ドラマ「ハゲタカ」のカリスマ創業者の手紙とスターバックス・シュルツ会長のメモ
2007年03月12日
NHKがテレビドラマ復活を期して制作したのが、毎週土曜日放映中の経済ドラマ「ハゲタカ」です。 このドラマは、2004年に発表された真山仁の同名の小説「ハゲタカ」を原作としています。昨年来のホリエモン、村上ファンド等の経済事件によって、外資系投資ファンドの存在が身近なものとなり、連続ドラマの題材として選ばれることになりました。
テレビを見たことがない人のために、以下に簡単にあらすじを紹介します。情報源は、『注目の経済ドラマ「ハゲタカ」を語る-ファンド資本主義は日本社会をどう変えたか』(週刊東洋経済 2007年3月10日 98~103ページ)です。
米国の投資ファンド「ホライズン・インベストメント・ワークス」の敏腕ファンドマネジャーである鷲津政彦(演じるのは大森南朋)と、大手都銀・三葉銀行のエリート幹部である芝野健夫(柴田恭兵)の対決を軸に展開される。かつて鷲津は三葉銀行丸の内支店に勤務しており、芝野は当時の上司だった。
貸し渋りによる取引先の倒産と経営者の自殺に直面した鷲津は銀行を去り、米国へ渡る。そして5年後にホライズンの日本代表として帰国した鷲津は、不良債権ビジネスを通じて三葉銀行と対決。芝野との再会を果たすことになる――。
昨日、その第4回目「激震! 株主総会」が終わりました。
2004年。莫大な資金を背景にNY本社から「大空電機」の買収を命じられる鷲津。一方、企業再生家となった芝野は、社長の塚本(大杉漣)から同社の再建を依頼される。かつての名門大空電機も今や赤字にまみれ、創業者である現会長の大木昇三郎(菅原文太)は癌を患い瀕死の状態。
筆頭株主となった鷲津は、赤字部門の切り離しを芝野らに迫る。だが、それは大空電機の下請け工場である由香の実家の工場の閉鎖も意味していた。かつて、自らの貸し渋りで死に追いやった由香の父親のことが忘れられない鷲津は、深い苦悩を抱えたまま株主総会に挑む。
あくまで合理性を訴える鷲津に対し、病床の大木からのメッセージが届き、会社への切なる思いが伝えられる。情に訴えた形で戦いは芝野らが僅差で勝利。
今回放送分のクライマックスは、カリスマ経営者と呼ばれた創業者大木会長の手紙を、株主総会の場で芝野が代読する場面です。手紙には、終戦後の混乱期に起こした町工場を、現在の総合家電メーカーまでに一代に築き上げた、創業者の熱いメッセージが込められていました。創業者の強い信念に動かされた出席者が、会社側提案に賛成票を投じるという形で、株主総会は無事終了することになります。
「創業の原点に帰る」という言葉は陳腐なようではありますが、カリスマと呼ばれる人間が語ればそれなりの迫力のあるもので、現在でもよく使われています。それは日本人経営者に限ったことでもありません。
この2月には、スターバックスのハワード・シュルツ会長が社内向けに送ったメモがインターネット上に流出しました。「スターバックス体験のコモディティ化」(The Commoditization of the Starbucks Experience)と題されたメモは、会長自らが現状のスターバックスを否定し、原点回帰の必要性を強く訴えるものでした。
危機感に駆られたとは言え、現役のトップ経営者が語るにはあまりにも衝撃的な内容であったために、流出当初はそのメモの信憑性を疑う声も多かったようです。しかし、それが本物であることは後日スターバックス自身によって確認されました。
800語に及ぶこのメモの中でシュルツ氏は、過去10年間にわたって事業を拡大させるために行ってきた数々の意思決定が、「スターバック経験の希薄化」と「ブランドのコモディティ化」を招いたと述べています。当時としては最適の判断(部分最適)だった個々の意思決定が、全体として合わさると最適な結果(全体最適)ではなかったのではないか、というのがその論点です。
現在のスターバックスが創業時の原点から離れてしまった例として、シュルツ氏が具体的に指摘した部分は以下のようなものです。
For example, when we went to automatic espresso machines, we solved a major problem in terms of speed of service and efficiency. At the same time, we overlooked the fact that we would remove much of the romance and theatre that was in play with the use of the La Marzocca machines. This specific decision became even more damaging when the height of the machines, which are now in thousands of stores, blocked the visual sight line the customer previously had to watch the drink being made, and for the intimate experience with the barista.
