと決別して、一般企業に就職する道を選んでいたかもしれません。

3つ目の偶然は、サイトへの集客手段を考えていたところに、SNSという金鉱に巡り合い、後のイー・マーキュリーのコアとなるサービスをスタートできたことです。もし笠原氏が mixi というコア・サービスを持たずに、求人サイトだけに依存したビジネスを続けていたのであれば、同社の事業も現在ほどには拡大していなかったでしょう。

起業家成功物語には、最初から起業家としての強い意志を持って邁進して来たことを強調するものが多いように思います。また、自分自身の力でキャリアを切り拓くためのキャリア・デベロップメントをテーマにした自己啓発本も多数存在します。 しかし笠原氏の例のように、ビジネスキャリアは偶然の重なりによってもたらされた結果と考える方が、正確に実情を表しているのではないでしょうか。

大事なのは、偶然訪れた運命の分起点で瞬時に正しい決断をすることです。その時の準備のために読むのが、キャリア本と考えるべきです。人生いろいろの世の中で、キャリア本の教えのままに実践しても、その通りに成功する保障はありません。その点を理解した上で、キャリア本をベースに自分の将来像を思い描く準備をしておくことは、決して無駄なことではないでしょう。

このような「偶然のキャリア(Accidental Career)」形成という考え方は、日本ではあまり語られる機会が少なかったように思います。最近、「偶然のキャリア」をメインの題材として扱った書籍が発売されました。 リクルート出身で、インディペンデント・コントラクターとして活躍する所由紀氏が著した『偶キャリ』です。これまでにないアプローチですので、ビジネスキャリアを考える参考書として、読んでも損のない1冊だと思います。


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