団塊・シニア世代向けブログやSNSに留まっていては世代間ギャップは解消されない
2005年12月17日
昨日、このサイトのアクセス解析を見ると、見慣れないリンク先からのアクセスが増えていることを発見しました。どうやら、『シリアルイノベーション』というブログで、マーケティング関係のブログとして取りあげてもらえたようです。ありがとうございます。これに気を良くして、いかにもマーケティング風の記事を書いてみることにしました。結局、「いかにもマーケティング風」には、ならなくなってしまいましたが。。。
現在マーケティング関連の書籍で注目を浴びているのが、野村総研がまとめた 『オタク市場の研究』です(野村総研発表『オタク市場:12分野で172万人 規模は4110億』の妥当性)。
この研究ではオタク層を、「強くこだわりを持っている分野に趣味や余暇として使える金銭または時間のほとんどすべてを費やす生活者」と定義しています。
野村総研の試算によれば、2004年の国内のオタク層の総数は延べ172万人で、総消費額は4110億円になります。
オタク市場の潜在的な大きさを聞けば、企業のマーケターならずとも、オタク市場の動向に関心を持たざるをえなくなるのも当然でしょう。
さらに野村総研では、約1万件に上るインターネットでのアンケートを分析した結果、オタク層特有の消費行動・心理特性を6因子からなる5タイプに分類して、各々タイプに応じたマーケティング活動の必要性を提言しています。これは、消費者をライフスタイルや価値観(サイコグラフィックス:psychographics)といった特性によって、分析するアプローチの典型例で、年齢は重視されません。
さて、オタク市場とは別に、もう1つその消費行動が注目されているのが団塊の世代です。団塊世代は、2007年以降に大量退職期を迎えます。その自由になった時間とお金を、各企業とも虎視眈々と狙っています。こちらの分類は、消費者を性別、年齢、学歴、職業、年収、家族構成等の属性(デモグラフィックス:demographics)で分析するアプローチです。
2つの分析方法、サイコグラフィックスとデモグラフィックス、を比較すると、前者の方が何となく洗練された分析法のようなイメージがしてきます。しかし、回答者のその日の気分次第で結果が変わるかもしれないアンケートをベースにするサイコグラフィック分析と、恣意性が排除された属性をベースにするデモグラフィクス分析を比較すると、後者の方が信頼性が高いという見方も可能です。
結論から言えば、実際の消費行動を的確に説明できる方が優れているものであることは、言うまでもありません。また、どのような分析手法をとろうとも、特定の市場セグメントをターゲットとしたマーケティング戦略を考える場合、実際には次の3つが必要条件となります。
- セグメントが明確に定義できること
- セグメントが収益をもたらすに足る十分なサイズがあること
- セグメントにリーチするチャネルがあること
これを団塊の世代に当てはめると、
- 1947~49年生まれ(現在56~58歳)
- 800万人強
例えば、凸版印刷が11月からスタートした団塊・シニア世代の男性を主なターゲットとした趣味に関するブログサイト『Re:log(リログ)』は、その一例と呼べるものです。
凸版印刷では、ニュースリリースで、『Re:log』開設の狙いを次のように説明しています。
本サイトは、団塊・シニア世代の趣味(写真・料理・音楽・旅行など)の情報発信に特化したブログサイトです。ユーザ登録を行えば誰でも無料で利用でき、初心者でも自分の趣味について簡単に情報発信・コミュニケーションが行えます。さらに、写真・料理・音楽のカテゴリーではシニア世代の有名人が「ナビゲーター」としてブログを公開。コミュニティに参加して、それぞれの趣味について楽しみ方や喜びを伝えます。
今後、関連する各企業との提携によるコンテンツの拡充や、本サイトのナビゲーター主催のトラックバックコンテストやオフ会などのイベントを開催し、サイト活性化を図ります。さらにユーザの意見をサイト運営へフィードバックすることで、ユーザにとって利便性の高い機能を付加していきます。
団塊・シニア向けのブログサービスを無料で提供するだけでは、ビジネス上の直接的なメリットはありません。凸版印刷の本当の狙いは、このサイトを核にして、広告、ショッピングビジネスを展開することにあります。
