宋文洲氏はカリスマ創業者を否定し、スティーブ・ジョブズ氏は超越する
2006年09月06日
SFAシステムの国内大手ソフトブレーンの創業者の宋文洲氏が取締役会長を退任しました。今後は個人としての講演や執筆等の対外活動に軸足を移す予定です。1963年生まれの宋氏は現在43歳ですので、若すぎる引退と考えていいでしょう。宋氏はこれまで意思決定が曖昧な日本経営を、舌鋒鋭く厳しく批判してきました。だからでしょうか、自らの退任の決定に関しても、明確にその理由をプレスリリースで公式に表明しています。
辞任する理由を失礼な「一身上の都合」にしたくないのでここで皆様に詳細にその理由をご報告いたしたいと思います。
ご存知の方も多いと思いますが、私は昔から「創業オーナーがいつまでも会社を経営すべきではない」といい続け、今年の始めに代表権を返上させていただきました。
「取締役会長」となった私は自分の知識と経験とネットワークを活かしてソフトブレーンに貢献しておりますが、仕事の内容は代表権を持つ時とは全く異なり、一取締役の立場をわきまえて参りました。世間ではよく見られる「もう一人の社長」、「陰の実力者」にならないように自分の言動に注意を払ってきたつもりです。
しかし、社外の多くの方々はいまだに私が「実力会長」としてソフトブレーンを動かしていると誤解し、私の個人としての言動を会社とリンクして捉えておられます。この経営実態にそぐわない「永遠の誤解」を解くことが今回の辞任の第一の理由です。
お蔭様で松田社長をトップとする現在の経営陣は社員の信頼を勝ち取り、ソフトブレーンの更なる飛躍のために確実に布石を打ち、構造調整と事業創出を推し進めております。今後は確実に成果が現れてくると確信しております。この「過渡期の終了」は私の辞任の第二の理由です。
インサイダー取引で逮捕された村上世彰氏に、自分の持ち株を譲渡して社外取締役への就任を要請したのは、他ならぬ宋氏です(「反省している。村上さんにあのことを問うていれば・・」宋文洲ソフトブレーン会長)。当時から功罪相半ばするところもあった村上氏を自ら迎え入れたのですから、ワンマンの宋会長の鶴の一声による決定、と世間に解釈されても当然でしょう。
就任を要請した昨年の7月は宋氏は代表権のある会長職にあったので、代表権を返上した現在とは直接及ぼす影響力の大きさが違うのも事実でしょう。しかし、表面上の役職の異動だけでは、世間の印象が簡単に変わらないのも、また事実です。 結局事件発覚後に村上氏が取締役を辞任することで、事態は終息しました。その辺の背景事情に関しても、宋氏本人が釈明しています(正論は村上容疑者と共に去らぬ)。
冒頭で紹介したリリースでは、創業者が長い間トップとして君臨することのリスクを述べ、今回の会長退任も既定路線のように表明しています。しかし、村上氏関連の一連の騒動が退任を早めたのは事実でしょう。代表権を返上したのが今年の1月ですから、何もなければ少なくともその後1年程度は、会長職に留まる予定であったはずです。
ここまで読んだところで、宋氏とは創業者の課題である後継者の問題も克服し、自らの信念を貫き通して退任する創業者、との印象を持った人も多いのではないでしょうか。しかし、そうした自信に溢れた創業者像も、僕がソフトブレーンの会長を辞める理由を読むと、かなり変わることになるでしょう。
いつの間にか社内の様々な場で「宋さんが言った」「宋さんが賛成した」と等身大以上の僕の像が社員を思考停止させるようになってしまったのです。社外も同じです。出版した本が運良くベストセラーになったこともあってか、僕を過大評価し、カリスマ経営者と呼ぶ人さえ出てきました。
コンサルティングの仕事の性質上、多くの経営者と知り合いにならせていただきました。その中には、世間でカリスマ経営者と呼ばれている方もいました。お話ししていると、世に言うカリスマ経営者は僕と同じような泥臭い苦労をして突っ走ってきたうちに、知らぬ間にカリスマのレッテルを張られただけだと思います。
僕は決して特別な存在ではありません。非の打ちどころがない経営者どころか、世間の常識から考えるとおかしいと見られるような経営判断も、したかもしれません。自分では大した経営の才覚などないと思っています。
経営の才がない分、ほかの人より少しでも世の中の変化や空気に対して敏感でありたいと努力してきました。今回の決断がこれまで努力してきた甲斐になるよう、今後も謙虚の気持ちを忘れずに過ごしていきたいと思います。
