ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)会長兼CEO久多良木健の辞任の理由は、PS3への巨額投資によって大幅赤字となった責任を取らされたことにある、と一般には伝えられています。退任発表の翌日に、その久多良木氏を直撃したインタビュー記事が、週刊東洋経済に掲載されました。
「僕が辞める本当の理由を語ろう」と題された記事は、辞任の真相を知りたい読者心理を大いに刺激してくれました。情報源は、『直撃インタビュー60分-久多良木健 ソニー・コンピュータエンタテインメント会長兼CEO-「僕が辞める本当の理由を語ろう」(週刊東洋経済 2007年5月19日 108~112ページ)です。
――このタイミングでSCEのCEOを退く理由とは。
最先端のコンピュータテクノロジーを通じて、まだ誰も見たことのない新しいエンターテインメントの世界をクリエーターと一緒になってつくり出したい、そういう思いがプレイステーション(PS)の出発点だった。イノベーティブな技術を盛り込んで、夢のような世界を自分たちの手で実現できたらすばらしいだろうなって。その意味で、「PS」「PS2」という二つのプラットフォームがそれぞれ1億台を超えて、全世界に普及させることができたのは、たまらなくうれしかった。
そして去年の暮れに、ある意味その集大成ともいえるPS3を現実の商品として世の中に送り出すことができた。しかし、僕にとって、それが必ずしもすべてのゴールを意味するわけじゃなくて、その先に続く夢がある。PS3は主要部品の供給問題で発売がずれ込み、いろんな人たちに迷惑をかけてしまったけど、ようやく世界中に供給できる体制も整った。このタイミングで次の若い世代にSCEの未来を託して、僕はもう一つ先の夢に向かってチャレンジしたいという思いが強まった。そういう経緯で今回、自分からCEO退任を申し出たんです。
PS3の発売で一区切りがついた卒業であって、巷間伝えられるような業績低迷の引責辞任ではないという説明です。キレイゴト過ぎて、隠された真実を期待した、読者心理を満足させてくれるものではありません。
――これから挑戦したい夢とはいったい、何ですか。
僕の夢は、PS3のような最先端のコンピューティングのパワーを使って、もっと楽しくて、便利で、みんなが驚くようなネットワークの世界を実現すること。PS3はそのための小さいながらも大きな一歩と表現したほうが正しいかもしれない。
ネットワークの世界の進化は目覚ましいものがある。しかし、まだサーバーの処理能力などがボトルネックになって、現実にはいろんな制約がある。でも、そこに大きなイノベーションが起きて、仮想現実の世界が楽しめたり、いろんなデジタルコンテンツをリアルタイムで簡単に楽しめる、世界中のみんなとコミュニケーションもできる、そんな何でもできちゃう魔法のような世界がネットワークの向こう側に誕生したら、みんなワクワクするよね。
しかも、単に楽しむだけじゃなくて、そこでは世界中のみんながコンピューティングパワーを結集して、社会や人類の未来に役立つようないろんな取り組みもできるようにしたいんだ。僕がイメージしているのは、そういったネットワークの新たな世界観。PSといった特定のプラットフォームの枠を飛び越えて、もっと大きな視点から、それにチャレンジしてみたいんですよ。
「このオヤジは何夢みたいなこと言ってんだ?」って思う人もいるだろうけど、僕は至って本気。みんなもいずれは、「なるほど、久多良木は昔、こういうことを夢見ていたんだな」って理解してくれる時が来ると思う。これから10年~20年の間にネットワークの世界は劇的に進化して、そんな夢のような世界が現実のものになるはずだから。
確かに昨年9月に開かれた「東京ゲームショウ2006」でも、久多良木氏は『「PS4」はネットワークサービスになる』とその夢の一端を明かしています。この点では同氏の夢のロードマップとSCEのロードマップは、綺麗に一致していました。
――そのためにSCEを離れる必要があるとは思えませんが。
だって、CEOというのは、経営に全責任を持つわけだから。その状態のままで自分の夢だけを追いかけるわけにはいかないよね。気分的には若いつもりでいたけど、僕ももう56歳。ソニーグループを見渡しても、僕より年上の人間はずいぶん少なくなった。うちの父親は63歳のときにガンで亡くなったんだけど、自分もその年齢にだんだん近づいてる。だから、少しでも早く夢の実現にチャレンジしたい、それに専念したいっていう思いが強くなってきた。
SCEを離れることになった理由として、自身の年齢をあげていますが、実際には今回の辞任と年齢とは無関係に思えます。半年前はSCEのトップの夢として語れたネットワークサービスが、今では久多良木個人の夢でしかなくなった、ということでしかないと理解すべきでしょう。
現実主義者のストリンガー・ソニー会長から、もはや久多良木氏の夢には付き合え切れないと、引導を渡されたというのがやはり真相だと思います。PS3は失敗作ではないかという質問には、こう答えています。