業績下方修正でストップ安した翌朝に朝日新聞を飾るAMI鈴木清幸社長の笑顔
2007年02月18日
新聞各社が現在力を入れているのが、週末のみに配られる別刷り版です。朝日新聞の場合は現在「be」という別版で、土曜日のビジネス系(青)、エンターテイメント系(赤)と、日曜日のエンターテイメント系(緑)の3種類があります。
3月からは、この緑にテレビ番組の紹介したコンテンツも加わる予定です。ビジネス系(青)の一面記事「フロントランナー」には、注目のビジネスパーソンの人物像を掘り下げた内容が掲載されるので、毎回楽しみにしています。
2月17日の「フロントランナー」を飾ったのが、独自の音声認識技術を有するベンチャー企業のアドバンス・メディア(AMI)社の鈴木清幸社長でした。まず記事の中から、AMI社の設立に関する部分を、抜粋して紹介します。
東洋エンジニアリングのプラント技術開発者から、日本の人工知能の草分け的な企業であるインテリジェントテクノロジーに転職した。人工知能の普及につながるインターフェースを模索するなかで音声認識技術に注目、起業を決意した。
会社設立後、しばらくの間は赤字経営が続いたが、需要が大きい分野に特化して徹底的に実用性を追求した製品を作り込み、市場を開拓する戦略が成功した。04年3月期に黒字化を達成。06年3月期の売り上げは19億5000万円(単体)に達した。
鈴木社長がAMIを作ったのは45歳の時です。続いて、インタビューの中から創業期の苦労にまつわる部分を紹介します。
――アミボイスの技術は、独占的に使えるのですか。
鈴木 認識エンジンの部分は、米カーネギーメロン大の音声認識研究チームの研究者が立ち上げた会社と共同で創っていましたが、06年に我々がソースコードを買い取り、自ら開発できるようにしました。現在は、独占的な権利をもっています。
――当初は、売り上げが伸び悩んだと聞きましたが。
鈴木 エンジンそのものの販売ビジネスを展開したのは失敗でした。「音声認識は使えない」というイメージを持っている人が多かったことも市場化を妨げました。赤字が続き、03年3月期の累損は20億円に達しました。ただ、これは誇りでもあります。よくここまでこられたと。日本を代表するような大企業も、音声認識の開発に何百億円も投資しているんですから。
――どん底の時期は何を考えていたのでしょう。
鈴木 不安はありませんでした。夜明け前が一番暗いと言うじゃないですか。私たちの音声認識技術は不連続のイノベーションを起こすもの。つまり、今までなくてもよかったものです。それがなくては困るものに変わっていったときに、売り上げがぐっと伸びるんです。02年後半から、マーケティング戦略を見直し、音声認識の需要が大きい分野に特化した製品の販売を始め、業績は好転しました。
この記事を読んだ多くの人は、創業期直後の「死の谷」を乗り越えたAMI社には、バラ色の将来が待っている、といった印象を抱いたのではないでしょうか? 2005年には東証マザーズに上場されたAMI社を、有望な投資対象として興味を持った人がいても不思議ではありません。
独自の音声認識技術の成長性が注目されて、株価も当然順調に上昇トレンドにあるだろう、と考えて先週末の金曜日の株価を調べてみると・・・・
なんと驚いたことに、ストップ安 でした。
<マザーズ>AMIがストップ安比例配分――2884株の売り残す(2007/02/16 15:28)
(大引け、コード3773)終日売り気配のまま推移し、大引けで値幅制限の下限(ストップ安)となる前日比4万円安の20万5000円で比例配分された。比例配分で201株の売買が成立し、ストップ安水準で2884株の売り注文を残した。
音声認識システムを手掛ける。15日に2007年3月期通期の連結最終損益が13億5000万円の赤字(前期は1億3100万円の赤字)になりそうだと発表。従来予想より赤字幅が13億円拡大するため、売りが膨らんだ。顧客の外部環境の悪化による受注機会の逸失などを理由としている。〔NQN〕
月曜日の株価が上場来安値の20万円を更新することも濃厚です。これまでの黒字予想から、一転して赤字へと修正最することになった理由について、同社のプレスリリース(PDF)では次のように説明しています。
当期は金融・製造業などの大型案件獲得に注力しましたが、第4四半期の売上高は期初の見込みを大幅に下回る見込みです。案件大型化に伴う受注獲得にいたる期間の長期化、見込み客の外部環境変化による受注機会の逸失に加え、モバイルソリューションビジネスの立ち上げに当初の予定より時間がかかったことが主な要因です。
また、受注及びアフターサポートのための営業経費(開発経費を含む)やソフトウェア償却費が増加したことから原価率が上昇する見込みです。来期以降の音声事業拡大のために人員増強・モバイル分野への先行投資を継続的に行うことにしたため、販売管理費は下半期も上半期とほぼ同額になる見込みです。
AMI社では、今回の業績悪化に対する経営責任を明確にするために、鈴木社長以下取締役全員の役員報酬を25%減額(PDF)することも発表しています。
こうした事情を考えると、実にタイミングの悪いときに朝日のbeは記事になったものです。通常この種の記事が出れば、職場でも話題になり社員の士気も上がるのでしょう。しかし、今回のように業績不振の話を聞かされた直後であれば、意気を高揚する効果もまり期待できません。新聞記事を読んだ鈴木社長の知人や友人も、祝福の連絡をしたいと思っても、躊躇してしまうのではないでしょうか?
