大学院進学、転職、資格取得で独立とライフカード的に進むサラリーマン人生
2007年04月16日
ビジネスマンがキャリアップのための選択肢として考えるものに、「大学院進学」と「資格取得で独立」と「転職」の3つがあります。時としてライフカードのCMさながらの選択肢に悩まされて、現在の仕事には身が入らなくなってしまう人もいるようです。その典型例が、週刊東洋経済に紹介されていました。情報源は、『目標を見失ったらタダの趣味-猛勉強でもリターンゼロ』(週刊東洋経済 2007年4月14日号 78~80ページ)です。
大手金融機関に勤める中尾雅俊さん(仮名、34)は、18年前に早稲田大学の系列高校に通い始めたときから資格ガイド本を読んでいたという。司法試験にあこがれ、東大法学部を志したこともあった。
しかし、あまりにも高いハードルに足がすくんだ。司法試験も東大受験も早々にあきらめ、早稲田大学政治経済学部への内部進学を決めた。「早稲田では法学部よりも政経のほうが偏差値が上だったからです。人生に箔をつけるためには、高い学歴のほうがいいでしょう」。
東大受験を断念したとしても、早稲田の政経学部に入学できたのですから、結果オーライと考えるべきでしょう。元来勉強好きの中尾さんは、学生時代は英語資格の取得に邁進して、卒業後は研究者を目指して一橋大学経済大学院に進学します。
学生時代は英語の勉強に励み、英検準1級は3回目のチャレンジで取得。TOEICは730点、TOEFLは540点に達した。
早稲田大学を卒業後、一橋大学経済大学院に進学。ここで中尾さんは2つの挫折を味わう。1つは、研究者の道を断念したこと。
決められた学習内容をコツコツこなすのは得意だが、自分には前人未到の新しい理論を生み出すような意欲はない。「学び好き」を自認していたが研究者になれるような創造性はなく、自分は単なる「試験勉強好き」だったと、優秀なクラスメートを目の当たりにして気づいた。
もう1つの挫折は、文系の院卒は多くの企業から敬遠され、第1志望の会社に就職できなかったことだ。早稲田の学部4年生のほうがはるかに売り手市場だった。大学院卒で「就職市場価値」が上がると信じていた中尾さんは、焦りを感じた。
英語力などを必死でアピールして、現在の金融機関に滑り込むことができた。 しかし、入社以来一貫して中小企業への営業担当。英語を使ったことは一度もない。
研究者としての適性がなかったとしても、さらに第1志望の就職先には不合格になったとしても、安定した大手金融機関に職を得ることに成功したのですから、普通の人であれば十分に満足すべき結果です。しかし当の中尾さんの頭の中には、入社直後から転職願望が巣くっていました。
それでもTOEICを定期的に受けて、700点台を維持している。「いつか転職したいので、英語力はキープしておきたいんです」。一方で、入社2年目に受けた宅建(宅地建物取引主任者)の試験には不合格。不動産を担保にして融資することが多いため、宅建はTOEICよりはるかに自分の仕事に近い資格だ。「仕事が忙しくて、片手間で勉強していたからです。甘く見すぎてました」。
大いにプライドを傷つけられた中尾さん。翌年には米国公認会計士(CPA)に挑戦し見事に合格。「英語力と同時に、グローバル基準の会計制度をマスターできる。転職には絶対に必要だなと思いました」。
当時ブームであったCPAの資格には首尾良く合格することができました。ブームに乗っただけとはいえ、CPA資格取得を機会に自らの専門を会計分野に絞りこんだようです。だからといって、勤務先の金融機関での仕事に活用しようとの発想は、まったく芽生えてきません。今度は、公認会計士資格を取得して監査法人への転職を考えるようになります。
中尾さんは、日本の公認会計士資格を取得して高給の監査法人に転職し、貯金をしながら腕を磨き、独立するという夢を描き始める。一緒にCPAを取得した会社の同期が退職し、1年間の勉強で公認会計士試験に合格したのがきっかけだった。
「でも、彼は東大卒なんです。僕の頭だと3年間はかかるでしょう。この年齢でプータローはできませんよ」。かつて司法試験や東大受験をあきらめたように、公認会計士の夢もさっぱり捨てた。プライドが高いのか低いのかわかりにくい人だ。
中尾さんの現実逃避型の転職・独立願望は、まだまだ収まりません。30代を目前にして長期的なキャリアゴールは税理士に変更します。その理由は、税理士試験では毎年少しずつ合格科目を積み重ねていけばよい、と現実的な解決策を見出したからです。
