加盟店の反発必至 楽天の新決済システムは楽天トラベル値上げ撤回の二の舞?
2005年08月03日
楽天の三木谷浩史社長は、同社のショッピングサイトからの顧客情報が漏洩した事件の再発防止策として、管理体制を一新する方針を発表しました。これまであった情報セキュリティ室をセキュリティ本部に格上げして、三木谷氏本人が本部長として陣頭指揮を執ることになります(楽天、顧客情報管理体制を一新:三木谷社長がセキュリティ本部長に)。事件発覚後数日のうちに体制の抜本的な見直しを発表したことは、ユーザの信頼回復への向けての強い決意の表れと評価すべきでしょう。 ますは、その対策案の骨子について紹介します。 情報源は、楽天が情報漏えい対策で店舗向け決済システムを刷新です。
楽天市場に出店する店舗は,商品の受注,決済,配送までを処理するため,(1)カード番号などの「決済情報」,(2)受発注の連絡手段となる「メール・アドレス」,(3)商品の配送に不可欠な住所や名前など「配送先情報」――と三つの取引情報を管理している。7月23日に判明した顧客情報の漏えい事故では,この決済情報の流出を伴っていたことが問題視されていた。
今回発表した新体制のポイントは,三つの取引情報のうち配送先情報以外は店舗側に引き渡さないこと。顧客が楽天市場の店舗で買い物すると,楽天がカード会社と情報をやり取りして決済を処理する。決済が正常に処理できれば,楽天側で受発注が正常に処理できたことを電子メールで顧客に通知。商品の発送に不可欠な配送先情報だけ,店舗側に引き渡す。
新体制では,楽天が決済処理を代行する格好になる。このため,楽天は新体制を店舗向けのサービス「安心サービス」として提供。決済代行の手数料を,各店舗から徴収する。ただし,当初の2カ月間は手数料を無料とする。安心サービスを導入しない店舗では,8月11日からクレジット・カードで決済できなくなる。
また,店舗側には顧客のオリジナルのメール・アドレスとは別に,楽天が一意にひも付けたメール・アドレスを引き渡す。同社が「メールフォワーディング機能」と呼ぶサービスとして提供する予定で,店舗側から顧客のオリジナルのメール・アドレスが流出してしまう危険を回避する狙いがある。
安心サービスの導入は,8月11日に実施する。メールフォワーディング機能は9月1日をメドに導入できるよう,準備を進めている段階。
簡単に言えば、すべての店舗のクレジット決済を楽天が代行し、購入者のクレジットカード番号、メールアドレス等の個人情報も楽天が一元管理するという変更です。さらに注目すべきは、8月11日から「安心サービス」への移行するというスピード感です。安心サービスへの移行を承諾しない店舗は、同日以降はクレジット決済ができなくなるという、まさに加盟店舗にとっていは待ったなしの解決策です。
発表からわずか10日の猶予期間で新サービスが開始される計算です。この短期間では、当然ながら店舗側への事前説明と「根回し」が十分に行われていたわけではないでしょう。説明を聞いた一部の店舗からは、既に新サービスへの反発の声も上がっています。 情報源は、『カード番号、情報流出対策、楽天が直接管理――出店側から批判』(2005年8月2日 日本経済新聞 朝刊 11ページ)です。
楽天市場の有力出店者であるケンコーコムの後藤玄利社長は1日、日本経済新聞の取材で、「楽天が代行する決済業務が増え、手数料収入の増加につながる。だが、カード会社と独自に低い決済手数料率を取り決めていた出店企業の費用負担は増える場合がある」と楽天の対応を批判した。
店舗側からの批判も十分に理解できます。特にカード会社の有利な決済手数料を取り決めていた、信用余力のある大手店舗にとっては、楽天への支払い手数料が増加する可能性もあることも事実でしょう。
店舗側にとっての新サービスのもう1つの大きな問題点は、店舗が購入者の個人情報を全く取得できないことにあると思います。メールアドレスすら入手できなければ、顧客とのコミュニケーション手段を持てなくなります。楽天を通さなければ、自社製品の顧客にコンタクトできないとは、不愉快で不条理な話でしょう。
もし楽天から退店して、自社サイトの立ち上げや他のショッピングモールへの移転を考えたとしても、肝心のメールアドレスがないので、加盟店舗はそれまでの顧客を持ってくることができなくなります。新サービスでも顧客の住所、氏名、電話番号の配送に必要な情報は、店舗側も入手できるので、DMや電話によるマーケティングは可能ではあります。しかし、ネットをベースにビジネスモデルを構築している加盟店舗にとって、これらのマーケティング手段が効率的なものであるとは到底思えません。
