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ソニーがロケフリ製品向けにプレイスシフト(placeshift)を商標登録

2007年01月13日

先日の投稿で、ユニクロが「すててこ」をカタカナの「ロングトランクス」というネーミングにしてネット限定販売したところ、完売続きで大成功した話題を紹介しました(ネーミングの罠「すててこ・ロングトランクス」と「個人請負・IC」)。今度は、ソニーがテレビ映像をネット経由で外部から視聴できるようにする製品、「ロケーションフリー(略称ロケフリ)」iconに、新たなキャッチコピーを導入してマーケティング展開することを明らかにしました。情報源は、『「placeshift」、ソニー、商標登録』(日経産業新聞 2007年1月11日 13面)です。

ソニーはテレビ放送をインターネットで転送する技術に関連する造語「placeshift(プレイスシフト)」を日本国内で商標登録した。自宅で普段見ている番組をネットを使って国内外など場所を問わず視聴可能にする専用機器「ロケーションフリー(ロケフリ)」の概念を日本で浸透させるのが狙い。

ロケフリ機器の市場は、都市によって番組が大きく異なる米国で先に広がっている。日本でも利用を促すには「一般消費者に機能を分かりやすく説明する必要がある」(LFX事業室の前田悟室長)とみており、今後、プレイスシフトを広告のキャッチフレーズなどに活用するとみられる。

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この記事を素直に読むと、ソニーは「ロケーションフリー」よりも「プレイスシフト」にした方が、「一般消費者に機能をわかりやすく説明できる」と考えていることになります。英語の「placeshift」という言葉は、動詞として通用しているので、欧米圏では一定の効果が期待できるのは、確かでしょう。今後は、日本でも「ロケーションフリー(R)はソニーのシフトプレイス(R)製品」といったようなコミュニケーション戦略を展開して行くことが予想できます。

しかし、ロケーションフリーという言葉は、これまでのソニーのマーケティング努力もあり、日本ではそれなりに浸透しているのではないでしょうか? すでに「ロケフリと言えばソニー」という印象が強かったので、今回の決定はマーケティング・コミュニケーション戦略上でも、混乱を引き起こすことが懸念されます。

さらに、いまさら日本人にとっては聞き慣れない「プレイスシフト」という言葉を持ち込むのは、現状での高いブランド想起率のアドバンテージ(ロケフリと聞いて最初に思いつくブランドがソニーとなる確率が高い)を、わざわざドブに捨てるようなものではないでしょうか?

また、この年末にはスカイパーフェクト・コミュニケーションズ(スカパー)でも、1つの契約で複数の部屋でも視聴できるように、ソニーのロケフリ製品の販売を始めたばかりです。そのキャッチコピー「チューナーは1台でOK!他の部屋でもスカパー!が楽しめる”ロケーションフリー(R)”登場!」でも、商標であるロケフリを全面的に打ち出しています。

このタイミングでの戦略転換には、どうも解せない部分も多いように思います。実は「プレイスシフト」というコピーを導入した本当の理由は、この記事の後段部分に隠されていました。

プレイスシフトは1970年代にソニーと米映画会社の間で「ベータマックス訴訟」が持ち上がった際、創業者の一人、故盛田昭夫氏が使った「タイムシフト」をもとに前田氏らが考案した。同訴訟ではVTR販売に伴う著作権論争が話題となったが、故盛田氏は時間に縛られずにテレビ番組を見られるビデオの効用をタイムシフトに込め、正当性を主張したという。

プレイスシフトという言葉はソニーの前田氏の造語ということになっていますが、本当でしょうか。Word Spyには、「placeshift」を動詞として次のように説明しています。

placeshift v. To redirect a TV signal so the viewer can watch a show on a device other than his or her television.

Earliest Citation:
The Slingbox connects to and "placeshifts" content from any cable box, satellite receiver, or personal video recorder (e.g. TiVo).
―"Sling Media Receives $10.5 Million in Series A Funding from Mobius Venture Capital and DCM," Business Wire, November 9, 2004

「placeshift」の初出は、Slingboxとされています。念のためにWikipediaでの「placeshifting」の語源(history)を見ると、こうなっています。

The history of place shifting both commercially and legally begins with time shifting. Time Shifting is the ability to watch content in a desired time slot. The best examples of time shifting are the VCR and Tivo

Placeshifting began when two brothers traveling on a business trip remarked to one another how they were missing a playoff baseball game back home. From that one trip emerged the idea for the Slingbox from Slingmedia.

