インテルの新タグラインはアマゾン「なか見!検索」よりは評価したいが
2006年01月12日
今回は、外国語を日本語訳する難しさについて考えてみます。原文が短いほど、適切な日本語を当てはめるのが難しくなります。その最たるものは、日本語に馴染みのない単語の翻訳です。いったん誤訳したものが定着すると、失敗は取り返しがつかなくなる可能性もあります。情報源は、『イノベーションの誤訳――技術革新進まぬ錯覚に』(2006年1月10日 日経産業新聞 10面)です。
「イノベーションを通して社会は発展する」というのは、シュンペーターの提起した一大テーゼである。
不幸なことにイノベーションはわが国において、「技術革新」と訳された。大変な誤訳である。技術を通じて社会が発展することは間違いないが、イノベーションというのはそんなに小さな概念ではない。
その本意は文字通り「新しいやり方」であり、技術に限らず組織や販売など人間の活動全般にかかわるものである。技術革新なんて訳をするから、なにかすばらしい科学技術の成果がないとイノベーションは進まないかのような錯覚を人々にあたえることになった。
国の施策もまたこのような路線の上にあるようにみえる。資源に乏しい日本では、科学技術の振興は大切な課題であることは間違いない。だが数年で忘れられるような論文よりも二股ソケットのほうがイノベーティブであることを認識しないといけないであろう。日本に新しいビジネスがなかなか生まれないのは、このあたりの誤った認識にありそうである。
(高知工科大学副学長 水野博之)
確かに、日本のビジネスでイノベーティブな発想が生まれない1つの理由を表しているように思えます。漸進的な進化(Evolution)は上手だが、パラダイムシフトを伴うような変革(Revolution)の方は得意ではない、といった日本人の国民性が影響している面もありそうです。そう言えば、このパラダイムシフトという言葉には、イノベーションの誤訳で懲りたせいか、無理に日本語訳を当てはめるようなことはありませんね。
また、政治の世界では「革新」という言葉も、ほとんど使われなくなりました。昔は、保守、革新、中道といった表現がしっくりきたのですが、最近はそんな色分けが不可能になったからでしょう。野党第一党の民主党党首が中国脅威論を表明したり、労組に配慮したためか、公務員改革に積極的な姿勢を見せない時代ですから。
現在主流なのが、「改革派」と「抵抗勢力(守旧派)」といった二元論的な識別です。白か黒かしかない色分けは、現代人のデジタル思考にマッチして、わかりやすさという面では分があります。
イノベーションのように、英語のオリジナルがどのように日本語に訳されるかで、その後の展開を左右することになるのは、企業の商品名やブランド名でも同じでしょう。例えば日本のアマゾンが、書籍本文の一部をネットで検索できるサービスを導入しました(アマゾン「なか見!検索」が成功すれば、本の中身のバラ売り時代がやって来る)。
「なか見!検索」の米国のアマゾンでのオリジナル・サービス名は、『Search Inside!』です。個人的には、「なか見」から「中身が見える」と瞬時に理解するのは難しそうなので、あまり優れた日本語訳だとは思いません。
もう1つ気になったのは、創業以来37年ぶりに刷新したインテルのコーポレート・ロゴです(インテル、新ブランドロゴと新スローガンを発表)。
インテルは1月5日、新しい企業ブランドロゴとスローガン「インテル。さあ、その先へ。」(英文は「Intel.Leap ahead」)を発表した。
新しいロゴとスローガンの採用は、世界的ブランド戦略の一環として実施した。目的について、インテルは「市場の開拓を含めたプラットフォームソリューション企業への転換をより明確に示すため」としている。
新ブランドロゴは、1991年から使用している「Intel Inside」ロゴと、米Intel創業者のRobert NoyceおよびGordon Mooreが「integrated electronics」から考案した「ドロップ-e」ロゴを発展させたものという。新スローガンは「インテルのブランドが約束するもの、またインテルが企業として何を目指し、何を実現するのかを伝えている」(同社)。
これが、新しいロゴです。知財管理に周到なインテルなので、当然新しいタグラインも商標登録(TM)しています。
「Leap ahead」の日本語訳が、「さあ、その先へ。」ということになります。オリジナルにあったLeapの部分がなくなったので、躍動感が伝わりません。また、日本語表記を忠実に守ったために、こんな短いタグラインにまで句読点を加えています。そのせいで、少しゴチャゴチャした印象を与えます。
ちなみに、日本のマイクロソフトのコーポレート・ロゴはこれです(マイクロソフトがロゴにタグラインを追加、企業市民活動への取り組みをアピール)。
英語のままです。インテルのロゴも英語のままでよかったのではないか、というのが今回の結論です。
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