凸版印刷では早期に団塊・シニア世代向けブログサイトとして本サイトの媒体価値を高め、新たな広告モデルを確立します。将来的にはブログサイトに蓄積される生の声を調査・分析し、団塊・シニア世代の趣味、趣向、ライフスタイルなどの動向について情報提供を行うマーケティング情報サービス事業や、趣味に関連するオンラインショッピングモール事業への展開を目指します。
この説明を読むと、実在する団塊層という市場セグメントに対して、直接訴求できる有効なマーケティング戦略のように思えます。しかし、単純な属性分類をベースにした戦略だけに、凸版印刷の目論見通りの成功が約束されているわけではないでしょう。このサイトが期待通りに収益ビジネスに結びつくかには、いくつかの問題点がありそうです。
例えば、ターゲットとする「団塊オヤジ」が、このサイトを本当に喜んで受け入れてくれるのでしょうか? シニア向け製品と大々的に銘打った製品やサービスは、かえって当のシニア層から敬遠されるというケースもあります。自分がシニアであることを認めたくないという心理が働いたり、特別に用意しましたと言われると、かえって胡散臭さを感じたりするものです。リアルの世界でシニアであれば、実年齢を問われないバーチャルの世界では、実際より若々しい振りをしたいと考える人間も少なくないはずです。
また、ブログに投稿するようなユーザは、団塊の世代であってもアクティブなネット・ユーザであるとも考えられます。このため団塊向けサイトから商品を購入するのではなく、比較サイト等の自分が慣れ親しんだ手段を使うため、サイトからの売上は思ったより上がらないという可能性もあります。
これらの疑問は私が現時点で想像しただけで、実際に起こるかどうかはわかりません。いずれにせよ、単純な計算通りにいかないのが現実のマーケティングであり、これが「マーケティングがサイエンスでもあり、アートでもある」と呼ばれる理由です。
次にマーケティングという観点を離れて、『リログ』を眺めた感想を述べてみます。ちなみに私は、サイトのターゲットである団塊の世代ではないので、どのような感想を持とうとも、凸版印刷のビジネスプランに影響を及ぼす恐れはないので気楽です。
最初に気づくのは、リログは、写真、料理、楽器演奏、読書、音楽・映画鑑賞、パソコン、スポーツと、自分の趣味に応じて投稿するカテゴリーが決まっていることです。想定されているのは、元々何らかの趣味を持っている人が、リログにそのことを書き込むというパターンです。したがって、元来没頭する趣味を持たない人間が、気楽に書き込めるカテゴリーがありません。一応、「その他」というカテゴリーもありますが、こういうネーミングではあまり興味をそそられません。
しかし、このブログが「シニアによるシニアのためのブログ」であるとすれば、一定の役割がありそうにも思えます。シニアの人がいきなり、普通のブログでデビューしたとしても、必ずしも楽しめそうもない現実が存在するからです。リアルの世界で起こっていることがより先鋭化した形で現われるのが、ネットの世界だからです。
シニアの人が普通のブログで不用意な書き込みをしたりすると、自分の息子や娘のような年齢の人間から、口汚いコメントを貰う可能性もありえます。実社会では一応尊敬される立場にあるシニア層にとって、ネットで普通に行われる無神経なコミュニケーションは、耐えられないことでしょう。
このようなリスクを考えると、シニア層にはブログよりも、一応身元が確認できた人だけのコミュニティサイトであるSNSの方が、相応しいのかもしれません。実際にそのようなシニア層特有のニーズに配慮したSNSが、スローネットです(スローネット、国内最大級のシニア世代向け交流サイトをリニューアル)。
50歳以上のシニアをターゲットにしているスローネットで設定されているカテゴリーは、写真、ぱそこん、カルチャー、スポーツ・健康、ライフスタイル、財、旅です。リログとほとんど同じで変わり映えがしません。本当にシニア世代のニーズは、こんなものしかないのでしょうか? 実際のサイトの利用が進めば、「嫁姑問題」とかの切実な話題も増えてくるのでしょうか?
シニア世代が特別なブログやSNSを通して、ネットでのコミュニケーションを始めるのは、歓迎すべきことです。しかし、ネット社会に慣れたら、一般サイトに飛び出して、小生意気な小僧や小娘の書き込みを諌めて欲しいと思います。自分の世代向けに用意されたサイトの中に留まってばかりいては、世代間のコミュニケーションが希薄になっているリアルの世界と変わりありません。リアルでできないことが可能になるのが、ネットの魅力のはずです。
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