宋文洲氏が嫌う創業者のトップ復帰を果たした柳井ユニクロで進む改革
2006年09月26日
昨日テレビ東京で放送された『カンブリア宮殿』に男前豆腐社長の伊藤信吾社長が登場しました。以前、私は伊藤社長を批判しているとも取れるエントリーを書いて、逆に批判を受けたこともありました。そんな私も今回の放送を見て、伊藤社長は男前と呼ぶに相応しい人物だ、と考えを改めることにしました。
来週の『カンブリア宮殿』のゲストが、外国人留学生として来日して、徒手空拳でソフトブレーンを築き上げた宋文洲氏です。そのユニークな経歴をベースにして、いわゆる日本型経営を鋭く批判している経営者としても、宋氏は有名です。当日の放送される予定の内容はこのようなものです。
成人後に来日した中国人としてはじめて東証マザーズに上場。
日本の営業の“無駄”や“矛盾”を指摘、パソコンや携帯電話などの情報機器を使ったより便利な営業支援ソフトを開発した宋氏に「ニッポンの営業」そして「ニッポン式の経営」について聞く。中国人の宋氏だからこそわかったポイントが次々と披露される。
「根性」や「足で稼ぐ」日本の営業を批判する宋氏が作った営業支援ソフトは、今や日本の大手企業の多くも導入している人気商品。具体的に、「どうすれば営業がうまくいくのか」をVTRで紹介。
宋氏は先頃ソフトブレーンの経営の第一線から43歳の若さで退きました。現在の同社での正式な肩書きは、代表権のないマネージメント・アドバイザー(日本的には顧問)となっています。その宋氏が自分の引退と、日本企業の後継者問題について次のように語っています。情報源は、『日本の真ん中で語り続ける中国籍のベンチャー経営者【逃げない43歳の引き際】』(週刊東洋経済 2006年9月16日号 92~95ページ) です。
――日本ではなかなか世代交代が進まないわけですが、43歳で引退ですか……。
世代交代というか、2代目、3代目の引き継ぎに悩んでいる経営者は多いよね。先日も、京都に本社のある企業経営者の集まりに招かれたんだけれど、そこのオーナーたちは子どもにどう継がせるかで悩んでいますね。誰でも知っている優良企業ばかりですよ。
「宋さん、俺は心配だ、どうすればいいと思う?」と言うから、僕は簡単だと言った。オーナーはできるだけ早いうちに交代するのがいい。70歳になってからやろうとするから面倒くさいんですよと。
京都の企業だけでなく、どこの経営者も同じですが、最大の問題は「俺じゃなきゃ」と思っていることです。「俺が創業してうまくいったんだから、やり続ければうまくいく」と本気で考えている。でも、それは錯覚だ。創業する才能と、その後に会社を大きくする才能は違う。
これ以降、具体的な企業の名前こそ出さないものの、宋氏の日本企業批判の舌鋒はさらに鋭さを増してきます。
最近、嫌だなあと思っているのは、多くの経営者が意識して世代交代をしているんだけど、業績が少し悪くなったからといって、舞い戻ってくる人がいるじゃない。
――まさに「俺じゃなきゃ」。
それくらいの事態を予測できないのなら、辞めないでくれよ、と思いませんか。万が一、不満があったとしても、それを理由にしてカムバックしないでほしい。不満なら、あなたじゃなくて、あなたが株主として満足できる人を誘えばいい。なぜあなたじゃなきゃいけないのか。
そもそも、現在の企業体質では限界があるからトップを交代するわけでしょう。オーナー経営者が辞めた途端、その会社の体質は変わらざるをえないですよ。それが本来の目的なんですよ。その改善の間は利益が変動することもある。
確かにオーナーがカムバックすれば、何でも鶴の一声で決まるから早いけれど、ではあなたはいつまでやるつもりなんですか、ということですよ。体質を変えるために交代したんだから、そもそもそれくらいの変動は予測してましたよね。それとも、そんなことも読めずに辞めたのですか、と。
宋氏が指摘するように、日本企業では創業社長がトップに復帰することは珍しくありません。最近では、代表権のある会長兼CEOに復帰したすかいらーくの横川竟(きわむ)最高顧問の例もあります。社長引退の3年間後に68歳という高齢で復帰した横川氏は、今回は最長で4年間トップを務める覚悟です。