自らが過大評価されていることを認める、その謙虚さに好感を持ちました。同時に宋氏は、単純に成功した経営者をカリスマとして評価することにも疑問を投げかけています。私もカリスマが増殖しすぎて、本来の意味を失いつつあるように思います。しかし、同時に真にカリスマという称号に値する経営者も、少数であるが存在するのも事実でしょう。そんな数少ない現代のカリスマ経営者の一人がアップル・コンピュータのスティーブ・ジョブズCEOです。
ジョブズ氏のカリスマぶりに関して、今週発売の週刊東洋経済に『「iCon」著者が語るカリスマCEOの"課題"』(週刊東洋経済 2006年9月日 86ページ)に記事が掲載されました。その内容がジョブズ氏本人の逆鱗に触れたため、アップル非公認(unauthorized)扱いになった『iCon Steve Jobs: The Greatest Second Act in the History of Business』著者の一人ジェフリー・ヤング氏のインタビュー記事です。すでに引退を表明しているマイクロソフトのビル・ゲイツと比較して、ジョブズ氏の引退の可能性については、こう述べています。
彼はゲイツ氏のような技術屋ではなく、クール(格好いい)な技術が大好きだ。これからも大好きなものを追い続けるだろう。彼の辞書に「満足する」「落ち着く」という言葉はない。彼がハイテクの世界から離れるとは考えがたい。
彼の「何がクールか」を見極めるセンスは秀逸。アップルでは「スティーブが朝起きて何をしたいか」が事業戦略とも言われている。彼はそれだけアップルで好きなことができる立場にある。今後もクールな技術を製品化するため、有能なスタッフを集めようと奔走するはずだ。
要するに、ジョブズ氏の辞書には「満足する」「落ち着く」という言葉がない以上、当然「引退」の2文字もないということです。前回アップルを離れたのは、自らの意志に反して追放されたので、決して辞任したわけではありません。ましてや現在のアップルの業績は絶好調です。辞める理由はないでしょう。
今のところ、ジョブズ氏が打つ手はすべて成功している。しかし、彼の成功を阻むのも彼自身だろう。彼は傲慢で無愛想で気難しく、そして怖い性格だ。
彼が経営するアップルやピクサーの社内では携帯電話の個人的利用は禁止されている。社員が記者と話をするのも難しい。彼はアップルを批判するブログにかみついたこともあった。『iCon』出版時には私たちの本の発行元や本屋にも圧力をかけた。
彼のこうした傲慢さが彼の足を引っ張ることがあるかもしれない。彼はパワーを持ちすぎており、社内にダメ出しできる人材がいない。これはあまりよいこととはいえないだろう。
後継者問題もある。ジョブズ氏は自らがスポットライトを浴びるのが好きで、従業員の教育に力を注いでこなかった。今のアップルは彼のイエスマンばかりで、後継者になれる人物はいない。
イエスマンの取り巻きばかり、後継者不在等は典型的なカリスマ経営者に付随して発生する問題です。しかし、「アップルの事業戦略=スティーブが朝起きて何をしたいか」とまで言われるような状態では、いまさら長期的な企業戦略うんぬんの話も持ち出しても、異次元の話のようなものです。
企業はゴーイング・コンサーンとしてあるべきとの一般論を超越したのが、ジョブズとアップルとの関係なのでしょう。誰もジョブズ亡き後のアップルを想像したくないのであれば、むしろアップルという会社はキッパリなくなってしまってもいいのかもしれません。唯一アップル・ファンが望んでいるのは、ジョブズが不老長寿の薬を見つけてくれることなのでしょうか。
そんなジョブズ氏が得意とするのが、発表日の当日まで内容を明かさない秘密主義マーケティングです。来週の9月12日に予定されている発表会では、いよいよ映画のダウンロードサービスに乗り出すものと推測されています。iTunesに映画メニューが加わり、さらに競争力がアップするという理由で、証券アナリストはアップル株の投資判断を「BUY」の推奨としています。長期的にはポスト・ジョブズ問題という爆弾を抱えてはいても、当面アップルの牙城は盤石と見ているのでしょう。
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