1年後、まずは1科目を受験したが敗退。「公認会計士に比べたら楽勝だ」とたかをくくっていた中尾さんはまたしても自信を喪失してしまう。「このままでは、5科目合格するのに10年はかかりそうです……」。
気持ちが落ち着くのに1年ほど要したが、あるとき宅建を受け直してみることにした。すると、わずか3カ月の受験勉強で合格。以前の勉強時間を合わせれば正確には3カ月ではないのだが、とにかく中尾さんは再び前向きになった。俺はできる! と。
現在、中尾さんのライフプランは次のとおりだ。寝る間を惜しんで勉強し、40歳までに税理士資格を取る。そして、より高給の会社に転職して働きながら不動産鑑定士を取得し、60歳で定年を迎えたら、「税理士+不動産鑑定士」として独立する。34歳にして定年後のことを考えているから驚きだ。気になるのは、将来の「独立」プランは目を輝かせて語るのに比べて、現在の仕事についてはあまり触れようとしないこと。
最後は、資格取得でキャリアチェンジの夢にあくまでもこだわる中尾さんの近況です。この長いキャリアストーリーのオチとなる部分です。
「営業ですか? つまんないですよ。成績も下から数えたほうが早いです。でも、中小企業のオヤジにぺこぺこ頭を下げるような仕事でいちばんになっても仕方ないでしょ。早く税理士になって転職しますよ」
その割に勉強は進んでいないようだ。当初、週に最低10時間は勉強する目標を立てたが、現在は週に2時間ほどしか勉強していない。
「実は、最近、彼女ができたんです。毎週末泊まりに来るので一人の時間がなくなっちゃったんですよ」
中尾さんは照れ笑いをした。料理上手なかわいい彼女だという。
就職してから10年、故郷から遠い地方都市で一人暮らしを続けてきた。持て余した週末の時間を資格の勉強で潰していた面もあるのだろう。もしかすると、中尾さんにはもう資格はいらないのかもしれない。
振り返ってみると、中尾さんは「大学院進学」「資格取得」「転職」の中で、「転職」だけはいまだ未経験ですし、独立できるだけの「有望資格」も取得できていません。「転職願望」と「試験勉強」も、安定した仕事があるサラリーマンに許された高尚な趣味、という見方が妥当なようです。
恋人のできた中尾さんのライフカードの選択肢には、「結婚」という新しい切り札が追加されました。真剣に「結婚」を考えるようになれば、「転職」カードが「出世」カードに置き換えられることになるのかもしれません。これまでの中尾さんのキャリアを考えると、今さら現在の金融機関での「出世」を目指すのは、少々遅すぎるような感じもしますが...。
東洋経済の記事の結びには、中尾さんのような「資格マニア」のために、「'お勉強好き'資格のお買い得(損?)マップ」がまとめられています。
大手資格スクールでテキスト作成や学生カウンセリングをしている津山英治さん(仮名、40)は、多くの人は「実」ではなく「名」を取りたいのだと説明する。
津山さんは、資格取得に際して、二つの要素が大事だという。〔1〕勉強自体が楽しい、〔2〕資格に対する本人の適性。
多くの受験生を見てきたカウンセラーとしては、〔1〕は非常に重要だという。勉強を「楽しい」と思える資格ならば順調に合格する可能性が高いが、その一方、むきになって猛勉強しているのに何年も落ち続けてしまう人がいる。資格学校にとっては上客だが、本人は苦しいだけだ。
〔2〕は、学習期間が一つの目安になるという。
「それぞれの資格には適性があります。社労士なら2年が限度かな。3年以上勉強しているのに受からないならば、適性がないとあきらめたほうがいいでしょう」
津山さんに、人当たりがよくてユーモラスな中尾さんの話をすると、「その人は資格スクールの講師向きだ」と即答した。資格の落とし穴の奥は深い。
この「'お勉強好き'資格のお買い得(損?)マップ」は、あくまでも現在の市場価値をベースに分析したものです。数年後にはどうなっているかは、誰も正確なところはわからないでしょう。サラリーマンの趣味として資格試験を考えるのではなく、真剣にキャリアチェンジの手段として位置づけている方は、くれぐれも挑戦する資格の選択には慎重に。
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