「ロングステイ」を商標登録した経産省認可の財団が会員外の使用を排除
2006年11月08日
昨年末の投稿で、健康と環境に優しいライフスタイルを表す LOHAS(Lifestyles of Health And Sustainability、日本語ではロハス、またはローハス)という商標権を、トド・プレス社と業務提携した三井物産が商標登録した話題を紹介しました。(LOHASの登録商標からライセンス収入を目論むのは「のまネコ」の二の舞?) こうした事情から、「ロハス」を宣伝に使ったシャープが、無断使用について物産から警告を受けるという事件も起こりました。(ロハス(LOHAS)の登録商標の無断使用でシャープが三井物産とトド・プレスから警告)
今回紹介するのも、同じような登録商標がらみの話題です。普通名詞だと思って「ロングステイ」を無断使用すると、経済産業省所管の財団法人から、警告を受けることになります。情報源は、『これじゃヤクザ!? 「ロングステイ財団」が集める"みかじめ料"』(読売ウイークリー 2006年11月19日号 74~76ページ)です。
今年の7月24日、社団法人「日本旅行業協会」(JATA)から届いたメールに、会員の旅行会社は驚いたという。「登録商標『ロングステイ』などについてのご案内」と題された文書で、
「最近マスコミなどで『ロングステイ』という用語が多く用いられているが、これは『ロングステイ財団』の登録商標なので、使用する場合は同財団の許可が必要になる場合があるため、注意して欲しい」
という趣旨だった。そして、「ロングステイ財団」の主張も添付されていた。
▼2007年の団塊世代の大量退職を控え、マスコミで「ロングステイ」が取り上げられる機会が増えているが、その一方でトラブルも発生している。
▼ロングステイが新たなマーケットとして認知されつつある現在、消費者保護と旅行業界の健全な発展のためにも登録商標認識の周知徹底を望む。
▼ロングステイという登録商標の使用は、法人賛助会員への入会を前提として許可している。
▼法人賛助会員の入会金は10万円、年会費は24万円。
という趣旨だ。
これは旅行会社をターゲットにした警告書ですが、ロングステイに関する書籍を発行した出版社に対しても、ロングステイ財団が直接文書を送りつけてきた事例も、記事では紹介されています。文書の中身は、出版物に使用する場合は発行部数1部ごとに使用料を払うことや、財団に出版物の贈呈を要求するものです。さらにこの文書に続いて、財団事務局から入会催促の電話もかかってきたそうです。
そこでロングステイ財団のホームページを見てみました。「賛助会員リスト」には、大手の旅行代理店の名前がズラッと並んでいます。さらに「◇商標の使用について◇」という記述もありました。
「LONGSTAY」はロングステイ財団の登録商標です。
事前の許可なく使用することを固く禁じられております。無断使用された場合法律の定める範囲内で知的財産権を行使する場合がありますので予めご了承ください。(以下登録番号)
- 「LONGSTAY」および「ロングステイ」の登録商標を使用して出版、セミナー等を開催する場合は、事前に財団事務局までご連絡ください。無許可で使用された場合、損害賠償請求をさせていただく場合があります。
- ロングステイの名称を使用したツアーは財団の出捐企業のJTB、近畿日本ツーリスト、及び法人賛助会員各社以外の名称使用は禁じております。
- ロングステイに関するセミナー・説明会・ツアー・査証取付代行のお申込にはご注意下さい!
- ロングステイに関するセミナー・説明会・ツアー・査証取付代行のお申込にはご注意下さい!
