一澤帆布、男前豆腐、ホームページが語る複雑なブランド事情
2007年02月17日
先代が残した2通の遺言状の真贋をめぐり、兄弟間で骨肉の争いを繰り広げたのが一澤帆布工業株式会社です。遺言状問題に関して最高裁の判決が下ったことで、終息したかに思えていた争いが、昨日新たな展開を迎えました。情報源は、『一澤信三郎帆布』は商標権侵害 兄が弟を提訴です。
お家騒動で分裂した京都の人気かばん店「一澤帆布工業」を経営する長男一澤信太郎さん(61)らが、新ブランドを立ち上げた三男、信三郎さん(58)ら旧経営陣に、商標権侵害による損害賠償など計約13億円の支払いを求め14日、京都地裁に提訴した。
訴えによると、三男は平成17年3月「一澤帆布加工所」を設立。昨年4月には「一澤帆布工業」の近くに「一澤信三郎帆布」を開店し、類似した商号を使った競業により損害を与えたとした。そのほか三男夫婦らが株主総会の承認を得ずに受け取った役員報酬の返還なども求めた。
お家騒動は13年、兄弟の父が死去したことが発端。遺産相続が訴訟に発展して17年末、長男と4男が3男を社長から解任。全従業員が三男の新店舗に移ったため、一澤帆布は一時閉店し新体制で昨年10月再オープンした。
試しに「一澤帆布」のホームページを見てください。トップページの次に来るのが、平成19年2月15日付けの「提訴に当たって」というページです。つまり、一澤帆布のサイトを訪れた人は誰でも、否応もなくこの長文のメッセージを見せられることになるわけです。信三郎氏の営業妨害行為を縷々述べた、2,800字を超える本文の最後は、こう結ばれています。
「私達は、一澤帆布のカバンを愛用してくださるお客様のことを第一に考え、その再開を目指して努力してまいりました。お陰様で、お客様・お取引先・その他のご支援を受け昨年10月16日一澤帆布の再開を果たし、現在どうにか製造販売を続けていく目途がたったところです。
私達は従来から、信三郎氏の発言内容を一方的に伝えるマスコミ報道に少なからず心を痛めてまいりました。しかし、製造販売を再開することこそ、一澤帆布のカバンを愛用してくださるお客様に応える唯一の道と信じて、私達は信三郎氏に対する反論は控え、最終的には、司法の場で明らかにする以外にないと考えてまいりました。
そして、兄弟間とは言え、信三郎氏らのとった一連のルール違反については、きちっとした清算をする必要があると考え、今回の提訴に踏み切った次第であり、皆様のご理解を得ることができればと考えております。
提訴された一澤信三郎帆布側もホームページですばやく反応しています。「お知らせ」での信三郎氏本人のメッセージに加えて、「スタッフメッセージ」も用意した念の入りようです。
一澤帆布工業さんのホームページをご覧になりましたか。
心が痛みます。心が苦しいです。
解決済みの問題を、今更持ち出してくるとは理解に苦しみます。一澤帆布工業さんのホームページ上での一文に
『従業員は、ミシンなどの製造機器・原材料・型紙など全てが持ち去られた一澤帆布に残っても、生活の糧を得ることなど不可能であり、信三郎氏のもとに移っていきました』とありますが、冗談じゃありません。一澤帆布工業に製造機器・原材料・型紙などがあろうと無かろうと、残留する者など一人もいなかったでしょう。従業員は、信三郎氏を信頼し、「信太郎氏・喜久夫氏のもとでは働けない(経営者として相応しくない)」と自らが判断し、一澤帆布を去ったのです。
私たちが残してきた看板や伝統に胡坐をかいていこうとする人には、魅力が無かったのです。
スタッフのメッセージとは言え、自社のホームページに載せるには情緒的過ぎる内容でしょう。両社の争いが営業上の利害を超えて、感情的なもつれとなってしまった状況を如実に表すもので、まさに泥仕合の極みです。
裁判はあくまでも双方の主張を、客観的な証拠に基づき判断するものです。したがって、部外者には裁判の行方は想像することもできません。但し、ホームページでのメッセージの伝え方からは、両社の現状を想像することは可能です。
一澤帆布は、「製造販売を再開することこそ、一澤帆布のカバンを愛用してくださるお客様に応える唯一の道と信じて」という言葉通りに、とりあえず営業再開にはこぎつけました。再開はしたものの、かつてのブランドネームだけで顧客を取り戻すことは、予想した以上に難しかったのではないでしょうか?
一方、新ブランドが好調な信三郎帆布からは、もはや骨肉の争いは過去の事件として、業務に専念したいという思いが伝わってきます。
一澤帆布が提訴に踏み切らざるを得なかったことは、同社の置かれた状況がそれだけ厳しいものである事情を物語るものでしょう。今回の提訴によって、一澤帆布のブランドネームがさらに傷つくことは確実です。例え裁判で勝訴したとしても、そのことが顧客から見たブランド価値の復活を意味するわけではありません。両社の長引く泥仕合は、顧客には何の関係もないことですから。
類似ブランドを抱える複雑な事情があるのは帆布だけには限りません。2つの「男前豆腐」ブランドが誕生した背景については、以前お伝えした通りです(篠崎屋傘下に入った三和豆友食品と絶縁した男前豆腐店の今後の展開)。その後、男前豆腐店では両社の違いを明確に表現するようになりました。これが現在の同社のトップページです。
一方の三和豆友食品では、資本関係がない2社から同一ブランドの商品が発売されていることに関して、ニュースリリース「三和豆友食品株式会社と男前豆腐店株式会社の関係について」でこう述べています。
弊社、三和豆友食品株式会社(1989年設立)と、男前豆腐店株式会社(2005年設立)は、別会社であり、いかなる資本関係、製造委託、交流もございません。
(中略)
「男前豆腐」を2社で製造・販売している背景と弊社の今後の姿勢
「男前豆腐」は、弊社の従業員であった伊藤信吾氏が、弊社在籍時、そのネーミングを行い2003年3月6日より弊社、三和豆友食品株式会社より発売した商品でございます。弊社は発売時より、一部地域を除く全国で「男前豆腐」の製造・販売を継続致しております。
男前豆腐店株式会社は、先の伊藤信吾氏が、2005年の弊社在籍(弊社前常務取締役)中に設立した会社でございます(設立時は男前豆腐店有限会社)。伊藤氏は、同社を設立後、関西圏において同社より「男前豆腐」の製造・販売を開始致しました。
以上の理由から2社で「男前豆腐」を製造・販売する結果となりましたが、2003年3月6日の発売時から「男前豆腐」を製造・販売しております弊社におきましては、発売当初より味・品質も維持しておる中で、製造中止を行う理由は無く、現在及び、今後も継続して発売当初より変わらない味・品質の「男前豆腐」を製造・販売して参ります。
双方共通のメッセージは「2社は資本関係のない別の会社で、各々独自の製品を提供している」です。一澤帆布のように互いを批判するようなこともありません。要するに、紛らわしいかもしれないが、現状で問題なしというスタンスです。
しかし、2つの製品を誤認・混同して迷惑を被っているは消費者です。いつまでこうした曖昧な状態を続けていくつもりなのでしょうか? 厳しい見方をすれば、これも単に製造者の事情が優先された結果だけのように思えます。派手な泥仕合に発展していないだけで、消費者不在という点では一澤帆布の場合と大差なし、とは言い過ぎでしょうか?
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