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高所得者が支える一流スポーツ選手に学ぶメンタルトレーニングブーム?

2006年04月13日

流行の「上流・下流」や昔の「勝ち組・負け組」に代表されるように、生活者を何らかの基準によって分類しようとする試みが盛んです。これまでの常識では、社会的地位や年収とは無関係と思われてきたスポーツ観戦の世界でも、階層化が始まっているとの調査結果が報告されています。

同じタイガースファンであれば、社長も平社員も一緒に杯を酌み交わすという光景は、今や昔の話なのでしょうか? 情報源は、『日経産業消費研究所主任研究員白井徹氏――スポーツ好き、高所得層多く(2006年4月12日 日経流通新聞MJ 2面)です。

調査は16種目について聞いているが、主要競技では野球を除き、所得の高い人の方が熱心だ。サッカーや大リーグ、新格闘技、テニスなど様々な競技で、「1年以内にテレビ観戦したことがある」(以下「テレビ観戦」)や「応援しているチーム・選手がある」(以下「応援」)は高所得層(年収850万円以上)の答えが多かった。

特に違いが明確なのが若い男性だ。
20代男性のJリーグの「テレビ観戦」は、高所得層が85.7%、中所得層(500万円以上850万円未満)が57.1%、低所得層(500万円未満)が54.2%だった。「応援」でも同じ傾向にある。

大リーグやJリーグの試合は、地上波で放送される機会は希です。これらの中継をテレビで見るには、少なくとも衛星放送が視聴できる環境が必要です。セリエAに至っては、スカパー等の有料チャンネルに加入しなければ、楽しむことはできません。視聴環境を考えれば、年収によってテレビ観戦するスポーツに差が出るのは、十分に理解できる結果でしょう。

しかし、「K-1などの新格闘技」が年収850万円以上の富裕層に特に人気がある理由は、すぐには思いつきません。20代で年収850万以上ともなれば、それなりの責任のある仕事に就いているはずで、それに付随したストレスも溜まることでしょう。ストレス発散のために格闘技が好まれるのでしょうか?

野球、サッカーがチームスポーツであるのに対して、格闘技はあくまでも個人競技です。成果主義の恩恵に浴している高額所得者は、何事も個々人の能力が結果に表れる個人競技の方を好むからなのでしょうか?

野球、サッカーのように試合時間が長いスポーツでは、試合の趨勢にあまり関係のない遊びのような時間もあります。一方、短時間で勝敗が決まるのが格闘技です。時間に追われることの多い高額所得者は、テレビで見るスポーツでもサクサク展開する方が好きなのでしょうか? 

歴史的に見ても、ローマ時代の昔から貴族が円形闘技場(コロッセウム)で観戦したのは、人間同士が戦う様子でした。自分では絶対やるつもりのないけれども、見て楽しむスポーツの代表格が現代のK-1である、という解釈もできそうです。そう考えるのは、高所得者層ほど競技者と自分の姿を完全に切り離して考える傾向が強いからです。

所得の高い若い男性は観戦や自ら行うスポーツに関心を示す半面、スポーツ選手の生き方や報酬などに必ずしも共感を覚えていない。

例えば「スポーツ選手に生き方を学ぶことが多い」という問いについて、20代男性の場合、低所得層で「そう思う」と答えた人は4人に1人だったが高所得層はゼロだった。

「若いスポーツエリートが大金を稼いでいるのはいいことだと思う」という質問も同様で、20代男性の低中所得層ではそれぞれ58.3%、57.1%が肯定しているのに対し、高所得層では28.6%しか肯定しなかった。

「勉強よりスポーツ英才教育の方が子供は大きな成功が望める」も、20代の低中所得層では15%程度が肯定しているが、高所得層はゼロ。「英才教育」に同意しないのは、若い高所得者の多くは学歴が高いとみられ、学歴に依存しない人生設計に否定的な傾向が強いためと見られる。

低所得者はスポーツ選手の生き方に自らのそれを重ね合わせて考えようとするのに対して、高所得者はスポーツの世界と現実社会の生き方は全くの別物、と冷静に受けとめているということでしょう。今回の調査結果をもって、新聞記事では次のような結論をまとめています。

(1)所得が高い方が観戦や自分の運動に関心を持ち、若い男性ほどその傾向が強い
(2)ただ所得の高い若い男性はスポーツ選手の生き方や待遇に心理的距離
(3)スポーツをマーケティングのツールとする場合、意識の分化を踏まえることが重要

ビジネスマンにとって一番興味のある部分は、3番目のマーケティングへの展開方法でしょう。スポーツ選手の生き方すべてに共感は覚えないとしても、その成功の秘訣を知りたいというニーズは、ビジネスマンの中でも依然として高いものがあります。

例えば、スポーツ選手のメンタル強化法をビジネス分野に応用する心理学的研究が大流行です。情報源は、『一流スポーツ選手から学ぶ、実力発揮のコツ』(2006年4月13日 日経産業新聞 23面)です。

「心技体という言葉があるが、スポーツ界に比べてビジネス界では心の持ち方の大切さへの意識が薄い」。こう指摘するのは、社会人や障害者のスポーツ参加を支援する特定非営利活動法人(NPO法人)、エミネクロス・スポーツワールド代表の辻秀一さん(44)だ。

絶好機にいつものプレーができない。スポーツで心理状態がパフォーマンスに大きく影響することは体験的に理解できる。ビジネスではより長期的な成果が求められるという違いがあるが、心が乱れた状態では本来の力を出せず損をしていることが少なくない。

辻さんは「心とパフォーマンスの仕組みを体系立てて理解するのが第一歩」と説明する。役立つのが「セルフイメージ」という考え方だ。自分の感情や心の状態を表す言葉で、心が安定して能力を十分を発揮できる状態をセルフイメージが「大きい」、やる気がわかず能率が上がらない状態を「小さい」と表現する。「一流選手は、セルフイメージを大きく安定した状態に持っていくことにたけている」という。

セルフイメージを大きく保つポイントは「自分の機嫌をうまく取ること」。セルフイメージは揺らぎやすく、天候や周囲の雰囲気、苦手な上司からの小言などですぐに影響を受ける。

だが、コントロールできる部分もある。それがセルフイメージの中核にある「自分」だ。自分という要素は「思考」「言葉」「表情」「態度」の4つから成る。この4要素をポジティブに持っていくことが重要だ。

「思考」であれば、現在自分がすべき仕事に集中する。人は過去を考えると後悔の感情に支配されやすいもの。また未来は基本的にわからないものなので、不安な感情に陥りやすい。結果としてセルフイメージが小さくなってしまう。インタビューに答えるイチロー選手は来年の目標や過去の記録に無関心のように見える。辻さんは「現在を考えることに集中しているため」と解説する。

このスポーツ心理学の第一人者としてマスコミに引っ張りだこなのが、メンタルトレーナーの高畑好秀(たかはたよしひで)氏です。早稲田大学でスポーツ心理学を専攻した高畑氏は、その理論をプロ野球、Jリーグ、オリンピック選手などのメンタルトレーニングで実践した豊富な経験を持っています。

この理論と実践が結びついた点が、高畑氏が執筆したビジネス書に人気が集まる理由の1つだと考えられます。スポーツ選手の生き方そのものに親近感を覚えることのない人や、単純なスポ根ストーリーには食傷している人にとっても、勝負師のメンタル強化には興味があるはずです。そこには、所得の多い少ないは無関係なのではないでしょうか?


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