最近、パンフレットやホームページなどを通じて、当財団の登録商標である「ロングステイ」の定義を勝手に変えたり、セミナー・説明会・ツアーの募集行為を行なっている団体があります。
財団では登録商標の使用に関しましては、ジェイティービー・近畿日本ツーリストなどの出捐企業、法人賛助会員、公益法人、テレビ・新聞に限らせていただいております。
したがいまして、これ以外の団体が本件登録商標のロングステイを使用してセミナー等の主催又はツアーの募集行為を行うことは、商標権の侵害行為を構成する可能性がありますので、応募・お申込には十分ご注意いただき、当該団体が本件商標の使用を許諾されているか否かをご確認下さいますようお願い致します。
「ロングステイに関するセミナー・説明会・ツアー・査証取付代行のお申込にはご注意下さい!」がダブっているのは、原文そのままの表記に従ったからです。偉そうに権利を主張しているわりには、間の抜けた感じもします。以下は、読売ウイークリーによるロングステイ財団の説明です。
設立は1992年2月で、当時の通商産業省の認可を受けた公益法人。「生活の源泉を日本に置きながら海外の1カ所に比較的長く滞在し、その国の文化や生活に触れ、現地社会への貢献を通じて国際親善に寄与する海外滞在スタイル」を総称して「ロングステイ」と呼び、普及・啓発運動に取り組んでいる。
具体的な事業としては、セミナーやシンポジウムを開いたり、季刊誌を発行したり、個人会員組織を運営したり。今年度の事業計画として、旅行会社との提携による財団後援ツアーの大幅増や、法人賛助会員100社入会キャンペーンなども掲げられている。
理事、監事はすべて非常勤で、会長はサントリー名誉会長の鳥井道夫氏、理事長は元特許庁総務部長の竹内征司氏が努める。
主務官庁から役人が天下ってくるような組織ではありません。公開されている平成18年度収支予算を見ると、収入が7千万円規模の財団であることがわかります。さほど潤沢な資金に恵まれた公益法人でもありません。
おそらく財団の事業基盤そのものが、「ロングステイ」というネーミングに大きく依存しているのでしょう。このため飯の種である登録商標の乱用の防止に、必死に取り組まざるをえないのだと思われます。以下は、「ロングステイ」のネーミングを財団が保有するようになった経緯についての、読売の説明です。
そもそもは、経産省の前身、通商産業省が省内に設けた「海外滞在型余暇研究会」が89年9月に発表した「LONG STAY PLAN 90」に初めて「LONG STAY」という言葉が登場した。商標出願は同年9月20日で、財団法人「余暇開発センター」が申請した。
「ロングステイ財団」の設立は前述したように92年2月なので、設立後に同センターから商標権を譲渡されたという。
この説明を読んで、その昔あった「シルバーコロンビア計画」のことを思い出しました。シルバーコロンビア計画とは、1986年に通商産業省(現在の経済産業省)のサービス産業室が提唱した、リタイア層の第2の人生を海外で送るプログラムのことです。
この計画は、国家による「老人の輸出プロジェクト」と内外から酷評され、頓挫する結末を迎えることになりました。失敗に懲りた通産省が、シルバーコロンビア計画の「移住・定住路線」を「長期滞在路線」に改めたのが、「LONG STAY PLAN 90」というわけなのでしょう。
読売の記事に戻ります。それでは登録商標を盾に入会を迫るロングステイ財団のやり方を、旅行業界関係者はどのように見ているのでしょうか?
