IT業界のモラル低下をもたらす人材不足と地方発SE育成の取り組み
2006年07月27日
相次ぐ大規模システム障害の発生は、IT業界で働く人間のモラルが近年著しく悪化したことと無関係ではありません。システムエンジニア(SE)の責任感や倫理観の欠如について、日経コンピュータの7月10日号『やはり危機に瀕していたIT業界の「モラル」』が詳しく分析しています。その中から、5月30日から6月7日にかけて日経BP社のサイト「ITPro」で実施したアンケート結果をご紹介します。
「3年から5年前と比べ、IT業界に所属する企業や組織、人材のモラルが欠如していると感じるか?」という質問に対する答えは、以下の通りです(有効回答者782人)。
- 強く感じる 24.3%
- やや感じる 42.2%
- あまり感じない 29.5%
- 全く感じない 1.4%
- わからない 2.6%
回答者の3分の4以上がモラルの欠如を実感しています。さらに、4分の1以上が、強く感じているわけですから、事態は深刻です。
次が、モラルが欠如していると感じた具体的な事例を尋ねた質問の答えです。
この回答がSEの仕事の"実態"を表しているとすれば、新聞を賑わすシステム障害事故は氷山の一角なのかもしれません。いつ第2、第3のシンドラー、パロマが起こってもおかしくないでしょう。
IT業界全体のモラル低下の遠因は、システムエンジニアの過酷な労働実態にあります。今週発売された一般経済誌の東洋経済でも、『システムエンジニアが壊れる』と題して、10ページにわたる特集記事が組まれています。本特集は、先ほど正式に自殺が労災と認められたSEの話からスタートします。情報源は、『システムエンジニアが壊れる-報われない85万人のブルー』(週刊東洋経済 2006年7月29日号 54~63ページ)です。
今月12日、富士通のシステムエンジニア(SE)だった神奈川県の男性(当時28歳)が2002年3月に自殺したことについて、厚木労働基準監督署が労災認定を下したことが明らかになった。遺族の労災申請を業務外として退けた結果を、行政自らが覆した異例の認定だ。自殺直前1カ月の残業時間が159時間に上ることが判明し、認定を見直した。
「今月は残業120時間」「限界です」――。男性は医療系ソフトの開発部門に配属されたが、入社8カ月後の2000年末からそう漏らしていた。だがSEの小さな悲鳴が、大企業の回転を緩めることはなかった。
ソフトの納期に向け、残業時間は雪だるま式に増える。午前8時に出勤、午後10時過ぎに退勤する毎日。休日出勤も続く。自殺の2カ月前には精神科で診察を受け、「訳もなく叫んだり、壁をたたいたりしてしまう。死への願望が湧く」と打ち明けた。身も心も削るようにして迎えた納期。だがその3日後、男性は寮の自室で命を絶った。遺族は近く、安全配慮義務違反で富士通に損害賠償を請求する方針だ。
続いて、慢性的な人手不足にあるIT業界特有の長時間労働が、SEの精神をむしばむ事例も紹介されています。
日本産業精神保健学会が2004年にまとめた調査は「残業が月100時間を超えると、精神疾患発症が早まる」と指摘し、SEの労働環境が精神にもたらす負荷の大きさをうかがわせる。
SE“病理”は、医療の現場からも見える。ストレスケア日比谷クリニック(東京都)の酒井和夫院長は、「最近はSEのうつ患者が非常に目立つ。しかも彼らは治りにくい。SEのうつ対策を、医療現場と行政で考える必要がある」と指摘する。
SEの労務管理の問題はIT業界のピラミッド構造に起因しています。富士通、日立といった大手ベンダー、いわゆるITゼネコンを頂点にした下請け構造により、末端に位置するSEほど過酷な労働を強いられ、労務管理もおざなりになっています。これらの問題の原因となる人手不足問題への対策として、大手ベンダーの富士通、NECでは、失敗プロジェクトとSEの労働生産性の分析を、遅まきながらも開始しました。
業界ピラミッドの上層から人手不足対策への検討が進むとの同時に、潜在的人材供給力に富む地方でも新たな動きが始まっています。
たとえば、沖縄電力、沖縄振興開発金融公庫などが出資し設立したフロンティアオキナワ21。中国やベトナムなど海外でのオフショア開発に対抗し、「国内オフショア」としてソフト開発を受注する狙いだ。
東京ではSE不足が深刻で、これ以上の受注は開発現場を押し潰しかねない。沖縄でのSE育成が軌道に乗れば、東京―沖縄の間でウィン・ウィンの関係が期待できる。
同様の試みは、炭坑のまち・福岡県飯塚市にも。グリーンシート登録の新進企業・ハウインターナショナルは「東京でのSEコストを1人1カ月平均100万円とするなら、飯塚はその65%。30%の中国よりは高いが、言語や文化の壁はなく開発リスクは小さい」(正田英樹社長)と意気込む。
この他、札幌市も低迷する道内経済活性化策の一環として、独自のSE育成プログラムに取り組んでいます。
その1つが、日本初の『生涯派遣型雇用促進プログラム』です。
このプログラムは、企業と行政が一体となり、IT業界未経験者を教育して、3年間で360人のSEを育成するプログラムです。
『夢工房~夢をかなえる人々へ~』では、このプログラムを利用して札幌市内のソフトウェア会社にUターン就職した女性の実例が、ビデオで紹介されています。
『生涯派遣型雇用促進プログラム』が地方でのIT人材の底辺の拡大策だとすれば、『ITアーキテクト育成プロジェクト』は、現役のプロジェクト・マネージャをITアーキテクトとして再教育する高度化プロジェクトです。この目的は、道内で受注した大規模開発案件を、東京の会社に頼ることなく道内の人材で完工することにあります。また、育成プロジェクト用のテキストを共同で作成することにより、地方のITコミュニティーの活性化を図るという狙いもあります。
大手ゼネコンによる労務管理の改善策、地方初の人材開発プロジェクトなど、慢性的なSE不足を解消しようとする動きは、着実に増えつつあります。【最後の部分は、サイバー・バズの依頼により掲載しています。】
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