beの記事を書いた朝日の記者も、同社の決算発表を知って当惑していることでしょう。しかし、実際には同社の業績の回復に関して疑問を投げかける記事は、先月末の段階で登場していました。情報源は、『AMI、音声認識ソフト開発――市場、早期成長に疑問符』(日経金融新聞 2007年1月29日 1面)です。
音声認識ソフトを開発するアドバンスト・メディア(3773)の株価の上値が重い。1月上旬に上場来安値の20万円を付け、現在も30万円前後で推移する。2006年3月期に続き9月中間期も連結経常損益が赤字になり、事業の早期成長が疑問視され始めたのが主因だ。鈴木清幸社長は営業強化や製品戦略の見直しを打ち出すが、成長銘柄の期待を取り戻すのは容易ではなさそうだ。
06年9月中間期の連結決算は、売上高が電話営業会社の買収により前年同期単独比73%増の15億8,400万円と伸びたが、経常損益は5億5,800万円の赤字(前年同期単独は4,800万円の黒字)に陥った。
現在の株価水準は昨年1月の上場来高値(143万円)に比べ8割前後下落。中間期の利益が大幅に期初計画を下回ったため、07年3月期通期業績の下方修正の可能性も高く、株価の一層の重しになりかねない。
朝日新聞の記事は、AMI社の業績を疑問視する声にはまったく触れることなく、鈴木社長が語ったバラ色の未来がベースになっています。朝日の取材時には、AMI社が正式発表以前の決算数字を、記者に明かすこともできたかったので、業績に関してネガティブな内容が盛り込まれなかったのも、いたしかたがないのかもしれません。そのような事情を斟酌しても結果から判断すれば、経済専門新聞に要求されるバランス感覚が、朝日の記事には欠けていたとい言わざるをえません。
さらに、もっとうがった見方をすれば、単年度の決算内容が思わしくないからこそ、鈴木社長がAMI社の「中長期的な成長性」をアピールする場として、朝日記事を利用したという推測も成り立ちます。これは私の邪推が過ぎるのかもしれませんが... 大幅な下方修正が予想される決算発表が間近に迫った時期に、取材を受けた鈴木社長の姿勢に疑問を感じてしまうのは、私だけでしょうか?
朝日新聞が鈴木社長に注目したのには、記事中にも書かれていた次のような材料が、影響していたと想像できます。
06年、創造性や革新性、ビジネスモデルの優位性などが評価され、優れた起業家を表彰する「アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー(EOY)・ジャパン」に選ばれた。
どれほどの権威がある賞かはわかりませんが、確かに今年度の「Entrepreneur Of The YEAR JAPAN」日本代表には、鈴木社長が選ばれています。EOYとはまったく別な賞ですが、同様にベンチャー起業家を顕彰する賞としては「日本イノベーター大賞」というものもあります。2002年にこの「日本イノベーター大賞」優秀賞を受賞していたのが、環境ベンチャーのイー・エス・アイの京塚光司社長です。
その京塚社長は、先日詐欺容疑で逮捕されました(東大卒のエリート熟年起業家イー・エス・アイ京塚社長が転落した理由)。ベンチャー起業家として、この種の賞を受賞することは本人にとって励みとなることは確かでしょう。しかし、受賞したからといって、その後の事業展開も順調に進むことを保証するものではないことは明らかです。もちろん、最期には犯罪に手を染めるようになった京塚氏と、AMI社の鈴木社長を同一視するようなつもりは毛頭ありませんが、受賞者としての栄誉と投資対象としての的確性は、まったく別の次元の話と理解すべきでしょう。
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