想定内と冷静さを装ってはいたが、M&A渦中での苦境を認め始めたホリエモン
2005年08月15日
ライブドアの堀江貴文社長の記事が、久しぶりに日経産業新聞の1面を飾りました。内容は日経記者による単独インタビュー記事です。果たしてマスコミが大喜びしそうな新しいネタを提供してくれるのでしょうか? 情報源は、『ライブドア堀江社長インタビュー――フジとの提携「閲覧伸びたらいい」』(2005年8月15日 日経産業新聞 1面)です。
――ニッポン放送株争奪戦が終わり4カ月程度たつが、振り返って何を感じているか。
「これまでにあんなに苦しかったことはなかった。(マスコミや政官財界など)周りからもいろいろ攻撃されるようなことも言われたし、弊社よりも規模の大きなフジテレビジョン側が捨て身になってきた。精神的にも身体的にも厳しかった。ニッポン放送の問題を乗り越えられたのだから、今ではもっと大きなM&Aでも何でもできる気がする。いい経験をした」
――フジとの業務提携は進んでいるのか。
「弊社の公衆無線LAN(構内情報通信網)をフジの報道に利用してもらう件や、フジのブロードウエイミュージカルの日本公演に協力する件が決まっている。今後はイベントや番組企画などで同じコンテンツ(情報の内容)をフジと弊社のポータル(玄関)サイトの両方で活用する可能性も探る。結果としてライブドアのポータルの閲覧件数が伸びたらいい」
ここで紹介されているライブドアの事業プランそのものには、ビッグ・サプライズはありません。それよりも注目したいのは、ニッポン放送株騒動を振り返って「これまでにあんなに苦しかったことはなかった」、「精神的にも身体的にも厳しかった」と、その時の苦境を率直に認めていることです。当時は全て「想定外」を繰り返して冷静さを装っていたのですが...
このインタビュー記事があまり面白くないのは、以前の威勢のいい調子が陰を潜めてしまったからでしょう。記者の方が、仇敵と言われている三木谷社長の楽天の個人情報漏洩事件あたりに話を振ってホリエモンを刺激すれば、もっと過激な答えも引き出せたでしょうに。少し残念な気がします。
しかし無理に強がりを言わなくなったということは、経営者としての器が少し大きくなったと解釈することもできます。さらに最近おとなしくなったホリエモンの言動から、ライブドアの経営に関して、以前ほど情熱を感じなくなってしまったのではないかと推測する向きもあります。
この風評と最近の自社株売却の動きを合わせ考えて、「ホリエモン引退近し」との極論も聞かれるようにもなりました。この辺の疑問に関しては、次のように答えています。
――6月にライブドア株を4千万株売却した。経営から身を引くのではないのかとの憶測も飛んだが……。
「宇宙旅行事業を個人でやるため資金を調達したかっただけだ。小型のロケットを100回くらい打ち上げられる資金が欲しかった。もう当面、ライブドア株は売らない」
――オーナーが自社株を売るのは珍しい。持ち株比率は17%に低下した。もしフジがライブドア株を5%買い増したら、堀江社長でなくフジが筆頭株主になる。
「オーナー経営にこだわりはない。誰が筆頭株主になっても自分は経営者として株主のために時価総額を高めるし、それは大株主である自分のためにもなる。筆頭株主といっても取締役会ではオーナーとして何もかも自分の思い通りには決定していない。現状と何も変わらない」
ここでのキーワードは、「何もかも自分の思い通りには決定していない」という堀江社長の言葉です。自分は噂されるような独裁者ではなくて、他の経営幹部の意見も十分に聞く耳を持つということです。確かに長年の夢である宇宙旅行事業をライブドアとしてではなく、あくまでも個人として取り組むことにしたのも、個人の趣味と社業とを切り分けようとしているからでしょう。
ライブドア騒動の時、既成価値の破壊者として堀江社長を織田信長に例える声も聞かれました。またホリエモンをここまで有名にしたのは、マスコミを利用したパフォーマンスです。国民全体がその一部始終を見守る中で展開された買収劇は、「劇業型M&A」と呼ばれました。しかし、ホリエモンのパフォーマンス振りも、自らを信長に例える小泉首相にはかなわないようです。 情報源は、『大勝負に出た小泉「信長」――大宰相か、変人どまりか』(2005年8月15日 日本経済新聞 朝刊 5面)です。
小泉純一郎という政治家を常識で推し量ることは不可能だ、と前回の当欄(7月18日、『「自民党をぶっ壊す」か?――小泉“原理主義”で政局緊迫』)で書いた。比叡山延暦寺の焼き打ちを命じた織田信長を「偉大なところは周りの人間関係や伝統に影響されず、常に『時代』と格闘したところだ」と以前、語ったことを書いた。これを読んだ自民党首脳が、まったくあの通りだと漏らしたという話を聞いた。
信長が浅井・朝倉軍に肩入れしたとの理由で延暦寺を焼き払ったのと同様に、首相は「反対した連中は全部、たたき落とせ」と命じた。自民党執行部は反対派有力議員の選挙区事情を詳しく調べ、内密の世論調査まで行っている。そのデータをもとにして賛成に回るよう説得し、それでもだめなら、勝てる対抗馬探しを否決の前から進めていたのである。
解散直後、小泉内閣の支持率が急上昇したのは意外ではない。多くの国民の心をとらえたのは、首相が森喜朗前首相との会談で放った言葉「殺されてもいい」ではないかと思う。政治家は口先ばかりで、いざとなれば公約をほごにして妥協に走る、という政治家イメージを首相はこの言葉で一瞬にしてぬぐい去った。これがパフォーマンスかどうか見方は分かれると思うが、「あ、小泉さんは命をかけているんだな」と感じた人々も少なくないだろう。
解散後、記者会見に臨んだ首相の顔をテレビで見て、4年半前、自民党総裁選に出馬を決意したころの表情だな、と感じた。あのとき、小泉氏は「国家国民のために命を捨てる覚悟」という言葉にたいそう感じ入った様子だった。「リーダーは孤独に強くなければならない。決断まではだれにも相談せず、迷わず、果敢に。気骨ある異端がこれからの指導者の条件」というようなことを口にしていた。4年半後のいま、その言葉の意味するところがわかるような気がする
選挙の結果、自民・公明両党で過半数に達すれば、小泉首相は郵政をはじめさまざまなタブーを打破した宰相として戦後政治史に残るだろう。負ければ単なる変人宰相で終わるかもしれない。首相ばかりでなく、日本にとってもこの選挙は大きな分かれ道である。
小泉首相と堀江社長の人気の秘密は、その主張のわかりやすさにあります。判断を迫る時も、デジタル時代にマッチした二者択一が基本で、曖昧さがありません。しかし、 小泉首相の信念「リーダーは孤独に強くなければならない。決断まではだれにも相談せず、迷わず、果敢に」は、経営幹部による集団意思決定を尊重する堀江社長とは、決定的に異なります。
今年度の前半は、堀江社長の「劇業型M&A」がマスコミを席捲しました。今は小泉首相の「劇場型選挙」が注目の的といってよいでしょう。そうなると気がかりなのが、今年の最期に決まる流行語大賞の行方です。今のところは「想定内」が先行しているようですが、このままの調子が続けば「刺客」もかなりの有力候補になるものと予想しますが。果たしてどうなるでしょうか?
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