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ソフトバンク孫正義社長の「高値掴み」とUSEN宇野康秀社長の「底値買い」?

2006年03月20日

ソフトバンクによるボーダフォン日本法人の買収金額は、日本企業による買収では過去最大となる、1兆7,500円にも達しました。金額的には、当初ソフトバンクが予定していた上限額で決着したことになります。この裏には、買収の競争相手として米国の投資会社を登場させた、ボーダフォン側の巧みな交渉戦術がありました。 情報源は、『巨大買収ソフトバンクの賭け(上)交渉、ボーダフォンペース――「高値」で短期決着』(2006年3月19日 日本経済新聞 朝刊 7面)です。

3月12日ごろ、孫は再びボーダフォン側に怒りを爆発させる。「投資ファンドと話をするなら、この話から降りるぞ」。海外メディアが「欧米投資ファンドがボーダフォン日本法人の対抗買収提案を検討している」と報じた直後のことだ。

当初両社は3月末に最終合意の契約を交わし、孫とサリーンの共同記者会見を開く予定だった。ボーダフォン日本法人の資産査定に加え、ヤフーを含めた業務提携も詰める必要があり、最低1カ月の交渉期間が必要とみていたからだ。そこに飛び込んだ対抗提案情報。情報戦で揺さぶられた格好のソフトバンクは資産査定ピッチをあげざるをえなくなったようだ。

ソフトバンクは最終的に上限ぎりぎりの買収額を提示。ボーダフォンは16日午後の臨時取締役会で売却を決定。17日未明にボーダフォンから決定を伝えられたソフトバンクも17日午前に臨時取締役会を開き、買収を決めた。当初の想定より約2週間早いスピード決着だった。

ボーダフォンの術中にまんまとはまった形のソフトバンクは、「高値づかみ」をしてしまったのでしょうか?  情報源は、『ボーダフォン買収最終合意――孫正義氏、リスク覚悟最大の勝負、M&Aで「時間買う」』(2006年3月18日 日本経済新聞 朝刊 9面)です。

1兆7,500億円の大型買収について、通信業界では「買収資金に加え、携帯電話インフラなどへの新規投資に数千億円が必要。果たして採算が合うのか」(NTT幹部)と孫の決断を疑問視する声が根強い。

孫正義社長のM&Aの特長は、買収ターゲットを決めてしまった後は、買収金額そのものにはあまりこだわりがないように思えます。そうした面では、高値づかみをしてしまうリスクも決して低くありません。しかし、そうした積極的な買収が、今日のソフトバンク帝国を築いてきたことも事実です。

ただ、“バクチ”とも見える孫の企業買収はこれが初めてではない。ハイテク展示会コムデックス、テレビ朝日、日本テレコムに続き、M&Aの大勝負は4度目になる。これまでは持ち前のリスク管理で決定的な打撃を受けることは巧みにかわしてきた。

最初の勝負はまだ売上高が1,000億円に満たないパソコンソフトの流通ベンチャーだった95年。展示会コムデックスの運営会社とIT関連出版社の米ジフ・デービスを合計約2,600億円で相次ぎ買収することを決定。狙いは展示会、出版を通じ、最先端のIT分野で金の卵となる投資先を見つけることだった。

思惑は当たった。ジフ・デービスを通じ、まだ産声を上げたばかりだったポータルサイトの米ヤフーを掘り当て、同年に大株主として資本参加。急騰したヤフー株と日本法人ヤフーはソフトバンクの事業と資金の両面を支える“打ち出の小づち”となった。

勢いに乗った翌年にはテレビ朝日に出資、放送界の反発に会い、10カ月ほどで売却を余儀なくされるが、出資額と同額で株式を売却、ケガを負うことはなかった。

その後のナスダック・ジャパン創設、あおぞら銀行への資本参加はいずれも最終的に頓挫。しかし、グループ会社の上場や株式売却などで、2つの挫折から逆に利益を上げるしたたかさを見せた。