その後、すかいらーくはMBOによる株式の非公開化の道を選ぶことになりました。買収金額としては日本国内最大規模となったMBOは、創業者がCEOに復帰したからこそできた決断であったのは明らかでしょう。
もう一つ話題になった創業者の復帰劇と言えば、ユニクロのファーストリテイリングです。社長の座を玉塚元一氏(現リヴァンプ共同代表パートナー)に譲った3年後に、柳井正会長は社長に復帰しました。端から見ると、ごく短期間で創業者がトップに復帰したように見える、すかいらーくとファーストリテイリングですが、一応3年程度は後継社長に任せていたことがわかります。その間創業者が実質的な権力を握り続ける院政の状態にあったかどうかは、よくわかりませんが。
前回の社長交代の失敗から学んだファーストリテイリングが、新生柳井体制の下で推し進めているのが「脱カリスマ」対策です。その柱は「委任型役員制度」と「持ち株会社化」です。この制度改革の推進役が、玉塚前社長と入れ違いでGEグループから入社した松下正取締役です。情報源は、『脱カリスマの研究-創業者の量産に新たなユニクロ式』(日経ビジネス 2006年9月18日号 62~67ページ)です。
松下は言う。「誰も柳井の代わりになんかなれっこない」。その諦めのうえで描くファーストリテイリングの未来図がある。「例えば柳井が今果たしている機能を引き継ごうと思ったら、最低4人は必要でしょうね。持ち株会社ファーストリテイリングのCEO(最高経営責任者)、COO(最高執行責任者)。それからユニクロのCEO、COOという4人です」。
柳井の代わりになるカリスマを探すのではなく、権限や責任を小さく分けて、それぞれを“小さなカリスマ”に担わせるという考え方だ。
松下は入社直後から準備を始め、2005年11月、同社の組織を大きく変える仕組みを2つ導入した。
1つは、委任型執行役員制度。“小さなカリスマ”を制度化したものだ。グループ傘下の事業子会社社長や主力事業であるユニクロの部門責任者と委任契約を結び、執行役員に任命する。契約は1年間。執行役員には、長期的な目標が課せられ、その目標を達成するための過程は全権委任される。達成できれば現金もしくは株式で大きなインセンティブが与えられる。
もう1つが、柳井に請われて作り上げた持ち株会社の仕組みだ。持ち株会社は“小さなカリスマ”たちの舵取りを監視し、必要に応じて助言を与え、経営資源を配分する機能を持つ。
加えて「事業部長や責任者と会社の社長とでは経験できるものがやはり違う。持ち株会社を作り、事業子会社をその下に作ることで、社内にどんどん社長を作り出したい」と松下が説明する通り、持ち株会社によるグループ化には、“小さなカリスマ”に経営者としての自覚を促すという狙いもある。
これに続く日経ビジネスの記事では、社内に“小さなカリスマ”(現時点ではその卵と言うべきか)が誕生しつつあることが書かれています。ファーストリテイリングの場合は、起業家精神を育む制度が整いつつあるようです。しかし、 起業家精神を涵養するのに本当に効果があるのは、正式な社内制度なのか、それとも暗黙知に近い社風なのか、という議論もあります。
活発なM&Aにより業容を拡大しつつあるファーストリテイリングですが、製品の企画、生産、販売までを一貫して手がけるSPA(製造業小売り)がその主業態であることは不変です。我が国初の本格的なSPAとしてローコスト・オペレーションを実現したのがユニクロと言っていいでしょう。ユニクロの成功の遺伝子は、やはりSPAに適した没個性的なシステム思考にあるように思います。
そんな遺伝子を持つファーストリテイリングが、起業家を輩出できる企業に脱皮すのは簡単なことではありません。事業ドメインが比較的自由に設定できたリクルートとは、根本的に違うのではないでしょうか。いずれにせよ、ファーストリテイリングの今後に目が離せないことは間違いありません。
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【追記】
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