ナイキ、アディダスとは一線を画するニューバランスのビジネス戦略
2006年07月20日
世界最大のスポーツイベントであるサッカーのワールドカップは、同時に世界のスポーツメーカーがブランド力を競うビジネスの最前線でもあります。先ほど終了したドイツ大会に出場したチームや選手個人のスポンサーとして凌ぎを削ったのが、アディダス、プーマ、ナイキの3社です。
中でもアディダスを創ったアドルフ・ダスラーと、プーマを創ったルドルフ・ダスラーの兄弟間の骨肉の争いの内情は、『アディダスVSプーマ もうひとつの代理戦争』に詳しく述べられています。また、ワールドカップがビッグ・ビジネスによるマーケティング活動のショウケースに変容した経緯に関しては、82年大会で起きたマーケティングの"スペイン革命"が参考になります。
今大会出場32ヶ国の代表チームでは、アディダス、プーマ、ナイキの3社がユニフォーム・スポンサーとして採用されました。採用国数では、最多が12チームのプーマ、続いて8チームのナイキ、6チームのアディダスという順番です。ビッグ3合計で26チームに採用され、実に8割を超えるチームがカバーされています。なおビッグ3以外のブランドでは、アンブロがドイツとイングランド、ロットがウクライナのスポンサーという状況です。
- プーマ(12):アンゴラ、ガーナ、コートジボワール、トーゴ、チュニジア、サウジアラビア、イラン、パラグアイ、イタリア、スイス、ポーランド、チェコ
- ナイキ(8):米国、オーストラリア、ブラジル、韓国、オランダ、メキシコ、ポルトガル、クロアチア
- アディダス(6):日本、ドイツ、フランス、スペイン、アルゼンチン、トリニダード・トバゴ
ビッグ3の中でプーマが32ヵ国という最多数のチームを獲得できたのは、同社独自のゲリラ戦略の成果と言われています。情報源は、『短期集中連載-肥大化するサッカービジネス もう一つのW杯』(2006年6月19日 日経ビジネス 112~115ページ)です。
12ヶ国のうち5ヶ国がアフリカであるなど競合他社が協賛権を巡って競争しないような“無風地帯”を主なターゲットに選んできた。単に費用が安価というわけではない。音楽や絵画、風土などの文化面で優れた土壌を持ち、将来の経済成長も見込める途上国は有望な消費マーケットと評価しているのだ。プーマでは、費用対効果を重視したこうした投資手法を「ブルーマウンテン戦略」と呼び、様々な場面に応用している。
さて、ビッグ3に採用されたチームの戦績はどうなったのでしょうが? アディダス、プーマ、ナイキのユニフォーム採用チームの勝ち上がりの推移をまとめてみました。
| 出場(32) | 予選突破(16) | 準々決勝(8) | 準決勝(4) | 決勝(2) | 優勝(1) |
|---|---|---|---|---|---|
| プーマ(12) | ナイキ(5) | アディダス(3) | アディダス(2) | アディダス(1) | プーマ(1) |
| ナイキ(8) | アディダス(4) | ナイキ(2) | ナイキ(1) | プーマ(1) | |
| アディダス(6) | プーマ(3) | プーマ(1) | プーマ(1) |
強豪国が順当に予選を突破した今大会では、予選終了時でプーマ採用の12チーム中で、9チームが姿を消しました。さらにベスト8に残ったのはイタリアだけという結果です。おそらくこの時点でプーマのマーケティング担当者は、サッカー新興国を中心にした「ブルーマウンテン戦略」の失敗を予感していたのではないでしょうか?
