マスコミが黙殺する大企業批判映画はブロガーによる口コミマーケティングに活路を見出す
2005年12月14日
映画電車男では、オタクであることを自己申告すると、割引が受けられる映画館がありました(劇場版「電車男」の来場者の半数はオタク(映画館フジサワ中央調べ)?)。今度は映画の感想をブログに書くことを条件に割引する映画が登場しました。情報源は、ブロガー限定で映画入場料を割り引きです。
映画配給を手がけるアップリンクは10日公開した、企業の社会的責任を問うドキュメンタリー映画「ザ・コーポレーション」で、ブログの書き手「ブロガー」に限って入場料を1000円に下げる異例の「ブロガー割り引き」を始めた。通常の大人1人当たりの当日券入場料1800円より800円安くなる。事前に電子メールで登録し、映画の感想を自分のブログに書き込むと申請すれば、割り引きを受けられる。
映画は米スポーツ用品大手のナイキや米衣料品専門店最大手のギャップなどの大企業をやり玉に挙げ、企業の不祥事や問題行動を次々と暴いていく。企業を架空の「人」と見立てて、その精神分析を重ねた結果、一部の企業に関しては、他人への思いやりを欠き、利益目的のうそをいとわないなどの人格的障害を抱えた「サイコパス」だと断じている。
政府や企業の「不徳」を皮肉たっぷりに糾弾したドキュメンタリー映画「ボウリング・フォー・コロンバイン」「華氏911」などで知られるマイケル・ムーア監督や、政治批評でも知られる世界的な言語学者のノーム・チョムスキー氏らが口々に「企業を同じ人間なんて思っちゃいけない」「企業は道徳心のない特殊な『人』だ」などの厳しい言葉を浴びせる。ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)の法学教授で弁護士のジョエル・ベイカン氏が著した同名原作の副題は「私たちは『企業』に支配されている」だ。
アンチ大企業、アンチブランドのメッセージを全面に打ち出した映画です。こういった映画になると、大企業からの広告で収入を得ている大手マスコミが、喜んで取り上げることは期待できません。私も、「ザ・コーポレーション」に関する大手メディアの記事をほとんど目にした記憶がありません。新聞が「社会の木鐸(死語?)」であるとすれば、このようにメッセージ色の強い作品は、本来話題にすべきだと思うのですが。
こういった状況から、配給者元のアップリンクでは、ブロガーを利用した口コミマーケティングで、草の根的に情報を広める作戦をとったのではないかと想像します。
日本ではなかなか報道されないのですが、ナイキ、ギャップ、リーバイス等の大企業が本国で批判されることは、決して珍しくありません。巨大ブランドは、これらの製品を製造する発展途上国の低賃金労働によって、支えられているという批判です。大資本による搾取(exploitation)というような論調は、今の日本ではほとんど聞かれなくなりました(これも死語?)。
まったくの偶然ですが、この映画で槍玉に上がっているナイキ、ギャップといったメジャーブランドに関する新聞記事を、昨日見つけました。情報源は、『「文化」こそブランドの基本――UFJ総合研究所理事長中谷巌氏』(2005年12月12日 日本経済新聞 夕刊 1面)です。
ナイキ、GAPといった「アメリカン・ブランド」、エルメス、シャネルといった「フレンチ・ブランド」、トヨタ、ソニーといった「日本ブランド」。よく考えてみると、これらブランド商品は、それぞれのお国柄、歴史、文化、伝統といった要因を色濃く体現している。
アメリカン・ブランドの多くは、移民の国、若い国というアメリカの特性を反映している。アメリカ商品はあまり文化の臭いはしないが、世界中、どこの国のどの階層の人でも気軽に購入できるグローバルな普及品である。たとえば、マクドナルドやコカコーラのような商品はアメリカ以外の国からはなかなか出てこないだろう。
今、日本企業の多くはブランド構築という課題に取り組んでいる。しかし、実は、ブランド構築のためには、単に抽象論としてのブランド戦略論だけではなく、それぞれの国が持つ文化特性をうまく組み込むという発想が不可欠なのである。
各企業はその上に独自の企業文化を付加することによって、はじめて独自のブランド商品を生み出せる。「文化」という土壌のないところに「ブランド」という樹は育たないのである。
この記事そのものは、批判の対象となるようなものではありません。しかし、ブランド企業の反社会性を訴える映画の後に紹介すると、脳天気なブランド礼賛にも読めてしまうから不思議です。ところで、多摩大学の学長の中谷巌氏は、ご自身のブログ中谷巌の痛快日記をお持ちです。是非とも、映画「ザ・コーポレーション」を見た感想を、ブログに書いてもらいたいものです。
最後に、ビジネス誌の中で唯一発見したこの映画に対する批評を紹介します。 情報源は、『エコノミストCINEMA館 大企業は「人格障害」と断じる反グローバリズムの集大成映画』(2005年11月1日 毎日エコノミスト 106ページ)です。
今の日本ではこういう映画は、往年の左翼や社会主義者が同窓会で盛り上がって作ったような反資本主義映画で、時代遅れだ、と見なされるだろう。だが、どっこい世界は広い。大企業批判や自由企業体制批判を真正面から臆することなくする人々が今も北米大陸にはいる。特に、今のアメリカのやり方を身近で知っているのがカナダ人である。この映画の原作者も監督もカナダ人だ。
「大企業はたくさんの人を雇用して現に社会を成り立たせているではないか」という反論も少しは取り上げればいいのに、全くしない。現代の大企業の悪を世界法廷のようなところで裁くことに懸命である。そして具体的な対案は何も出さずにこの映画は終わる。その点、多くの人は不満に思うだろう。だがしかし、「なんでもかんでも 民営化(私企業化)すれば世の中はよくなる」という考えに対して、「本当にそれでいいのか」ともう一度疑うことを私たちに教えてくれる貴重な映画である。
この記事の筆者は評論家の副島隆彦ですが、同氏も常葉学園という大学の教授です。
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