直近の大型案件は3,400億円を費やした2004年の日本テレコム買収。固定通信市場の低迷などで現在のところ利益面での貢献度は低い。

ソフトバンクが買収した日本テレコムも元はと言えば、投資ファンドのリップルウッド・ホールディングスがボーダフォンから買収したものです。その時リップルが支払った金額は、2,613億円でした。つまり、ソフトバンクは800億円も余計に払って、日本テレコムを買収したことになります。

そんな孫社長にとっても、今回の1兆7,500億円の大型買収が、文字通り桁違いであることは間違いありません。孫氏流のM&Aの真価を問われるのが、ボーダフォンの買収でしょう。

一方、フジテレビが持つライブドア株(発行済み株式の12.74%)を約95億円で買収することを発表したのが、USENの宇野康秀社長です。 宇野社長が得意とする買収の特長は、問題企業の救済に乗り出すパターンで、ライブドアの株式取得もこのパターン通りです。

したがって買収金額から考えると、「高値づかみ」の孫社長とは異なります。情報源は、『ライブドア支援のUSEN――得意技は「修羅場」「乱戦」』(2006年3月17日 日経産業新聞 28面)です。

04年10月には音楽ソフトのエイベックス・グループ・ホールディングス、同年12月には映画配給のギャガ・コミュニケーションズを傘下に収めた。05年4月に発表した日活の買収は日の目を見なかったが、相手企業に共通するのは経営の混乱や業績不振など“有事”の状態にあることだ。

ギャガは知名度こそあったが、04年9月期は72億円の営業赤字に陥り瀕死の状態だった。だが、「百年に一度のチャンス」(宇野社長)と100億円で買収に踏み切り、本体の配信サービスやエイベックスグループのアーチストらと連携して立て直し、05年9月期は営業黒字に転換させた。

カラオケ大手として増収増益になったグループ会社のBMBも元々は、経営悪化が深刻化した旧日光堂を傘下に収めて再建した結果だ。

一見ハイリスクに映るUSENの戦略について、GMOインターネットの熊谷正寿社長は「宇野社長は口数こそ少ないが行動は大胆。問題企業でも採算がとれると判断すれば素早く実行に移す」と舌を巻いている。

フジテレビから宇野社長への譲渡価格は、ライブドア株1株当たり71円です。一方、直近の決算で計算したライブドアの1株当たり純資産は185円で、計算上はこの倍以上になります。フジテレビを含めた株主からの損害賠償請求の可能性、優良子会社のライブドアグループからの離脱の可能性等を考えても、極端に高い買い物ではないと言えそうです。

ライブドアの堀江貴文元社長も、日本グローバル証券(後のライブドア証券)を40億円で買収した例などから、自身を「底値買い」の達人であると語っていました。しかし、親会社のライブドアの証券取引法違反が確定すれば、子会社のライブドア証券の証券業免許も取り消されることになります。そうなれば、一挙にその価値もゼロになるわけです。

今回の結論は、「孫社長の高値買い」と「宇野社長の安値買い」でまとめようと思って書き始めたのですが、買収した金額の妥当性は、結局のところ結果論でしかありません。使い古された言い回しですが、買収した事業が既存事業とどの程度のシナジーがあるかで、買収金額の妥当性は決まるものです。両氏の今回の買収が高くつくのか、安くつくのかは、今後のビジネス展開の成否で判断するしかないでしょう。

最後に日経産業新聞から再度引用します。

USENとライブドアには因縁がある。2002年秋。ネット接続サービスの旧ライブドア幹部が、オン・ザ・エッヂ(現ライブドア)に買収される直前に有線ブロードネットワークス(現USEN)を訪ねた。経営不振に陥り、売却を持ちかけたのだ。提示額は6億円だったという。

ただ、当時のUSENは開始したばかりの光ファイバーによる高速通信サービスが苦戦。買収額も折り合わず結局、実現しなかった。同年11月末に旧ライブドアはオン・ザ・エッヂが買収した。

ライブドアという名前の会社は歴史的に見ても、経営危機に陥って底値で買われる運命にあることは、確かなことのような気がします。


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