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売り切り型ウィルス対策ソフトに見るソースネクストのゲリラマーケティング

2006年06月05日

マイクロソフトのパワーポイントが圧倒的なシェアを持つプレゼンテーション・ソフトウェアの市場に、超低価格の互換ソフト『超五感プレゼン』のゲリラマーケティング戦略で参入したのが、ソースネクストです(プレゼンソフトを実質ゼロ円で配るソースネクストのゲリラマーケティング戦略)。

そのソースネクストが新たなターゲットに選んだのが、家庭用のアンチウィルス・ソフト市場です。大手数社による寡占状態にあるこの市場も、攻略がたやすいターゲットではありません。セキュリティソフト専業メーカーの牙城を崩すためにソースネクストが考え出したのは、またしても得意のゲリラマーケティング戦略でした。情報源は、ソースネクスト、更新料無料のウイルス対策ソフト販売へ--シェアNo.1を目指すです。

iconicon ソースネクストは5月29日、年間更新料を無料にしたウイルス対策ソフト「ウイルスセキュリティZERO」iconを発表した。7月6日から3970円で販売する。今後1年間で200万本、シェアNo.1を目指す。

既存のウイルス対策ソフトは1年ごとにおよそ3000~4000円の更新料を支払って利用することが一般的だが、ソースネクストでは、この更新料を無料として提供していく。

業界の常識を破る完全売り切り製品の投入ですが、アンチウイルス・ソフトに必須となるパターンファイルの更新サービスは、無料で永久に提供され続けることになります。 アンチウィルス・ソフト製品のビジネスモデルとソースネクストのコモディティ化戦略については、ソフトウェアのコモディティー化で詳しく分析されています。わかりやすい内容にまとまっていますので、興味のある方はそちらをご一読ください。ここでは、アンチウィルス・マーケットの特殊性を説明した部分だけを以下に引用して、その記事とは違った視点から考えてみることにします。

色々な調査機関で、企業と家庭にあるPCへのアンチウイルスソフトウェア導入率に関する調査をしています。それらの調査によると、企業においては90%代後半、家庭においては70%代後半のPCにアンチウイルスソフトウェアが導入されています。企業向けはほぼ飽和状態で、メーカは既存顧客を維持し、ソフトウェア使用更新によりビジネスの多くを成り立たせています。

次に同市場の競合状況です。ニッチ市場や完全競争市場になりやすいミドルウェア市場において珍しく、大手3社(トレンドマイクロ、シマンテック、マカフィー)で80%以上のシェアを持っているという状況です。いずれのメーカもブランドが確立していることもあり、他社が大きなシェアを獲得することが難しくなっています。

アンチウイルスベンダの収益の多くは新規ライセンス販売と更新費用です。しかし、ライセンス売り切りのビジネスではなく年間使用料というライセンス形態で、年間定額のサービスビジネスのような収益モデルです。この収益モデルもパッケージソフトウェアライセンスのビジネスでは少ないモデルです。

アンチウィルス・ソフトウェアは、本来ユーザにプラスのベネフィットを提供する製品ではありません。ユーザにとっての理想は、セキュリティ製品の必要がなくて、悪意も存在しない環境です。しかし、悲しいかな現実は理想とはほど遠く、アンチウィルスル・ソフトなしでは1日たりとも安全とは言えないのが、現状のユーザ環境です。

だからといって、ユーザのアンチウィルス・ソフトに対する印象が根本的に改善するわけではなく、使って楽しい製品になったわけではありません。積極的に欲することのない製品という性格を考えれば、ユーザとしても時間を費やして、個別ソフトの違いを評価したいという気持ちも、あまり起きないものです。

ユーザ自身の関心の低さに加えて、A社のソフトではウィルスが駆除できたのに、B社のものではできなかったので深刻な被害を被った、といような情報も問題の性質からか外部の人間の耳にはほとんど入ることもありません。

ユーザの購買パターンという点でも、アンチウィルス・ソフトは他のソフトにはない特徴があります。まず、有効期限を残したまま他社の製品に乗り換えるようなことは、アンチウィルスソ・フト場合はほとんどないと思います。もちろん現在の使用中の製品で大きな問題が起こった場合は、この限りではありませんが、その可能性が高いとは思えません。さらに、有効期限が満了した時は、深く考えることなく更新料を払って現製品のライセンスを延長するのが、大多数のユーザの標準的な行動だと考えられます。

アンチウィルス・ソフトのように必需品として使ってはいるが、消費者がブランドを選択する時の関心が低い製品は、一般に Low-involvement Product と呼ばれます。このような製品では、関心が低いが故に、ユーザはブランドをスイッチしようとも考えずに、消極的な意味でロイヤルティの高い顧客となります。結果として、マーケットシェアがほとんど変動しないという現象が見られます。

ソースネクストのマーケティング戦略の基本は、プレゼンソフトのようにマーケットシェアが固定化した無風状態の製品群で、新たな選択肢を提供することにより、消費者の購買決定における Involvement 意識を高めることにあります。

今回のソースネクストの新製品から気づいたのが、ネット直販型の外資系企業の参入により、一気に活性化した自動車保険マーケットと、アンチウィルス・ソフトのマーケットとの類似性です。できれば買いたくないが、現実問題としては購入せざるを得ないという心理面でも、自動車保険とアンチウィルス・ソフトは、共通点があります。代理店経由の国内損保しか選択肢がなかった時代は、消費者は何の疑問も持たずに現在の契約を更新していました。

一昔前の自動車保険は、現在のアンチウィルス・ソフトと同じく、消費者の関心が低い Low-involvement Prodcut(Service)でした。代理店経費を省略することで低価格を実現した新製品の登場により、消費者の選択肢も広がりました。このため、消費者の自動車保険を選択する際の Involvent も格段に高まりました。結果として、自動車保険マーケットにおける外資系の直販製品のシェアが上昇したのです。

しかし、忘れてならないのはネットの自動車保険も、低価格と併せて国内系の大手損保と遜色のないサービスを消費者に訴求している点です。単純に低価格を訴えるだけでは、消費者の「安かろう悪かろう」という先入観を打破するには、十分ではなかったはずです。

ソースネクストの新製品は、長期間にわたり使用することを想定すれば、割安なことは確かです。しかしそれだけでは、乗り換えに踏み切らせる十分な動機を与えることはできないでしょう。併せて、同社の製品が大手セキュリティ・ソフト専業メーカーと同様、もしくはそれ以上の機能を備えていることを示すことが必要です。ソースネクストの売り切り型新製品の成否は、消費者の抱く「安かろう悪かろう」という印象を、どれだけ払拭することができるかにかかっているのではないでしょうか?


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