ロングステイヤーに人気が高い国で旅行会社を起こし、日本人観光客や長期滞在者のためのサポートを行っている大島さん(仮名)に聞いた。
大島さんによると、「ロングステイ」はまだ話題先行で、実践する人は多くはない。ビジネスとしては発展途上の分野で、大島さんのような現時事業者が苦労して育てているところだという。
「ロングステイという言葉は認知されてきたので、我々のような個人事業者は使ったほうが仕事はやりやすいです。でも、現地の価格で商売していますから、日本の大手企業と同じレベルの法人会費を払うのは難しい。できれば事業が軌道に乗るまでは、使わせたもらいたいのですが・・・・」
日本国内にも、前出の野田さんのグループのようなNPO法人がたくさんある。例えば、「ワールドステイクラブ」の岡安恭子会長は、こう言う。
「今はまだロングステイを広めなければいけない段階だと思いますから、財団が商標にこだわることには疑問を感じます」
同じくNPO法人「南国暮らしの会」の宮崎哲郎理事長は、ロングステイという言葉を使う必要はあまりないと言うが、
「海外でリタイヤメント後の人生をどのように過ごすかを啓発することが財団本来の目的ならば、言葉の規制は逆効果のような気がします」
という意見だ。
関係者のコメントを聞くと、再びロハス問題のことが頭をよぎります。三井物産からロハスの商標使用料を請求されるのを嫌った企業側は、ロハスという言葉そのものを敬遠するようになりました。この結果、せっかく火がつき始めたロハス・ブームが一転沈静化することになります。
結局は、一連の騒動で企業イメージも悪化した物産側が、商標ライセンス・ビジネスを断念するに至る、というのがことの顛末です。(普及にブレーキをかけるだけのロハスの登録商標が全面解禁で決着)。
こうした批判に対するロングステイ財団側の反応についても、読売は取材しています。
「商標の扱いは財団が決めたルールであって、それを徹底させ、財団の経営を安定させることが最優先。財団の経営が将来、安定すれば、緩和することはありえます」(神山修一事務局長)
JATAへの通知は、ロングステイの知名度が高まり、普通の旅行商品にロングステイと銘打って売りつけるような業者が現れてきたため、「消費者保護」を目的に依頼したものだという。
しかし、商標登録がどのように消費者保護に結びついているのか? と尋ねると、
「それは説明できない」(同)
という。ただ、現在は出版社に対して、いきすぎた入会や使用料の要求はしていないとのこと。
どうもこの財団は、あまりたいした組織ではなさそうです。続いて監督官庁からのコメントです。
財団を管轄する経済産業省商務情報政策局サービス政策課の町井弘明総括係長も、
「財団の定義に基づかない使用をされると、ロングステイの適正な発展を阻害することになる」
と財団の姿勢に問題はないという。
ここまで読んだ人の多くは、「ロングステイの使用を解放すべし」が、この投稿の結論だと思っているのではないかと想像します。しかし、「別に今のままでもいいんじゃないの」というのが、私の結論です。
その理由の1つは、年間24万円程度の会費が支払えないような企業は、ロングステイ・ビジネスに手を出す資格がないと考えるからです。ロングステイは、いわゆる富裕層をターゲットにしたビジネスです。この程度のマーケティング・コストは十分に回収可能なビジネス・モデルのはずです。そもそも弱小資本が手がけるのは、後々のトラブルの元になります。
2つ面の理由は、財団の法人会員数の推移にあります。
平成16年になって入会会員数が2桁に戻ってきています。これは団塊世代の大量退職によって、ロングステイ・ブームが本格化することを期待した企業が多いことの現れでしょう。しかし、28という最大の入会数があったのは、財団が設立された平成4年(1992年)のことです。
設立初年度に入会した企業の多くは、おそらく今年までの15年間会費を払い続けてきたものと想像できます。入会金と合わせれば、1社当たり最大370万円を「ロングステイ」というネーミングに投資してきたことになります。こうした企業の立場からすれば、やっと投資回収の機会が訪れたと目論んだとたんに、いきなり無料で使用できるようになってしまうのは、当然容認できないことでしょう。
このように考えると、ブームを当て込んで急遽参入したような業者にまで、無料にロングステイのネーミングを使わせてやる必要もないでしょう。そもそもロングステイ・ビジネスは、多数の業者が必要なほど市場規模が大きいビジネスとも思えません。また零細業者が低コストで競争すべきマーケットでもないはずです。
但し、ロングステイ財団のやり方にも注文はあります。読売ウイークリーの記事を読んだ限りでは、「金さえ払えば誰でも会員になれる」とも解釈できそうな感じがします。会員資格には厳しい行動規範の遵守義務があって、それにより消費者保護が実現できている、といったことを理路整然と説明できなければ、登録商標の権威もゼロでしょう。
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