理論派経営者で有名だったセイコーインスツル服部純市氏の解任劇
2006年11月30日
セイコーグループの中核企業の1つ、セイコーインスツル(SII)の代表取締役会長兼社長代行だった服部純市氏が、11月16日に開かれた同社の臨時取締役会で解任されました。スキャンダルの臭いもする代表取締役の解任劇は、1982年の三越事件以来ということもあり、マスコミ各社もその理由をこぞって書き立てています。
三越の場合は、「岡田天皇」と呼ばれるほど権勢を振るっていた岡田茂氏と、愛人の「三越の女帝」竹久みち氏の関係が取り沙汰されるなど、登場人物の華やかさも手伝って一大スキャンダルとなりました。取締役会での突然の解任決議を受けて、岡田氏が発したと言われる「なぜだ!」は、この年の流行語となったくらいです。
今回解任された服部純市氏も、一時は改革派の経営者として名を馳せていた時代もありました。スタンフォード大学でMBA(経営学修士号)を取得するなど、理論派として知られていた服部氏は、大学での講演や雑誌への寄稿でも積極的に持論を展開していました。
名門服部家の御曹司というイメージとは正反対に、大胆な提言を行う服部氏には信奉者も決して少なくありません。情報源は、セイコー創業家CEOの追放と正論 「脱・技術依存」の警鐘も悪役の解任とともに消え失せるのか?です。
セイコーグループの中核企業であり、大手電子部品メーカーでもある企業のトップが唱える論としてはいささか過激だったが、自社だけでなく日本の製造業の行く末について論じる姿は間違いなく真摯であり、その主張は傾聴に値するものだった。服部氏の解任によって、その警鐘までもが消え失せてしまうのはあまりにも惜しい。ここに、服部氏の持論をぜひとも書き記しておきたい。
警鐘1 日本経済不振の真の原因はバブル崩壊ではない
服部氏はこう主張していた。「バブル経済とその崩壊によって、日本経済が停滞した。不良債権問題を解決し、製造業がしっかりすれば日本は再生すると言われている。しかし、これは間違い。実は1970年あたりから日本企業は徐々に儲からなくなっていた。バブルがあろうがなかろうが、日本企業は問題を抱え込んだはずだ」。
警鐘2 生産性の向上だけでは勝ち抜けない
日本の時計メーカーの栄枯盛衰について、「スイスの時計産業が復興したのは、ブランド戦略の成功であって、日本は技術の競争で負けたわけではない」という解釈が一般的である。しかし、服部氏はそうではないと主張した。
クオーツにシフトした結果、日本の時計メーカーは機械式時計を作る技術を失ってしまった。ブランド戦略で負けたのは確かだが、技術でも負けたというのである。
日本の時計メーカーのクオーツ開発は、NHKの「プロジェクトX」にも取り上げられ、日本の技術者が必死に努力し、世界に先駆けてクオーツ時計を開発、世界の時計市場を席巻した感動物語として放映された。ところが、服部氏は「あの話は真っ赤な嘘」と公言していたのである。
日本の技術者も頑張ったが、当然スイスの技術者も頑張って、日本より先にクオーツ時計を開発していた。ただし、スイスの時計産業は、部品メーカーや完成品メーカーが別々の企業に分かれており、クオーツへの切り替えで足並みが揃わなかった。
これに対し、日本メーカーは部品から完成品まで手がける垂直統合型を取っていたので、一気にクオーツへ切り替え、量産に踏み切れた。日本の技術者が頑張ったのは事実だが、それだけが成功の要因ではない。
警鐘3 「心地よさ=匠」の創造を急げ
では日本企業はどうしたらよいのか。服部氏は、価格・機能・品質「以外」の新しい付加価値を追求すべきとし、その付加価値を「匠(たくみ)」と呼んだ。
匠とは、人間が本来、感じる心地よさを意味する。例えば、スイスの機械式時計や漆など天然塗装をした時計、あるいはアナログ方式の高級オーディオが持っている何かである。
といっても、職人芸による手作りに戻れというわけではなかった。コストダウンのテクノロジーではなく、匠を実現するテクノロジーを追求する必要がある、と服部氏は考えた。こうした考えから、英国の掃除機メーカー、ダイソンにはかねてより注目していた。
ダイソンは、紙パックを不要にする独自技術に基づく掃除機を通常の価格の3倍程度で販売している。「掃除機のような成熟した製品分野に、大英帝国からイノベーターが出てくる。ああいうことを我々もやらないといけない」と服部氏は語っていた。
ダイソンに早くから注目していたというエピソードからは、服部氏の慧眼振りが伝わります。
警鐘4 輸出依存型のものづくりモデルは限界
「日本は資源がない。だからものづくりに精を出して世界に売っていくしかない、という人がいまだにいる。とんでもない間違いだ。日本は過去、アメリカやヨーロッパにものを買ってもらったおかげで豊かになった。今度は、日本が発展途上国からものを買ってあげる番だ。日本は、海外から買ってきたものをうまく融合して、もっと付加価値の高い、新しい仕事をする。そういう時期に入っている」
外貨を稼ぐために、日本は昔も今も輸出をするしかないはずだ。ところが服部氏は「日本のものづくりは空洞化してもかまわない」とまで言い切っていた。日本は、新しい「匠」のテクノロジーを開発して高付加価値製品を考案する。そのノウハウを発展途上国に提供し、完成品を作ってもらう。日本はノウハウのロイヤルティーを得てもいいし、途上国へ投資し、そこからリターンを得てもいい。何から何まで国内で作ってひたすら海外に売る事業モデルをしつこく追求しようとしても無理だ、というわけである。
とにかく服部氏の主張はユニークであった。時計産業に属している服部氏が時計産業の問題点を分析し、NHKが美談として紹介してくれた逸話を「嘘」と断ずる。このようなことをあえてする経営者は珍しい。
今回の解任劇で一転してワンマン社長のレッテルを貼られることになってしまった服部氏は、元々は他人の意見に耳を傾けることをいとわない謙虚な面を併せ持った人物でした。

予想通りの理由ばかりです。
財団では登録商標の使用に関しましては、ジェイティービー・近畿日本ツーリストなどの出捐企業、法人賛助会員、公益法人、テレビ・新聞に限らせていただいております。