「効率性を狙って導入した自動エスプレッソ機がかつての「ロマンスと劇場的な雰囲気」を失わせた。背の高い機械が顧客の視界を妨げ、バリスタ(コーヒー職人)の作業を目にする機会を奪っている」
We achieved fresh roasted bagged coffee, but at what cost? The loss of aroma -- perhaps the most powerful non-verbal signal we had in our stores; the loss of our people scooping fresh coffee from the bins and grinding it fresh in front of the customer, and once again stripping the store of tradition and our heritage?
「焙煎済みのパック詰めのコーヒー豆の販売に変えたことで、顧客の前で豆を煎るる伝統がなくなり、店舗の最大の魅力であるはずのコーヒー豆の香りも失ってしまった」
Now that I have provided you with a list of some of the underlying issues that I believe we need to solve, let me say at the outset that we have all been part of these decisions. I take full responsibility myself, but we desperately need to look into the mirror and realize it's time to get back to the core and make the changes necessary to evoke the heritage, the tradition, and the passion that we all have for the true Starbucks experience.
最後に、「真のスターバックス体験」をもう一度取り戻すために、街角のコーヒーショップとしての原点に戻る必要性を強く呼びかけています。以前の投稿 秋の夜長のコーヒーブランド物語(スタバ、タリーズ、エクセシオール)の中で、シュルツ氏は正確にはスターバックスの創業者ではないことを書きました。
コーヒー豆の販売を中心としていた同社を、今日の近代的なカフェ・チェーンに作りかえた人物がシュルツ氏で、やり手のビジネスマンという印象を強く受けていました。しかし、今回のメモを読んで、コーヒーショップの伝統に対する強い愛情を持っている人物であることを再認識しました。
シュルツ氏の創業の原点に帰れとのメモは、あくまでも同社の幹部宛に送られたものです。しかし、これを読んだ社外の人間のほとんどが、カリスマ創業者ならではの顧客価値を重視する姿勢に共感したと思います。スターバックス・ファンならずとも、そのブランドに込められた重さを感じたことでしょう。
しかし、冷静な株式アナリストがシュルツ氏のメッセージをどう解釈したのかは、よくわかりません。常に具体的な解決策を求める投資家の視点に立てば、創業者の熱いメッセージも、感傷的と切り捨てられてしまったのかもしれません。結局は、創業者が抱いた危機感を従業員がどのように共有して、具体的な解決策をいかに見出していくのか、ということでしょう。
冒頭に紹介したドラマ「ハゲタカ」の大木会長が病床から寄せた手紙は、株主に向けたものです。結果的に遺言となった創業者のメッセージが、株主総会出席者を感動させるというのが、ドラマのクライマックスです。ドラマの中とは言え、情緒的なメッセージに感動した株主が、会社側提案の賛成に回るというのは、冷静に考えるとあまりにも日本的すぎる結論のようにも思えます。そうは言っても、その方がドラマとしては面白いことは確かなのですが.....。
なお、現状に危機感を感じた企業トップが私信という形で自らの考えを伝えることは、米国企業では珍しいことではありません。ネットが普及したおかげて、スターバックスのシュルツ氏のメモのように、そうした内容が外部の人間の目に触れる機会も増えてきました。
2005年の10月にはマイクロソフトのビル・ゲイツ会長が幹部に宛てた「Internet Software Services」と題したメモが、流失したことがあります。(MSのゲイツ会長、IT業界の「大変化」に備えるよう幹部に指示)。社内向けのメッセージが漏れたとしても、社外の人間もうならすことができる示唆に富んだ内容を書ける経営者は、今の日本にどれくらいいるのでしょうか?
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