採用国が6チームと一番少なかったのにもかかわらず、強豪国を集めたアディダスは、ベスト8でも3チームが勝ち上がるという、高い勝率を示しました。優勝候補の筆頭であったブラジルがベスト4以降に進めなかったのが、ナイキの最大の誤算です。ナイキはブラジルのロナウジーニョを前面に打ち出したマーケティング戦略を展開していたので、ロナウジーニョの今大会での不信も、想定外でしょう。ブラジル頼みの一本足打法でリスク分散できなかったのが、敗因ということになりそうです。
繰り返しになりますが、ベスト8の時点でサポート・チームがイタリア1つになってしまったのがプーマです。しかし、その唯一残ったイタリアが最終的に優勝するわけですから、、勝負事とはわからないものです。アディダスも、結局フランス、ドイツが2位、3位を占めたので、最終的には満足できる結果だったと想像します。今大会全体を通してのトータル・スコアでは、ナイキだけが負け組だったというのが、私の結論です。
なお、今大会で1勝もできなかった日本代表も、マーケティング的にはスポンサーのアディダスに貢献しています。これも一種のゲリラ戦略の成果でしょう。情報源は、アディダス「すそ野を広げろ!」(中)です。
日本戦の3試合。試合前の喧噪を楽しんでいた相手サポーターが一瞬、静まり返る場面があった。日本代表の青い巨大なユニホームが突如、スタンドを覆ったからだ。日本のサポーターたちの手から手へ。青い波が広がっていく。スタンドを埋め尽くした青にはアディダスのロゴも入っている。
会場にいたマーケティング担当の森下尚紀さん(34)は、「相手サポーターたちから『あれは、やられたよ』と肩をたたかれた」と、してやったりの表情を見せる。
「うれしいことに世界的な評判になった。次の大会で、他社を含めてまねする国が出るだろう」と森下さん。でもそれはすべて、アディダスジャパンの二番煎じ。試合は悔しい結果には終わったが、日本のさりげない勝利だ。
先ほど、ナイキはワールドカップ・ドイツ大会での負け組と決めつけましたが、ナイキにとってはこの程度の失敗は、本当は痛くもかゆくもないのかもしれません。今やスポーツ用品メーカーの枠を超えた不動のブランド力を、ナイキは確立しているからです。例えば、絶好調のアップルが iPod のパートナーとして選んだのもナイキです(iPodでゆるんだ体を引き締めろ)。
さらにアパレル・メーカーとしてのナイキ・ブランドの実力を示す話もあります。情報源は、『ギャップ日本法人、空席の社長決定――ナイキ出身者迎え入れ』(2006年7月17日 日経流通新聞MJ 4面)です。
米ギャップは14日、日本法人ギャップジャパンの社長に、ナイキ出身のジョン・アーマティンガー氏を迎え入れると発表した。8月中旬に就任する予定。アーマティンガー氏はナイキ・インターナショナルのアジアパシフィックアパレル部門ゼネラルマネジャーとして、日本とアジアのアパレル部門を統括していた。
ギャップジャパンの社長は今年2月にクリス・ギャレック氏が退任した後は空席が続いており、米国本社が後任を探していた
これが数年前であれば、スポーツ用品メーカーのナイキがファッション性を強化するために、ギャップから人材を招聘するというのが、業界の常識であったはずです。それが今や逆転の人事が起こるようになったわけです。アパレル専業のギャップを凌ぐ実力を、ナイキが持ち始めたことの証左と考えていいでしょう。
このようにナイキを筆頭に、ワールドカップに巨額のマーケティング予算を投じるアディダス、プーマの3社は、もはやスポーツ・ビジネスの枠を超えて、その実態は「ファッション・ビジネス」にあると考えるのが正しい見方かもしれません。しかし、これらビッグ3とは一線を画して、スポーツの「ファッション・ビジネス化」に疑問を投げかけるスポーツ用品メーカ-があります。ニューバランスです。
ニューバランスは、莫大な契約金を払い、著名プロスポーツ選手に製品を使用させるタイプの広告は、行っていません。同社が考える広告の主役も、あくまでもアマチュア・アスリートです。「FOR LOVE OR MONEY」のメッセージにも、このようなアマチュア精神重視の企業姿勢を明確に反映しています。
そんなニューバランスが現在展開しているキャンペーンが、「Walk In The Colors Of England」(ニューバランス 576をデザインしてUKへ行こう!)です。
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