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日本代表の好調が続けば、生煮えのオシム語録を口走る社長が増える

2006年08月10日

イビチャ・オシム新監督を迎えたサッカーの日本代表が初戦を飾りました。親善試合とはいえ、ワールドカップ・ドイツ大会にも出場したトリニダード・トバゴを2-0で破ったわけですから、オシム・ジャパンは順調なスタートを切ったと評価してもいいでしょう。さらに今回の試合の準備期間がわずか3日しかなかったことを考えると、オシム新監督の評判もますます盛り上がってくると思われます。

オシム氏の指導力の高さは、その卓越したコミュニケーション能力にあると言われています。今週発売された週刊ダイヤモンドでは、同氏のコミュニケーションの特徴を、次の4点に分析しています。 情報源は、『オシムの話し方に学ぶコミュニケーションの極意』(週刊ダイヤモンド 2006年8月12・19日合併号 38~39ページ)です。

1. 選手をよく見て理解する

『オシムの言葉』の著者・木村元彦は、「オシムはシュートが決まっても、後ろに回った人を『いい動きだぞ』とまずほめる」と指摘する。ゴールに直結したプレーしかほめない監督の下では、得点に直接絡まないがチャンスを生み出す“ムダ走り”がなくなってしまう。

また、無名でもモラールの高い選手を選び、誰がどこをやりたがっているか常に把握しようとする。

2. 選手を公平に扱う

「ジダンやロナウドが間違った動きをしている。それを指摘できなければ監督という呼び名は返上すべきだ」。たとえば、ジェフでチーム得点王だったチェ・ヨンスに対し、歴代監督は“点さえ取ればOK”というスタンスだった。だがオシムは、「守備をしないと、お前も使わない」と告げている。

これはユーゴ時代の経験が大きいだろう。分裂前のユーゴ代表チームは、各民族のナショナリズムに翻弄されていた。試合の開催場所の民族を選手として出さなければ、監督は激しく攻撃されたのである。それでもオシムはこうした要求を無視し、「能力に応じて公平にベストメンバーを揃える」と公言し、実行し続けた。「複雑な感情で生きてきたオシムの公平さは、筋金入り」(サッカー解説者の中西哲生)。これは“選手をよく見て理解する”態度とも不可分だ。

3. 厳しい言葉をかける

「集中できずに、ピッチで寝るのなら、ホテルに帰って寝ていてくれ!」「お前、サイドで工藤(浩平)よりいいプレーができないなら、もう試合に出さないぞ」(MFの羽生直剛に)。オシムは厳しい言葉で、ミスに対する注意を選手の頭にたたき込む。だが、むやみに厳しく叱るだけでは、選手のモチベーションを下げてしまう危険もある。オシムが選手をよく見て理解し公平に扱うからこそ、厳しく言うことが効果を持つのだ。

4. 選手に考えさせる

「システムが選手を作るんじゃなくて、選手がシステムを作っていくべきだ」。オシムはトルシエ流の型にはめるサッカーに対して、否定的だ。そうではなく、ジーコが成し遂げられなかった「自由」なサッカーの前提となる、選手が考え即断することを促す言葉を頻繁にかける。「お前は確かに動いているけど、効率的かどうかはわからない」「相手のいやがるところに入るのを増やせ」(羽生に)。

やる気を高めるのにアメで釣り、ムチで脅すやり方がある。だが、オシムは違う。「モチベーションを上げるのに大事だと思っているのは、選手が自分たちで物事を考えようとするのを助けてやること。自分たちが何をやるか、どう戦うのかを考えやすくしてやる」。

サッカーという厳しい勝負の世界で、オシムが実践しているコミュニケーション術。彼の話し方から、ビジネスマンが学べることは多い。(敬称略、オシムの発言は『オシムの言葉』より)

現役の経営トップの中にも、オシムの信奉者は増えつつあります。『オシムの言葉』が企業組織を率いる経営者にも参考になると薦めるのが、自他共に認めるサッカー通の富士ゼロックス有馬利男社長です。有馬氏は経営とサッカーの共通点を次のように述べています。 情報源は、『「オシムの言葉」を経営書として読む』(週刊東洋経済 2006年8月12・19日合併号 36~37ページ)です。

