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ちょいモテオヤジがナビゲートするジャズタクシーは中年起業家の星

2006年07月11日

7月10日は新聞休刊日でした。平日の3日(月・水・金曜日)に発行される日経流通新聞MJの場合は、本来月曜日の分が日曜日に発行されることになります。休日の家庭で読まれることを想定したからでしょうか、7月9日発行の一面を飾ったものは、通常の日経流通の記事とは若干趣を異にしていました。それは、東京都内で個人タクシーを営む安西敏幸氏(64歳)に関するものです。

安西氏が運転する真空管アンプ(本人曰く「タクシーでは恐らく世界で1台」)とiPodを搭載するジャズタクシーは、もはや単なる移動手段ではなく、つかの間の贅沢が満喫できる大人の空間と呼べるものです。情報源は、『個人タクシー運転手安西敏幸氏――ジャズタクシー、優雅にクルーズ』(2006年7月9日 日経流通新聞MJ 1面)です。

夜7時に東京・丸の内を出発したタクシーの車内に、ルイ・アームストロングの歌声が響いた。「この素晴らしき世界」。安西が独自に企画するツアー「ジャズクルーズ」の始まりだ。真空管アンプが奏でる音はカーオーディオとは思えないほど分厚く、澄んでいる。

最初に下車するのは、安西が命名した「リトル・ニューヨーク」。月島に立ち並ぶマンションがマンハッタン、そのふもとを流れる隅田川はハドソン川だ。実はタクシー運転手らが休憩に使う場所だが、ジャズクルーズに組み込めばロマンチックな夜景に変わる。



ジャズクルーズの料金は約90分で1万2,000円ぐらい。定額制の観光タクシーではなく、あくまで通常のメーターでの営業だ。途中で曲当てクイズなどを織り交ぜながら24時間営業のパン屋で焼きたてパンを受け取り、レインボーブリッジを通過して、東京タワーや東京23区で一番高い愛宕山を訪れる。

東京在住の人ほど足が向かない場所だが、長年の経験から選び出したコースは好評だ。最近はほぼ毎晩のように予約が入り、断らざるを得ないケースも増えてきた。

「普通のタクシーはA地点からB地点へと移動するだけ。僕のお客さんにはジャズを聴くのが目当てという人もいる」。ドアを閉めれば、そこはもう異空間。タクシーという「移動手段」が、音楽と景色を楽しもうとする人にはこの上ない「ぜいたく」に変わる。

高校卒業後、自衛隊などを経て法人タクシーの運転手に落ち着いたのは、安西氏が30歳の時です。その後、全くの偶然から現在のジャズタクシーのアイデアが生まれます。

転機は1991年。個人タクシーの営業を始め、好きなだけジャズを聴けるよう、自分のタクシーにCDプレーヤーを搭載した。客を乗せる際には音量を下げるようにしていたが、ある日、音量を上げたまま賃走してしまった。客が言った。「これ、いいね」

喜んだのもつかの間、まもなく厳しい客に出会った。「音にこだわるなら、お金をかけなきゃダメだ」。受け取ったタクシーチケットから、NHKの音響技術の関係者だとわかった。「その時はムッとしたけど、すぐにオーディオ雑誌を買いあさって勉強したね」。車両に特注の真空管アンプを組み込んだ。これまでにオーディオ機材につぎ込んだ金額は100万円を超えるという。

「ジャズが聴けるタクシー」は徐々に口コミで伝わり、銀座からの帰宅などに呼び出してくれる得意先も増えた。「2時間ぐらい、観光案内をしてほしい」と言われるようになったのは2000年ごろのこと。自らの意外なニーズに気づき、ホームページを開設してジャズクルーズの告知を始めた。

恋人の誕生日祝いに使う若者もいれば、ジャズ好きな会社員の退職祝いに呼ばれたこともある。今年4月にはスポットのひとつ、愛宕神社でプロポーズに成功したカップルが2組もいた。祝い事の予約を受ければ花束とシャンパンを準備し、東京タワーのふもとで得意のハーモニカを演奏する。安西本人も、演出を楽しんでいる。

安西さんのジャズタクシーのエピソードには、中高年起業が成功するためのエッセンスが詰まっているように思えます。

  1. 確かな実力と経験が独創的なアイデアを生む
    24時間営業の焼きたてパン屋などのユニークなコース設計には、タクシー運転手としての長年の実績が活かされています。
  2. 自分がこだわりを持つ分野に絞れば長続きする
    セールスポイントである高級オーディオ機材への投資を惜しまなかったのは、最高の音でジャズを楽しみたいというこだわりあってのことです。現在のCDコレクションは3,000枚を超えます。
  3. 楽しむことを第一に考え、利益追求はほどほどにして無理はしない
    1カ月の売上高は70万円前後で、個人タクシーとしては必ずしも多くない方です。それでも、「ひたすら流せば売り上げは伸びるが、それではただの仕事になってしまう」(安西氏)。
  4. 協力者との出会いを大切にする
    「昨年開業したレコード店「ダウンタウンレコード」。店頭に並ぶビンテージレコードの一部は安西が紹介した商社マンが仕入れに貢献している。安西の客がレコード店の客になり、レコード店の客が安西の客になるという相乗効果もある。」

さらに忘れてならないのは、安西氏のジャズタクシーがこれほど広まったのには、ネットでの口コミの力があったということです。ホームページでのジャズタクシーの紹介に加え、ブログでは様々な顧客との出会いも紹介しています。


今ではジャズタクシーのことをネットで知って、地方から予約を入れる顧客も少なくありません。加えて安西氏は、mixiを利用して、世代を超えて様々な人との交流にも積極的です。例えば、「贈る花はバラ一本を箱に入れるとステキですよ」、といった若い女性からもらったアイデアも、近々実行に移す予定のようです。

青年起業家であれば、iPod、ブログ、SNSを自分のビジネスに活かすのは、今時珍しくもない話かもしれません。しかし、ジャズタクシーの安西氏の年齢は64歳です。最新のツールを積極的に活用しつつ、世代を超えたコミュニケーションを通して得たアイデアを実行に移す精神的な若さこそが、ジャズタクシーの成功の秘訣ではないでしょうか。


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