インテルのコミュニケーションズ部門売却の噂がウィルコムに及ぼす影響
2006年06月09日
ウィルコムがシャープ製のPDA「W-ZERO3」の新バージョンを発売しました。PHS端末としての音声通話機能も備えているのですが、多機能性を理由に単純にPHSケータイというよりは、PDAと呼ばれるのが相応しい製品です。旧バージョンは発売から1カ月で約5万台、半年足らずで15万台を達成したという販売実績もあるので、新バージョンがガジェット好きの間で人気化することは必至でしょう。
旧バージョンとの大きな外見上の違いの1つは、新製品に Intel Insideロゴが付いたことです。
「中国で販売されている、Linuxを搭載したモトローラ製携帯電話の例を除けば、PCやサーバ製品以外にIntel Insideのロゴが付くのは初めて」(W-ZERO3の本体裏面に「Intel Inside」ロゴ)だということです。
少なくとも本邦初であることは間違いありません。
Intel Inside が付いたのは、W-ZERO3がインテルのPDA・携帯電話向けのCPUであるPXA270を搭載しているからです。これまでにもインテルのXScaleマイクロアーキテクチャのCPUが、日本製品に採用されてきたことはありますが、正式にブランドロゴが付くのは今回が初めてです。インテルのマーケティング関係者は、その狙いについて次のように語っています。
インテルマーケティング本部の江田麻季子氏は「ケータイのトレンドは通話からデータ(通信)へ移りつつある。W-ZERO3は、ケータイというよりは“ケータイの機能もある小さなノートPC”という位置づけ。PCとの親和性の高さ、性能の高さのブランドとして、Intel Insideロゴを使うことになった」とする。
江田氏は「これまでのIntel Insideロゴを使用したプログラムは、PCやサーバのチームがやってきたものなので、これ(W-ZERO3)については違う形を取ると思う」と話している。
PCやサーバの場合Intel Insideロゴを付けると言うことは、インテルと製品メーカーが「Intel Inside プログラム」の契約を結んだことを意味します。この契約を結ぶと、インテル側による事前チェックが必要になる等の制約も増えるのですが、製品メーカー側が出稿する媒体広告費のかなりの部分に対して、インテル側から補充金が支払われることになります。
W-ZERO3に関しても、インテルからのマーケティング・サポートを受けたウィルコムが、前バージョン以上のプロモーションを展開することが予想できます。マーケティング資金を積極的に投入することを決定した事実から判断して、インテルもXscaleに本格的に取り組んでいくはずと考えるのが普通でしょう。ところが一方では、インテルはこのXscaleを扱う部門全体を売却するという噂も聞こえてきました。情報源は、インテルがコミュニケーションズ部門の売却を検討か?--米紙報道です。
Intelがコミュニケーションズ部門の売却を検討していると、San Jose Mercury NewsやThe Wall Street Journal、REUTERSなどが報じている。
売却の対象に含まれるのは、Intel IXPネットワークプロセッサや通信機器向けのプロセッサを扱う通信プロセッサ部門や、携帯電話やハンドヘルド端末向けのIntel Xscaleアプリケーションプロセッサを扱う部門などで、同社は先ごろより、売却先候補である複数の企業に接触しているとSan Jose Mercury Newsの米国時間6月3日付けの記事には書かれている。
Intelはこれまで、コミュニケーションズ部門を築き上げるのに、100億ドル以上の資金を投じてきたが、両部門は利益をあげられずにいた。
インテルは通常この手の噂には反応しないので、真相は定かではありません。しかし、こういった報道を聞いたウィルコムが抱くであろう不安は、容易に想像できます。せっかくIntel Insideロゴまで付けて、インテル・ベースのプロセッサでビジネスを拡大して行こうと考えていた矢先の話ですから。
もしPXAシリーズのプロセッサが、これまでウィルコムと取引のなかった会社の手に渡れば、今後の製品開発計画に支障が出る可能性もあり、既存製品のサポートにも問題が生じるかもしれません。少なくともウィルコムの現場レベルの技術者の間では、「だから外資系って信用できない」といった不信感も高まっているのではないでしょうか。
さらに現在ウィルコムは、来年秋に予定している株式上場へ向けて販売力を強化中です。同社のPHS端末のフラッグシップとして位置づけられているW-ZERO3の開発にマイナスとなるような材料は、経営層としても極力避けたいはずです。
インテルがコミュニケーションズ部門の売却を検討していることが、全く根も葉もない噂とは言い切れない事情があります。各紙が報じるように、この部門はいつまで経っても赤字垂れ流し体質から脱却できない苦戦が続いています。これに加えて、XScaleマイクロアーキテクチャのCPUは、元々インテルが開発したものではないといった背景もあり、他部門に比べれば未練なく切り捨てられやすいのも事実でしょう。
Xscale系のCPUは、元々英国のARM社が開発したアーキテクチャにインテルが改良を加えてきたものです。その昔、ARM社から基本設計のライセンスを受けてStrongARM(ストロングアーム:文字通り強力なブランドネームです)というCPUを発売していたのが、今はなきDECです。DECからStrongARM事業を丸ごと買収したのがインテルです。
StrognARM事業をインテルに売却してほどなく、DECはコンパックに買収されてDECの名前は市場から消えます。さらにそのコンパックもHPに吸収合併されて退場する運命をたどり... IT企業年代記のような話になりそうなので、今日のところはこの辺で終わりにしておきましょう。
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