経営とサッカーには共通点が非常に多い。監督はグラウンドストラテジーを考え、選手を鍛え、選抜するのが仕事ですが、実際に行動するのは選手たちです。試合が始まればピッチの中の選手が自立して、自発的に考えてプレーしなければならない。それは経営と似ています。

ゲームが始まったら手出しができないからこそ、監督はゲームのビジョンをはっきり示し、プランを持たなければならない。それには監督が現場に下りていき、選手と密にコミュニケーションを取ることが大事です。ジーコ氏は、必ずしも現場ときっちりコミュニケーションが取れていなかったのではと思いますね。

経営者が現場とコミュニケーションを取るのは簡単ではありませんが、そこで参考になるのが『オシムの言葉』です。含蓄ある豊かな表現はそれだけで読み応えがありますが、決して妥協しない姿勢、ビジョンをわかりやすく伝える方法論など、さまざまな要素が詰まっています。

選手へどういう言葉で伝えるかはとても重要です。オシム氏の言葉はただ厳しいだけでなく、思いやりや温かみが感じられます。「ライオンに追われたウサギが逃げ出す時に肉離れをしますか? 準備が足らないのです」という言葉があります。ケガをした選手にオシム氏が掛けた言葉ですが、非常に厳しいメッセージを絵でイメージできる形で、柔らかく表現しています。オシム氏は数学者を目指していたそうですが、物事をコンセプチュアルに整理してとらえる能力も並大抵のものではない。

「重要なのは、ミスをして叱っても使い続けることだ」という言葉も出てきます。これなども、経営者がやろうと思ってもなかなか実践できないことです。当たり前のことをとことんやり抜く妥協のなさ。これもリーダーにとって必要な資質です。

オシム氏の言葉を便利に使える名文句として多用すべきではないし、ジーコ氏のときのように監督を神格化することにも危機感を抱きます。それでも、オシム氏には経営者として学ぶところが非常に多いですね。

クレディセゾンの林宏社長も、『オシムの言葉』をビジネス書として推薦する経営者の1人です。情報源は、『経営トップ40人に聞く この夏 部下に薦める80冊』(日経ビジネス 2006年8月7・14日合併号 122ページ)です。

オシム氏は言葉が深い。総合力を競う試合では、資金にものをいわせ、能力の高い人を集めて勝つ方式は成り立ちにくい。この人はマネジメントでそれを証明した


セゾンカードテレビCM

富士ゼロックス有馬利男社長とクレディセゾン林宏社長には、『オシムの言葉』を経営指南書として推薦する以外にも共通点があります。
実は、両氏が社長を務める2社では、著名サッカー選手をCMキャラクターとして起用しています。

富士ゼロックスがマンチェスター・ユナイテッド(MU)のクリスチャン・ロナウド選手、セゾンカードがFCバルセロナ(FCB)のロナウジーニョ選手です。


単なる偶然かもしれませんが、こうしたCMを制作したのは、有馬社長と林社長が元々熱心なサッカーファンであったことも無関係ではないと思います。そんなサッカー通の2人が推薦する『オシムの言葉』は、本当に経営への示唆に富む書籍なのかもしれません。

なお、ロナウジーニョ選手が所属するFCバルセロナは、楽天グループとマーケティング・パートナーシップ契約を結びました。

この業務提携の一環として、8月の下旬には「楽天カード」のFCB版が登場する予定です。

楽天カードど競合するロナウジーニョのセゾンカードのCMが、再びテレビに登場する可能性はないでしょう。セゾンのキャンペーンも7月末で終了していますし。


最後に、話をオシム新監督のことに戻します。現在のオシム信奉者は、まだサッカーに関心の高い経営者に限定されているようです。今後も日本代表の快進撃が続けば、このオシム人気が日本の経営トップ層に幅広く波及する可能性も決して低くはないでしょう。

日本企業の社長訓辞に、「戦っているが、アイデアがない。何かをやろうとしなければ何も変わらない」といったようなオシム語録が、増えてくるような予感もします。しかし、生兵法はけがの元なのは、サッカーも企業経営も共通です。こなれていないまま使ってしまって、部下の顰蹙を買うことになる社長も多いのではないでしょうか?


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