新サービススタート以降顧客情報を持たない店舗側は、楽天に依存しないと商売ができなくなるわけです。店舗側から見れば、楽天による店舗の囲い込み強化策の一環とも解釈できるでしょう。さらに独自の決済、顧客管理部門を完備していた店舗にとっては、その部門の人員やシステムが余剰となる問題も生じるでしょう。先に紹介したケンコーコム等の大手店舗が承服しないことは、容易に想像できます。
今回の発表内容だけでは、楽天と店舗との詳細な契約条件は不明です。しかし、このまま楽天が新サービス移行を強行すれば、有力店舗を中心に退店するところが増えることは間違いないと予想できます。現時点では、ライブドア、ヤフー等の他のショッピングモールサイトが、楽天と同様の顧客管理システムを導入するかどうかは定かではありません。他のサイトのシステムの変更がないとすれば、楽天から脱出した店舗が他のサイトへ移る雪崩現象は避けられないでしょう。
これまでにも楽天の強気の方針転換が加盟店舗の反発を招き、実際にライブドアへの転向を促したこともありました(ライブドア系宿泊サイトの加盟急増 楽天の値上げ追い風)。
ライブドア傘下でホテル宿泊予約サービスを運営するベストリザーブは7月25日、新規加盟宿泊施設数がここ2カ月で急増したと発表した。最大手の楽天トラベルの利用料値上げに反発した宿泊施設を、無料キャンペーンなどで取り込んだ。
加盟店舗の予想以上の退出に驚いた楽天トラベルは、値上げを見送ることで当初案の修正を余儀なくされたのです(楽天トラベル 宿泊予約手数料大半値上げ先送り)。
インターネット旅行予約サイトでは最大手となる楽天トラベルは26日、9月に予定していた宿泊予約代行手数料の値上げを、2007年3月末まで大部分先送りすると発表した。
一部は値上げ幅を圧縮する。一定数以上の部屋数を提供している旅館やホテルで1室2人以上の予約の場合、手数料の値上げ幅を1%圧縮する。同社は今年5月、9月以降ホテルや旅館から受け取る手数料を宿泊料の6%から7~9%に引き上げると発表していた。
今回の「安心サービス」の導入は、一般ユーザに新たな負担を強いるものではありません。零細な店舗に個人情報を分散して保管されるよりは、信頼のおける楽天が集中して管理する方が好ましいことには確かでしょう。したがって、ユーザからの信頼回復という点に限れば、新サービスは道理にかなうものです。
ユーザの信頼回復という錦の御旗を掲げて、三木谷社長は加盟店舗の反発を強行突破できるのでしょうか? それとも楽天トラベルの時のように、なんらかの妥協案で収束することになるのでしょうか? 楽天トラベルのケースは、所詮楽天と店舗との利益の分配に関わる問題で、一般ユーザには全く影響のない話です。一方、今回の問題は個人情報管理というユーザに直接関係するものが焦点です。中途半端な妥協案で決着するようなことになれば、かえってユーザの信頼を失う危険性をはらむ問題でしょう。
今回の新サービス導入に踏み切った楽天の隠れた目的を、もっと深読みすることもできます。例えば、新サービスの導入により有力店舗が反発、離反することは、楽天としても織り込み済みという考え方もあるでしょう。有力店舗は一時的に楽天に出店しているだけで、いずれは自社単独サイトの運営を考えていると想像しても、あながち的外れではないはずです。輸出入を商社に頼っていたメーカーが、自社で現地事務所を開設するようになったのと同じ流れが、ネットショップでも起きるという発想です。
もしこのトレンドが正しいとすれば、将来的に退店の可能性が高い少数の大規模店舗からの手数料収入に依存するのは、楽天としてはリスクが高いことになります。だとすれば、退店の可能性の低い多数の小規模店舗にふさわしい機能を強化することにより、リスクの分散化を図ったとも解釈できます。
実際に加盟店舗の中には、商品開発に専念するために、もともと自社で決済機能を持ちたくない、面倒な個人情報の管理もしたくないと考えていた小規模の店舗も存在するはずです。そのような店舗にとっては、楽天の安心サービス開始は朗報でしょう。楽天がコア・ターゲットとして、小規模店舗を狙っているとすれば、新サービス導入をきっかけとした大規模店舗の離脱もやむなしと判断しているのかもしれません。
以上の私の解釈は想像の粋を出ないものです。有力店舗の反発に対して三木谷社長がどう対応していくかで、その真意をも自ずから明らかになってくることでしょう。
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