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「巨額の時価総額が生み出した三木谷氏の焦りが引き金(nikkeibp)」批評

2005年10月21日

楽天がTBSとの経営統合を目指したのは、「巨額の時価総額が生み出した三木谷氏の焦りが引き金」と断ずる記事が掲載されました。動機という点を考えれば、フジテレビの買収を目論んだライブドアの堀江社長と大差はないとの結論です。個人的には疑問を感じる部分の多い記事ですが、まずはその一部を引用します。 情報源は、楽天三木谷氏の胸のうちです。

なぜ、楽天は巨額の資金を借り入れてまで、TBSの取り込みを図らなければならなかったのか…。三木谷浩史・楽天会長兼社長の胸に巣くう“焦り”こそが、その真の理由と考えられる。

楽天の株式時価総額は1兆円を超える。連結売上高が1000億円にも満たない企業規模からすると、過大な評価と言ってよい。これはひとえに、ネット企業の勝ち組である楽天の急成長を株式市場が期待しているからにほかならない。ひとたび成長の歩みが鈍ろうものなら、株主は楽天株を手放し、株価は急降下する。

ここまでは納得です。楽天の株価には成長へ期待が織り込まれているので、一度成長鈍化の兆しが見えれば、プレミアムが剥げ落ちるのは当然です。

楽天の顧客の大半は個人、つまり時流に流されやすい消費者である。株価急降下となれば、株主ばかりか顧客までが楽天を離れ、これまで順調に伸びてきた電子商取引事業と金融事業の足を引っ張る可能性が高い。

株価急落が信用不安に結びつき、顧客が離れるというロジックは、金融事業に当てはまる場合も多いかもしれません。しかし電子商取引事業という面では、影響はほとんどないと思います。日本では株式を上場していないアマゾンのビジネスが伸びているように、株価と消費者の購買行動とは、ほとんど関係ありません。要するに利便性の高いサービスを提供しているところが選ばれているだけの話です。

信用不安により楽天市場に出店する企業側が、雪崩を打って逃げ出すようなことも想像できません。企業は直接消費者に商品を販売しており、楽天は単に取引を仲介しているだけです。したがって、楽天に金融面での不安が生じても、代金回収のリスクが高まることにはなりません。

楽天は馬車馬のように「急成長街道」を走り続けなければ、企業として成り立たない構図に陥っているのだ。普通に考えれば、主力の電子商取引事業と金融事業だけで、企業としての成長は十分見込める。だが、それだけでは、ポータル事業とオークション事業を軸にネットメディアとして優位を保つヤフーの後塵を拝する「万年2位」の座を脱することはできない。それでは株式市場が、そして三木谷会長兼社長自身が、満足できないのである。

三木谷社長が成長を渇望しているという見方には、賛成です。しかし、楽天が構造的に急成長を強いられているとか、成長の目的が株価の維持だけにあると考えるのは疑問です。もちろん、同氏が株価や株式の時価総額を強く意識していることは否定しません。例えば、持ち株会社構想が実現すれば、その資本構成には楽天とTBSの株式時価総額が大きく影響することになります。企業買収を有力な成長手段の1つと考える企業家であれば、高い株価を維持したいと考えるのは当然でしょう。

断定はできませんが、三木谷氏がTBSとの経営統合を望んだのは、純粋に事業拡大そのものが目的であると考えます。しかし、この筆者のように楽天がヤフーと同じ事業ドメインで競争を挑んでいるとは考えません。三木谷氏の究極の野望は、楽天市場を世界のECのプラットフォームにすることに尽きるのではないでしょうか? 同氏の発想の基本は、あくまでも楽天市場の成長です。

TBSの件でも、ホリエモンの時のように「ネット・メディア・フィナンシャル・コングロマリット」構想をぶち上げるわけでもありません。また三木谷氏が、元々消極的であった銀行業への参入を決断したのも、それが楽天市場のコア・ビジネスとのシナジーが期待できると考え直した結果でしょう。発想の中心には常に楽天市場があり、儲かれば何でも手を出すということではありません。

成長への渇望を抑えきれないという点では、三木谷氏はファーストリテイリング(FR)の柳井社長と同じだと思います。柳井氏の夢は、FRを世界的なアパレル企業にすることです。玉塚前社長の体制では、その夢が達成できない、もしくは達成するスピードが遅くなると判断して、玉塚氏を更迭したのです。また、ユニクロ単体での内発的な成長だけでは不十分と考えて、柳井氏は外国ブランドの買収を繰り返しています。

柳井氏の行動は、いずれも株式市場を意識したものではないはずです。株価への影響だけを考えれば、玉塚氏の安定路線の継続の方が、マーケットの期待に沿うものであった可能性も考えられます。しかし、株式の過半を持つオーナー起業家が、大いなる野望を抱いたとしたら、誰も止めることができません。これも三木谷氏の場合と同じです。

今回紹介した記事のように、企業買収を繰り返すことにより急成長した企業家の目的が、すべて株価の維持だけにあるとするのは、短絡な発想との批判を免れないでしょう。

ここまで読んで、私が三木谷氏の行動を擁護しているとの感想を持った人も多いかもしれません。決してそのような意図はありません。単純にその動機を分析してみたかっただけです。パラノイア的に成長を欲する企業家が、情熱だけで企業買収を繰り返しても、100%成功するわけではありません。被買収企業の中には、逆に企業価値が毀損される場合もあります。

また、すべての経営者、投資家が企業に急成長を求めているわけでもありません。三木谷氏のように成長の熱にうかされた企業家が、自分の価値基準を相手先企業に押しつけようとすることが、市場原理の名の下に正当化されるのもおかしなことです。


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