柳井新体制で急成長を目指すファーストリテイリング社内に動揺は?
2005年09月07日
玉塚元一氏を更迭して自ら社長に復帰したファーストリテイリング(FR)の柳井正会長が、昨日開催した事業説明会で、同社の中期計画を明らかにしました。その骨子は、2006年から3年間に3000~4000億円を投じて3社を買収し、2010年8月期には売上高1兆円を目指すというものです。具体的な計画の詳細は次の通りです(ユニクロが売上高1兆円超目指す事業戦略(フジサンケイ ビジネスアイ))。
グループ全体の売上高を06年8月期見込みの4900億円から、10年8月期に2.3倍増の1兆1200億円に拡大する目標。
このうち3800億円から6000億円に増やす国内の「ユニクロ」事業では、店舗戦略を大転換。新規出店は、従来の標準型店(平均200坪)から、大型店(同600坪)と小型店(同50坪)に重点を移す。
また、9月に東京・銀座に開店する女性下着専門店を皮切りに、子供服などの専門店業態も新展開する。これらの新規出店の積極化で、「最大で年間960億円の売上高を増やす潜在力がある」(柳井会長兼社長)としている。
新事業計画を実行に移すのは、一新された経営陣です。まさしく「新しい皮袋に新しい酒を」という発想でしょう。情報源は、『ファーストリテイリング、ユニクロ、M&A4000億円――柳井体制支える4人組』(2005年9月06日 日本経済新聞 朝刊 11面)です。
玉塚元一社長(43)が退任した後の柳井新体制を支えるのは、今年、異業種から経営陣に加わった4人だ。
勝田幸宏氏(41)は執行役員として3月に入社、ユニクロの商品開発部隊を率いる。伊勢丹を振り出しに米バーニーズ、米ポロ・ラルフ・ローレンを経て、米高級百貨店のバーグドルフ・グッドマンで紳士衣料の商品統括部長を務めた。
生産担当の執行役員である有賀誠氏(46)は三菱自動車の元常務執行役員。米自動車部品最大手、デルファイの日本法人で副社長まで務めた後、独ダイムラークライスラー傘下の三菱自動車に人事担当として入社。ダイムラーの支援打ち切りに伴い4月、ユニクロに転じた。
ほかの2人は持ち株会社の執行役員で法務・人事担当の松下正氏(45)と、人事開発担当の発田聡氏(47)。2人とも米ゼネラル・エレクトリック(GE)グループが長く、生産を重視する「柳井人事」がうかがえる。
ファストリは1998年前後に、前社長の玉塚氏のほか沢田貴司氏(48)、森田政敏氏(43)、堂前宣夫氏(36)が外部から入社。ユニクロ躍進の原動力となったが、今では堂前氏以外は同社を去っている。有能な人材が継続的な戦力となるのか。05年入社の四人組を、柳井会長がどう使うかに「一兆円」の青写真の成否はかかっている。
経営陣を刷新したファーストリテイリングは、玉塚前社長の安定成長路線に決別して、柳井社長のM&Aを核にした拡大路線に完全にシフトしたことがわかります。この路線変更を、これまでFRで働いてきたプロパーの社員は、どう受けとめているのでしょうか?
短期間での経営陣の入れ替えに、戸惑っている社員も少なくないでしょう。また、社外から有力な幹部が採用されることが続けば、それだけ内部昇進の可能性が否定されているようにも見えます。この点を不満の感じるプロパー社員が、モチベーションをダウンさせている懸念もあります。
この他に日経新聞の中で気になった部分は次の箇所です。
柳井社長は「セオリーの経験から、優れたコンセプトと経営者がいれば、短期間に1000億円の売上高達成は可能だ」として、M&Aを加速させる。
2010年に現在の売上高の2.3倍に拡大することを目指すFRにとって、M&Aが最も優良な選択肢であることは確かです。豊富な資金に恵まれたFRのような企業が、M&Aにより「成長に要する時間を買う」ことを考えるのは、合理的な戦略だからです。M&Aにより海外企業の異質な文化を取り込めば、グローバル企業への組織体質の転換も加速できます。
いいことずくめのようなM&A重視戦略ですが、考えなけばならないのは組織文化の問題です。買収先の企業が加われば、当然組織文化の衝突が起こります。それに戸惑う社員は、FRと買収先企業の双方から出てくるはずです。
実はファーストリテイリングが、こうした組織問題の改善のために、かつて外部のコンサルティングを導入したことがある事実が、今週発売の日経ビジネスによってわかりました。同社が導入していたのは、リンクアンドモチベーション社(LM)のモチベーションエンジニアリングです。
元々リクルートで企業変革や組織活性化の支援を行ってきた、小笹芳央(おざさよししさ)氏が起業した会社がLMです。情報源は、『笹芳央氏 リンクアンドモチベーション社長 士気高い組織作りを支援』(2005年9月5日 日経ビジネス 112~114面)です。
ダイエー再建のスポンサーの座を、丸紅連合と最後まで争った事業再生ファンド、キアコン。敗れはしたものの同社社長の澤田貴司は、小笹のLMをその再生チームの重要な一員と評価していた。
澤田との出会いは小笹のリクルート時代にさかのぼる。当時、澤田はファーストリテイリングの副社長だった。急成長を遂げる中、人事のコンサルティングを小笹に依頼した。
LMのホームページの導入事例の中には、FRの名前はありません。したがって、現在FRがモチベーション・コンサルティングを実施しているのかどうかもわかりません。また、LMではなく、他社のコンサルティングを利用しているケースも考えられます。いずれにせよ、FRが組織活性化のために何らかの方策を講じる必要があることは確かだと思います。
このLMのユニークなところは、スポーツチームへのモチベーションエンジニアリングを適用しているところです。Jリーグのヴィッセル神戸と1年間の契約を結び、選手のモチベーションマネジメントと、コーチの指導能力開発プログラムを提供しています。
J2への降格危機、相次ぐ監督の交代、チームの精神的支柱であったカズの退団等、ヴィッセル神戸のチーム事情を考えれば、同社がこの種のコンサルティングを導入している(せざるをえない)理由も十分に理解できます。
ヴィッセルがLM社のコンサルティングを採用したきっかけも、キアコン同様に以前の職場での導入成果が評価されたからです。現クリムゾンフットボールクラブ取締役事業本部長小野壮彦氏が、自身が楽天在籍時に導入されたLM社のコンサルティングを、ヴィッセルに持ち込んだのです。
顧客が別の企業に転じるたびに、その企業が自然に顧客となってくれる理想的なパターンです。おそらくLM社のコンサルティングに対する顧客満足度(CS)は、非常に高いのでしょうね。いたずらに新規顧客開拓の営業に血道をあげるよりも、現在の顧客満足度の向上に努力した方が効率がいいことを物語るエピソードとも言えます。
なお、LM社のモチベーションエンジニアリングに興味のある方は、モチベーションエンジニアリングによる企業革新をご覧ください。小笹社長がそのコンセプトの解説記事を連載中です。
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