東大工学部でのエレクトロニクス専攻者の急減と「こちら側」産業の将来
2006年04月20日
小学生の勉強嫌い、特に深刻な理数系学科離れが、怪しげなニセ科学が横行する遠因と考えた投稿をしました(怪しい学説すべてをニセ科学と切り捨てられないグレーゾーンの難しさ)。この傾向を反映して、高校生が理数系の学部への大学進学を敬遠する動きも顕著となってます。さらに学年が進んで、理工系学部の最難関東京大学理科一類の学生の専門課程の進路選択にも、大きな変化が見られてきました。情報源は、東大で電子工学の人気が急落中です。
あるニュースが、エレクトロニクス業界関係者にショックを与えている。東京大学の進学振分け、通称「進振り」での異変だ。工学部の学科の中で、「電気電子」の志願者ボーダラインが最低水準に落ち込んだのである。
東大では、1~2年の教養課程で修めた成績によって、専門課程への進学先が振り分けられる。激しい受験戦争を勝ち抜いても、大学に入ってからがまた大変。希望の学科に進むためには勉強を怠けることができない。とはいえ、主として理工学系に進む理科1類の学生でも、成績さえ良ければ文系学科に進路変更することもできる柔軟なシステムでもある。
東大工学部では、その時代の業界ごとの景況などによって人気が大きく変わってきた。筆者が学生だった20~30年前は、応用物理や建築の人気が高く、かつては花形だった船舶や金属、鉱山などは人気が落ちる一方という具合だ。そうした中で、電気電子は過去一貫して超人気、超難関のコースであり、 100点満点で80点近い成績が要求されたのである。
ところが今年、ボーダーラインが60点前後にまで急落したのである。これは「落第」の50点に近い点数だ。これまでにも、東大生の就職におけるエレクトロニクス離れ現象はあった。ある大手エレクトロニクスメーカーで内定者の入社辞退が大量発生したり、就職人気ランキングで上位から脱落するなど、学生だって世の潮目というものを敏感に読み取りながら自分自身の進路を決めている。
ただし、教養課程の学生が電気電子分野を敬遠するという傾向がこれほど顕著になったのは初めてのことである。東大生の電気電子離れをどう解釈すればよいのか――。
エレクトロニクスは、成長の見込みのない斜陽産業になるというのだろうか。あるいは、学問の世界でも、電子工学は、魅力が無くなってきたというのだろうか。しかし、これからの世の中でエレクトロニクスが果たす役割はまだまだ大きいようにも思う。それにもかかわらず、東大の電気電子にも、“ダメ学生”が増えてくるとしたら、これは大変なことだ。産業界だけでなく、官も学も見過ごすことのできない負の徴候である。
学生の進路動向が示すように、日本のエレクトロニクス産業の状況はお先真っ暗なのでしょうか。
今や日本の完全なライバルとなった韓国と日本は、薄型ディスプレイの開発の分野でも凌ぎを削っています。宿敵韓国サムスン電子の記録を抜いて、世界最大のプラズマテレビ(103インチ)を発表したのが松下電器です。量販体制も整い、今年度後半から市場に投入することが正式に発表されました。
さらに、本日発表された半導体のインテルの2006年第1四半期の決算でも、日本市場での売り上げの好調振りが現れています。情報源は、米Intelの2006年Q1決算は減収減益,日本以外が不調です。
当期は,マイクロプロセッサの総販売個数が前期から減少し,平均販売価格もわずかに低下した。チップセット,マザーボード,フラッシュ・メモリーのほか,携帯電話機およびPDA向けアプリケーション・プロセサの販売個数が前期を下回った。
地域別でみると,アジア太平洋地域(日本を除く),米大陸,欧州が当初の予測を下回った。日本は,引き続き好調なノート・パソコンのおかげで,初めて売上高10億ドルを達成した。
インテルの売り上げが日本市場で増加しているということは、インテルのCPUやフラッシュメモリを材料として生産する日本のエレクトロニクス産業の生産量も増えているということです。しかしこのことは、エレクトロニクス産業の基盤部品である半導体が、インテルを代表とする海外企業への依存度合いを高めている証左であると考えれば、手放しで喜んでもいられません。