Released as a consumer electronic product in the summer of 2005, the Slingbox allows you to take the feed from your cable or satellite set top box and send it to your laptop over any broadband connection, thereby placeshifting the TV signal from one location to another.

「placeshift」はVTRの「timeshift」の同時に生まれたとの説明は、日本の新聞記事と同じです。しかし、実際に「placeshift」のコンセプトを実現した製品が初めて表舞台に登場したのは、ここでもSlingmedia社のSlingboxということになっています。これらの情報から考えると、「placeshiftと言えばSlingboxやTivo」が米国内での常識なのでしょう。

米国ソニーのHPでは、「Location Free」だけで「placeshift」という単語は見当たりません。米国では他社製品を想起させるリスクが高い「placeshift」という言葉の使用を避けているのかもしれません。

ところで、これまでソニーはロケフリ製品を、テレビCM等で大々的にアピールしてきませんでした。その背景には、同社のロケフリ製品を使ったサービスがテレビ局の持つ著作権侵害にあたるとして争われてきた経緯があるからです。いわゆる「まねきTV」事件に対して、昨年末に最終的な司法判断が下りました。情報源は、番組のネット転送「まねきTV」、知財高裁が認める決定です。

海外出張先などで日本のテレビ番組をインターネット経由で視聴できるサービスは著作権法違反だとして、NHKと在京キー局5社が民間業者を相手にサービスの中止を求めた仮処分の申し立てを巡る抗告審で、知財高裁は22日、申し立てを却下した東京地裁決定を支持し、テレビ局側の抗告を棄却する決定をした。

このサービスは永野商店(東京都)の「まねきTV」。市販の装置を使い、テレビ番組を専用ソフトを組み込んだパソコンなどにネット経由で流す。加入者が購入した機器を有料で預かる。

三村量一裁判長は「視聴するための接続環境を提供しているだけ。機器から転送された番組は1台しか受信できず、不特定多数に対する送信には当たらない」と述べた。

知財高裁の抗告却下を受けて、テレビ局側は最高裁へ不服を申し立てるため、その事前手続きとして「抗告許可の申し立て」を提出しました。その結論は今月末にも出る見通しです。しかし、専門領域を扱う知財高裁の判断は尊重されるので、放送局の論理が最高裁で認められる可能性は1割以下と予想されています。

したがって、このまままねきTVのサービスが合法と認められる確率も極めて高いことになります。そうなれば、これまで大々的なマーケティング活動を控えていたソニーにも、ロケフリ製品を積極的にプロモーションする道が開けたことになります。

また、これまで模様眺めを決め込んでいたソニー以外のベンダーも、知財高裁での決定を契機としてこの市場に参入してくることが予想されます。そこでソニーは先行する自社のポジションを盤石なものにするためのマーケティング・キーワードとして、「シフトプレイス」を選んだのではないでしょうか。

ソニーが「シフトプレイス」という言葉を使うことにしたのは、VTR訴訟で勝訴した「タイムシフト」のケースと同様に、ユーザの正当な権利を実現するソニー、というポジティブな印象を強調したいと考えているのでしょう。さらに、既に「ロケフリ」を商標登録しているソニーとしては、「シフトプレイス」を商標に加えることで、他社の追撃を排除したいという狙いもあるはずです。

しかし、英語では一般動詞化している「shiftplace」という言葉に対して、他社の使用を制限するような振る舞いをソニーが見せれば、関連マーケットの拡大に足かせがかかり、結果としてソニーのイメージダウンを招く可能性もあります。最悪の場合、ロハスの商標登録の場合と同じ問題が起きることになります(普及にブレーキをかけるだけのロハスの登録商標が全面解禁で決着)。「シフトプレイス」の他社の使用の可否について、ソニーがどのように対応していくのか、興味が持たれます。


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