そんなインテルCPUの牙城を崩すべく、ソニーが東芝、IBMと共同開発を進めてきたのが高性能MPUの「セル(Cell)」です。当初セルは、今春発売予定の次世代ゲーム機「プレイステーション3(PS3)への搭載が見込まれていましたが、発売は11月に延期となりました。
エレクトロニクス事業を中心に据えた再建策を進めるソニーは、液晶テレビ「ブラビア(BRAVIA)」の売れ行きも絶好調で、業績回復の兆しも感じられるようになってきました。しかし、ソニーが完全復活をアピールするには、巨額の開発資金を投じてきたセルを成功させることが必要でしょう。
ソニーの失敗に関しては、『ウェブ進化論』の著者梅田望夫氏が次のように分析しています。情報源は、「ウェブ進化論」の梅田望夫氏が語る“Googleという隕石”です。
── こちら側にいる電機産業は、コスト競争の渦、つまり梅田さんの表現を借りれば「チープ革命」に巻き込まれます。そこからの脱皮を図ろうとしたソニーは2000年ころ、「Dream Kids」という標語を掲げ、あちら側に渡ろうと試みましたが。
梅田氏 日本の電機産業で、時代の大きな流れに最も敏感だったのがソニーでした。あちら側に渡りたいと本気でどこまで考えていたかはともかく、当時の出井さんのビジョンには私も共感しました。
ただそういう方向を突き詰めていくには、企業として失うものが多すぎた。道半ばにて挫折してしまったのは残念ですが、挫折は必然だったのかもしれないとも思います。
今、日本企業の幹部の方々は、iPodで大成功したAppleのような新しいビジネスを作りたいと考えている。ただApple社も、あちら側に渡れた会社ではありません。あちら側のサービスを示しながら、こちら側のハードウエア事業で儲けている会社です。
日本のエレクトロクス産業が、突然あちら側のことばかりを考えるようになれば、大学生がこちら側のエレクトロニクス業界の将来を悲観視するようになるのも、ある意味当然の結果です。梅田氏のインタビューは続きます。
── そのころ、日本の電機業界は、研究開発の方針をシーズ指向からニーズ指向に切り替えていました。経営陣は、「研究開発者も営業に出て社会のニーズを探れ」と言っていましたから。
梅田氏 やむを得なかった面はある。2001年~2002年の電機メーカーは、経営危機に陥っていたから。
ただ、2003年ころに業績が持ち直した際、研究者の意識を元に戻さなければならなかった。残念ながら、今になってインターネットに本気になろうとしても、「Too late」、遅すぎますが、意識さえ戻せば別の領域でのブレークスルーはいくらでも生まれると思う。何かを生み出し得る超一流の技術者をもっと大切にすることです。
── Googleの先行きに死角はないのですか。
梅田氏 確かに「万能感」はありますが、神格化する必要はない。これから先、どうなるかはわからない。
私なりに解釈すると、突然変異で生まれたグーグルのような会社を真似するのではなく、基礎研究にもう一度本腰を入れれば、日本のエレクトロニクス産業も復活する可能性がある、ということではないでしょうか。そうすれば、エレクトロニクス分野に進もうとする学生の数も増えると。
ここで改めて冒頭で紹介した東大工学部進学振り分けの表を見ると、学生の圧倒的な人気を集めているのが「機械B」であることがわかります。私の勝手な解釈では、これは一人勝ち状態のトヨタ人気と表裏一体の関係にあるように映ります。
かつて日本の産業を牽引してきたのは、エレクトロニクスと自動車の加工組立型産業でした。このまま学生のエレクトロニクス産業離れに歯止めがかからなければ、日本の将来は自動車、もっと言えばトヨタ1社に頼り切った、完全な一本足打法に陥ってしまうような予感もします。
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